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恋人とのハグを幼馴染に目撃される
翌日の文化祭2日目は、壮真が来てくれた。
久しぶりに会うから少し緊張したが、俺のメイド姿に興奮しまくってパシャパシャ写真を撮りまくっていたのにはちょっと引いた。
ヘラヘラとしながらも絶対俺の側を離れなかった執事姿の響弥にも壮真は、チャラ男の執事服キター!ご主人様に襲われるのか襲うのかどっちも捨てがたい…!と腐男子脳を働かせていた。
その件についてはぜひとも熱く語り合いたいところだ。
他校の、長身で小麦肌のたれ目イケメンと俺たちはどういう関係なのかと主に響弥へ詰め寄っていた女子たちを、得意のヘラヘラ顔で捌いた金髪ゆる男はさすがとしか言い様がない。
「はぁ~やっと終わったねぇ」
「めっちゃ疲れた。文化祭とか滅びればいいのに」
「もう終わったことだし滅んだようなものだよ~」
クラスの出し物終了時間となり、俺と響弥は片付けをしている教室ではなく、更衣室で着替えをしようとやって来た。
ようやくこの忌まわしきメイド服と一生おさらば出来る。
このあと後夜祭があるらしく体育館に集まらなければいけない。その後でクラスメイトたちは打ち上げをしようと盛り上がっていた。
もちろん俺は、とっとと帰ってBL小説を読むという仕事兼生き甲斐をこなさなければならないから、行かない。
「白ちゃん、この格好で記念に2人で写メ撮ろうよ~」
「1人で自撮りしてインスタにでもあげれば?」
「インスタなんてやってないし白ちゃんと撮るから意味があるんでしょ~?」
「絶対誰にも見せない、流出させないと約束してアイスを奢るなら撮ってやらんでもない」
「おっけ~。ふふ、本当に可愛いなぁ」
そしてこの2日で執事服がかなり馴染んだ金髪ゆる男は自分のスマホを取り出してカメラを向けた。
身体を近付けられて金髪ゆる男の頬が俺のつけてるウィッグに押し当てられる。
スマホを持っていないもう片方の手は俺の頭に添えられて、そのままシャッター音が何回か響いた。
「うん、よく撮れてるし俺たちお似合いカップルだねぇ」
「自分で言うな。もう早く着替えてメイク落としたい気持ち悪い」
「ほとんどノーメイクみたいなものじゃ~ん。ナチュラルメイクなのにこんなに似合うのは童顔で女顔だからだよねぇ」
「これがナチュラルなのか?全然俺じゃないみたいなのに」
「ウィッグと洋服でそう見えるだけだよ~。顔は全然いつもの白ちゃん。あ~ぁ、今回の文化祭で白ちゃんのファンがまた増えちゃうなぁ」
「はぁ?俺のファンなんているわけないし、それは響弥のことだろ」
「……無知って罪だよねぇ」
意味の分からないことばかり呟いている金髪ゆる男は置いといて、俺はテキパキと元の姿に戻っていく。
猫耳カチューシャとウィッグを引ったくるように取って、ニーハイソックスを脱ぐ。さすがに恋人にパンツを見せるのはどうかと思い、スカートの下から制服のズボンを履いた。
胸元のリボンをシュルリと解き、黒いミニスカのワンピースと白いフリルのエプロンを床に落とした。
Yシャツを着ようと手を伸ばしたところで、背中に刺さる視線が痛くて俺は響弥を見上げて口を開いた。
「…お前も早く着替えろよ」
「白ちゃん、早く上着て。それとも少し触っていいの?」
「…触りたいの」
「……うん、触りたい。でも白ちゃんと心を繋げることが先だから、我慢させて」
ぐっと何かを堪えるような表情をする恋人から、本当に身体より心を繋げたいんだという気持ちが伝わってくる。それが愛おしくて、嬉しかった。
「……抱き締める、くらいならいいんじゃないか」
「え…」
「俺、もうだいぶお前に心が近付いてる…ような気が、するし…」
「し、白ちゃん…っ」
「っていうか俺が今、響弥を抱き締めたいって思ってる。……ダメか?」
