怖がる後輩は見栄を張る

御厨カイト

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怖がる後輩は見栄を張る

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コンコン

「先輩、まだ起きていますか?……ちょっと開けますよ」

ガチャ

「なんだ、起きているじゃないですか。起きているならちゃんと返事してくださいよ」

「あぁ、ごめんごめん。イヤホンしてたわ。それでどうかした?」


俺がそう答えると彼女は少し固まってから話し始める。


「えっとですね、突然ですが今日は特別に私が一緒に寝てあげます!」

「……はっ?」

「ですから、私が特別に今日、先輩と一緒に寝てあげるって言っているんです」

「……いきなりどうしたの?」

「どうしたのって、さっきまで、先輩がホラー苦手なくせにホラー映画を泣きそうになりながら見ていたからですよ。だから、どうせ後で一緒に寝ようと言われると思ったから、先に私が来たまでですよ!」

「あぁ、なるほどね。でも……大丈夫だよ?今回の映画は怖かったけど、そこまででは無かったからさ。だから心配しなくて大丈夫。というか、流石に1人で寝れるよ」


俺は心配してきてくれた彼女に向かって、そう言う。
だが、何か彼女の様子がおかしい。
まだ、この部屋に居たいような雰囲気を出している。


「こ、後輩の前だからってそんなに強がらなくてもいいですよ。先輩が前回ホラー映画を見た時に朝まで眠れなくなっていたことを知っているんですからね」

「うぐっ、確かに前にそんなこともあったけどさ、その時はお前も一緒に見てたよね。お前は何にも感じなかったの?」

「当たり前でしょう。私はホラー大丈夫なんで、何とも感じませんでしたよ」

「いや、嘘つけ。次の日の朝、俺もまぁひどい顔していたけど、お前も目の下隈出来るぐらいげっそりしたよね?それ見て『あっ、同類なんだ』と思ったよ、俺は」


俺がそう言うと彼女は俺から目をそらす。


「……もしかして、ホラーを見て怖くなって眠れなくなったから、俺のところに来たはいいけど自分から一緒に寝たいと言うのは恥ずかしいから見栄を張った……という事か?」

「……」

「図星か」

「ち、違いますよ!先輩が一緒に寝たいかなと思ったから来ただけですよ!」


うーん、こりゃ意外に固えな。
仕方がない、折れてやるか。


「はぁー、そう言う事にしてやるから。こっち来い」

「えっ?」

「寝るんだろ、一緒に。そこでずっと突っ立っておくつもりか?」

「ね、寝ます!」


なんかまるで水を得た魚のように勢いよく、モゾモゾと俺の布団の中に潜り込んでくる。


「さっきまで先輩が寝ていたから温かいですね!」


彼女は潜り込んでくるなり、笑顔でそう言ってくる。
少し恥ずかしい。
……いや、結構恥ずかしい。


「……さいですか。それは良かったよ。それで結局認めないのか?」

「なにがですか?」

「自分が怖くなったからここにきて俺と一緒に寝ようと思ったけど、言うのが恥ずかしいから俺のせいにしようとしていた事」

「……それが本当だとしたらどうするんですか?」

「うん?ただお前のことを可愛いなと思うだけだよ」

「っっっ!!もうっ!いきなり何言ってくるんですか!」


彼女は枕で俺のことをバンバンと叩いてくる。
いや、それ俺の枕なんだけどね。


俺のことを叩き続けて数分後。
少し落ち着いてようで今は真っ赤な顔を枕で隠しながら、モゴモゴと話し始める。


「だって、先輩が悪いんですよ。最近忙しいからって全然構ってくれなくて。やっと来てくれたら、疲れたって言ってすぐに寝てしまうし」

「いや、うん、まぁ、それは全面的に俺が悪いな」

「だから、今日こそは一緒に寝たいと思っていたんですけど、久しぶりに言うのが恥ずかしくて。……ごめんなさい」

「いや、こっちこそごめんね。忙しくて全然構ってあげられなくて」


俺はそう言いながら、彼女の頭をゆっくりと撫でる。
すると彼女がまるで首を撫でられている猫のようにトロンとした顔になる。


「今日は、今日こそは一緒に寝たいと思っていたから甘えさせてくださいね!」


すると、俺にギューと抱き着いてくる。
俺もゆっくり抱き返す。
久しぶりに感じる彼女の体温。
温かい。


それから少しして、スゥースゥーという小さな寝息が聞こえてきた。
俺の腕の中にいる可愛い後輩のだ。
本当にこう見るとまるで小動物のような可愛さがある。
まるで守ってあげたくなるそんな可愛さ。

そう思いながら、頬をツンツンしてみると「ううん」と身動きをする。

ハハハッ、可愛い。

だが、まさか、そこまでして俺と寝たかったとはな。
申し訳なかったな。

だが、そろそろ忙しいのは終わるからな。
もうちょっとでお金がたまりそうなんだ。




お前にプレゼントするネックレス分のお金がな。







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