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嘘はバレなければ嘘にはならない
しおりを挟むジリリリリ、スマホから流れてきた音に俺の脳は一瞬で目覚めた。
もう少し休んでいてもいいんじゃないか、働きすぎじゃないか俺の脳、と思うくらい素早く目覚めた。
ベッドから体を起こし、欠伸を一つ溢す。机の上のカレンダーに目が行き、今日が水曜日だと確認した。
あの、マネキン先生から腐男子の本性を隠し切ったあとにワンコ属性腐男子と出会った帰りで病気を発症した幼馴染を元に戻せ事件から、丸々1週間が過ぎた。
「あー…ずっとここで寝ていたい」
思わず本音が漏れる。
ずっとこの部屋で誰にも会わず一歩も動かず、スマホの中のBLだけを楽しみに生きていたい。そんなことは無理だと分かっているからこそ、求めてやまない。
ベッドと体を再会させる前にベッドから降り、学校へ行く準備を始めた。
本日の天気は雨。あと少しすれば梅雨に入るのだろう。
大多数の人間から嫌われているじめじめとした季節の到来はすぐそこだ。
みんなが嫌いでも俺はお前を愛してやるよ。外に出なければいいだけの話だからな。
「行ってきまーす」
いつもの時間に家を出る。すると同じタイミングで目の前の家から奴が出てきた。
紺色の傘を差して俺の家の前で足を止める。俺も透明のビニール傘を差して、奴に近付いた。
「おはよう」
「おはよ」
「今日の放課後、俺ん家でゲームやろ」
「えっ…今日、水曜日だよな?」
「そうだけど。曜日の感覚狂った?おバカさん?」
「ちっげーよ。水曜日はクラスの連中と遊ぶのが日課じゃん。てかそれが約束なんだろ、あいつらとの」
「それはもうどうでもよくなった」
「はぁ?」
まさかとは思っていたが、そのまさかだった。これは俺の心身的に非常にまずいことである。
礼於はその生まれもった容姿の良さと誰とも気さくに話す性格から男女ともに好かれている。
そんな彼とお近づきになりたい生徒はたくさんいて、高校に入学したときからクラスメイトのお誘いは後を絶たなかった。
しかし変な病を拗らせている彼は、学校では仲良くするけど放課後は拒否の姿勢を崩さず、不思議に思ったクラスメイトたちがその理由を見つけるのに時間はかからなかった。
登下校を一緒にしてる時点で俺と奴が幼馴染だと言うことは知れ渡り、放課後までも一緒に過ごしてることへの批判は何故か奴ではなく俺へと向かう。この世界で最も不思議なことの1つだ。
人間は、欲しいものを手に入れるために欲しいものは傷付けず、それに一番近いものを傷付ける。
それが当たり前で悪いことだとは感じない。
善意だと思っているところも摩訶不思議発見である。
俺はその状況を奴に伝え、毎週水曜日の放課後はクラスメイトたちと遊ぶように促した。
その条件と引き換えに、俺は家から出ないで大人しくしてること。
そんなこと言われなくても行きたい場所もやりたいこともないのですんなりと受け入れた。
渋々クラスメイトたちもそれで納得して早1年2ヶ月、それが崩れたことはなかったというのに。やはり、原因は先週の出来事だろう。
「お前はどうでもよくても、俺はよくないんだけど」
「なんで?」
「またクラスの奴らに文句言われるし嫌がらせされる」
「そんなことはさせない。俺もそろそろ疲れたから八方美人はやめるし学校でもしたいようにするから」
「え、どゆこと?」
「白犂と移動教室も昼飯も休み時間もトイレも全部一緒にいる」
「はぁ!?いや、待て待て待て待て」
嘘だろ。症状が悪化している。
たったあれだけのことで、ここまで悪化するものなのか。
これでは俺のBLライフの均衡が保てないではないか!
「礼於、落ち着け。そんなことは無理だ」
「…何が無理なわけ?嫌だとか言わねーよな?」
「いいか、礼於はイケメンで性格良くてクラスの人気者。そんな礼於が俺だけと一緒に過ごすなんてクラスの士気が悪くなるし、平穏な学校生活の道が閉ざされる。及び俺の腐男子生活も脅かされる」
「そのことだけど白犂もいい加減、腐男子やめろよ」
「えぇぇ!?な、な、何てことをおっしゃるんですか!?」
腐男子をやめろだと?この俺に?それは俺に死ねと言ってるのか?
いや、こいつは俺を殺したがってるんだよなそれなら納得…出来ねぇよ!
こんなことを言われたのは初めてで俺は軽いパニックになる。何とか奴の思考を元のレールに戻さなければならない。再出発希望です。
「なんで男同士の絡み見て楽しいわけ?理解出来ない」
「いや、それは別に理解してもらおうとは思わないんですが、それを取り上げようとするのは人権を無視するものであって、それよりも腐男子はやめようと思ってやめられるものでもないので…」
「じゃあこういうのは?俺とお前がBLみたいな絡みをしてそれを写メったり動画撮ったりした物を見る。おお、これでいいじゃん」
「それはBLではないですレオサマ。俺の求めるBLは自然体で生で見ることが大事なので自分は絶対含まれないのです。俺から腐男子を取ったら何も残らないのでこれだけはお願いします何でもしますから!」
「え?何でもするって?」
あ、間違えた。大切なものを奪われそうになるとき、それを必死に守るべくするりと出てきてしまう常套句。
一応人間の俺にもそれは有効だったらしい。今すぐに訂正したいが一度言った言葉は戻らないし無かったことにはならない。
にんやりと口角を歪ませて笑った悪魔の幼馴染は嬉々として口を開いた。
「俺と家族以外の人間と喋らないで」
「…それは、今でもほとんど喋ってないようなものだけど」
「バカっぽいコンビニ店員とも気味の悪い数学教師とも喋らないで。二度と。話しかけられても無視しろ」
「何という暴君」
「分かった?返事は?」
「はーい」
俺は簡単に返事をした。ここでこの返事以外をしようものなら、学校に行けなくなるからである。
俺も学校になど行きたくないが、行かねば母親に叱られる。ついでに父親にも叱られる。
そしたら携帯を止められる。携帯を止められたらBLの世界から引き離される。そういうことだ。
「絶対だよ?約束な?」
「うん約束約束。ちなみにその理由を聞いても?」
「白犂には必要ない人間だからだよ。17年一緒にいる俺が言うんだから間違いない。そうだよな」
「…そうだな。じゃ、その約束を守るから水曜日は今まで通りクラスメイトと過ごして俺のBLライフを守ってくれよ、愛しのレオサマ」
「おう任せろ」
約束は、破るためにあるものである。嘘はバレなければ嘘にはならない。これが俺の人生のモットーだ。
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