「全っ然ダメじゃない!!すごく…、嬉しい」
そう言って泣きそうな顔で笑う響弥。俺はYシャツを着て素早くボタンを閉め、恋人に向かって手を伸ばした。
「ん」
「白ちゃん…」
少し背伸びをしながら金髪がかかる首もとに腕を回して、そのまま引き寄せられるように俺たちはお互いを強く抱き締めた。
柑橘系の香りがふわりと鼻孔を擽る。安心する香りだった。
しばらくそうして抱き合っていた俺たちが満足しあって身体を離そうとした、とき。
ガチャリ、更衣室の扉が開いた。
驚きのあまり咄嗟に動けなくて俺たちは抱き締めあったまま、顔だけを入り口に向ける。そこに立っていたのは。
「………なに、してんの」
執事服姿の、幼馴染。
「なにしてんの、ってかとっとと離れろよ」
間髪入れずにもう一度同じ言葉を言ったあと、奴は不愉快さをできるだけ表したいとでも努めている如き表情で、投げ捨てるように言葉を続けた。
俺は頭が真っ白になりながら慌てて響弥から身体を離そうとしたが、そんな俺の行動を響弥は腰に腕を回し、きつく抱き締めて制した。
「離れないよ~。だって俺たち、恋人だもん」
「…いいからとっとと離れろっつってんだよ!!!」
底力のある、訴えるような叫ぶような声。
奴はすごくイライラしているようで、瞳の奥には憎悪とも嫌悪とも言える激情がはっきりと見てとれた。
着替えに来たのであろう場所で男同士が抱き合っていたら、確かに驚くし早く離れて別の場所でやれと思うのは当然だ。
しかし奴の声と表情からは、別の意味が含まれているような気がした。
「きょ、響弥!俺はメイクを落としに行ってくるから、早くお前も着替えろって。な?だから離して?」
「…分かったよ~。メイクはどこで落とすの~?」
「昨日も自分で落としたしクレンジングも持ってるから、適当に水道のとこで落としてくるよ」
「ここから一番近い水道でしてねぇ。俺っちも着替え終わったら、すぐに行く~」
「了解!」
名残惜しそうに離れた響弥の腕から抜け出して、俺は荷物を乱暴に掴んだ。
まだ扉の前で今にもこちらにナイフでも飛ばしそうな殺気を立たせている幼馴染の横を駆け足で通りすぎ、俺は一目散に水道目指して走った。
***
顔をバシャバシャと水で洗う。無心になって洗っていたから、前髪まで濡れて泳いだ後のようになっていた。
鞄からタオルを出してその中に顔を埋めるようにして拭く。タオルが水を吸収してあっという間に湿りを帯びた。
「はぁー…」
我慢せずにはいられなかったため息が、更衣室の反対側にある建物内に広がる。
体育館に向かってる生徒たちの姿が見下ろせる場所だった。
この文化祭中、絶対に視線を合わさないようにしていた。なるべく、近付かないようにしていた。
あの、家の前でしたやり取り以来、俺たちは文字通り疎遠になっていた。
奴は相変わらず芹沢さんと上手く行っているようだったし、俺は響弥との時間を過ごしていた。
ただのクラスメイト、ただの顔見知りとなった俺たち。そう仕向けたのは、俺だ。
その事に後悔などしていないはずなのに。これで全てが丸く収まったと思っていたのに。
奴の顔を見ただけで、声をかけられただけで、横を通り過ぎただけで。
どうしてこんなにも、心が波立つんだろう。
俺は深く沈みそうになる気持ちを、頬を両手で叩いて無理やり引き上げる。
頬がジンジンと痛みを訴えていて、それが逆に俺を冷静にさせた。
考えても仕方がない。17年も一緒にいたんだ、すぐに切り替えることの方が難しい。
時間が経てばこれが当たり前となって、きちんと受け入れられるはずだ。
そうして、俺も次第に奴を思い出さなくなれるんだろう。
早くその時が来ればいいと、まだやって来ない恋人の姿を心待ちにしながら、思った。
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