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第1章
第9話:帝国の玉座、最期の懇願
王国が火の海に包まれるのに、時間はかからなかった。 ウェンディという唯一の「盾」を自らへし折った代償は、あまりにも重かった。
魔導炉の爆発によって王宮の一部は崩落し、街には結界の裂け目から侵入した魔物たちが溢れている。 「……おのれ、なぜだ! なぜこれほどまでに脆い!」 かつての栄華を失い、煤と泥にまみれた王太子ジュリアンは、逃げ場を失い、ついに禁断の決断を下した。
帝国の謁見の間。 高くそびえる天井と、磨き抜かれた大理石の床。 その最奥、皇帝シリウスの隣に、私は座っていた。
深紅のドレスを纏い、左手には皇帝直属の証である指輪が、静かな誇りを持って輝いている。
「……王国からの使者が到着したようだぞ、ウェンディ」 シリウス様が低く、心地よい声で私に告げる。 その直後、重厚な扉が開かれ、一人の男が引きずられるようにして入ってきた。
そこにいたのは、かつて私を無能と蔑み、雨の中に突き飛ばした男――ジュリアンだった。
「……ウェンディ……! そこに、そこにいるのか!」 ジュリアンは私の姿を認めるなり、這いずるようにして床を詰め寄った。
かつての傲慢な美貌は見る影もない。 衣服は破れ、髪は乱れ、瞳には狂気じみた焦燥が宿っている。
「ウェンディ、戻ってこい! 不手際があったことは認めよう。貴様を追い出した者たちは全員処罰した! 戻れば以前以上の地位を約束する! 公爵位でも何でも思いのままだ!」
彼はまだ、気づいていない。 自分の言葉が、どれほど私に響かなくなっているかを。
「ジュリアン殿下。お会いできて光栄です」 私は静かに立ち上がり、彼を見下ろした。 その声には、かつての怯えも、怒りさえない。ただ、深い虚しさが漂っていた。
「ですが、お断りいたします。私はもう、あなたの国の『道具』ではありません」
「なっ……何を言っている! 貴様は我が国の臣民であり、私の婚約者だろう! 主(あるじ)が命じているのだ、黙って従えばいいものを!」 ジュリアンの傲慢さが、絶望の淵に立ってもなお顔を出す。
その時、横に座っていたシリウス様から、凍りつくような|魔圧プレッシャーが放たれた。
「……婚約を破棄し、国外追放を命じたのは貴様自身だ。ゴミとして捨てたものを、必要になったからと拾いに来るとは……滑稽にも程があるな」 シリウス様は冷徹な黄金の瞳でジュリアンを射抜き、私の腰を抱き寄せた。
「彼女は帝国の、そして俺の伴侶となるべき女性だ。貴様のような不潔な男が触れていい存在ではない」
「う……うあああっ!」 シリウス様の威圧感に耐えきれず、ジュリアンはその場に伏して震え始めた。
「……ウェンディ、頼む……! お前がいなければ、国が終わるんだ! エリスも、誰も直せないんだ! 助けてくれ……死にたくないんだ……!」 ジュリアンの声は、もはや懇願を通り越し、見苦しい命乞いへと変わっていた。
私は、彼の手が届かない距離から、静かに告げた。 「あの日、殿下が私の『糸』を切り捨てた時、私の心も一緒に死にました。……でも、シリウス様が私を拾い上げ、一人の人間として扱ってくださった」
「私は、私を愛してくれる人のために、私の力を使いたい。……さようなら、ジュリアン殿下。もう、二度とお会いすることはないでしょう」
私の宣告が終わると同時に、シリウス様が短く命じた。 「衛兵。この不届き者を、今すぐ国外へ叩き出せ。二度と帝国の地を踏ませるな」
「嫌だ! 離せ! ウェンディィィッ!」 ジュリアンの絶叫が、遠ざかっていく。
彼が王国の廃墟へと引きずり戻される背後に、帝国の重厚な門が、重苦しい音を立てて閉ざされた。
「……終わったな、ウェンディ」 シリウス様が、私の肩を優しく抱きしめる。
私は彼の胸に顔を埋め、溢れ出した涙を拭った。 それは、悲しみの涙ではなく、過去と決別した喜びの涙だった。
王国の北側では、完全に結界を失った王都が、巨大な魔獣の影に飲み込まれようとしていた。 だが、私を呼ぶ声は、もうどこからも聞こえない。
私は、私を必要としてくれる、この温かな腕の中で、新しい朝を迎える準備を始めた。
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👑 EMPEROR'S DECREE:黒狼皇帝からの勅命
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「よくぞ最後まで読み遂げた。
ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。
……さあ、その指先で俺の女を喜ばせてみせろ。
貴様の忠誠、確かに受け取るぞ」
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魔導炉の爆発によって王宮の一部は崩落し、街には結界の裂け目から侵入した魔物たちが溢れている。 「……おのれ、なぜだ! なぜこれほどまでに脆い!」 かつての栄華を失い、煤と泥にまみれた王太子ジュリアンは、逃げ場を失い、ついに禁断の決断を下した。
帝国の謁見の間。 高くそびえる天井と、磨き抜かれた大理石の床。 その最奥、皇帝シリウスの隣に、私は座っていた。
深紅のドレスを纏い、左手には皇帝直属の証である指輪が、静かな誇りを持って輝いている。
「……王国からの使者が到着したようだぞ、ウェンディ」 シリウス様が低く、心地よい声で私に告げる。 その直後、重厚な扉が開かれ、一人の男が引きずられるようにして入ってきた。
そこにいたのは、かつて私を無能と蔑み、雨の中に突き飛ばした男――ジュリアンだった。
「……ウェンディ……! そこに、そこにいるのか!」 ジュリアンは私の姿を認めるなり、這いずるようにして床を詰め寄った。
かつての傲慢な美貌は見る影もない。 衣服は破れ、髪は乱れ、瞳には狂気じみた焦燥が宿っている。
「ウェンディ、戻ってこい! 不手際があったことは認めよう。貴様を追い出した者たちは全員処罰した! 戻れば以前以上の地位を約束する! 公爵位でも何でも思いのままだ!」
彼はまだ、気づいていない。 自分の言葉が、どれほど私に響かなくなっているかを。
「ジュリアン殿下。お会いできて光栄です」 私は静かに立ち上がり、彼を見下ろした。 その声には、かつての怯えも、怒りさえない。ただ、深い虚しさが漂っていた。
「ですが、お断りいたします。私はもう、あなたの国の『道具』ではありません」
「なっ……何を言っている! 貴様は我が国の臣民であり、私の婚約者だろう! 主(あるじ)が命じているのだ、黙って従えばいいものを!」 ジュリアンの傲慢さが、絶望の淵に立ってもなお顔を出す。
その時、横に座っていたシリウス様から、凍りつくような|魔圧プレッシャーが放たれた。
「……婚約を破棄し、国外追放を命じたのは貴様自身だ。ゴミとして捨てたものを、必要になったからと拾いに来るとは……滑稽にも程があるな」 シリウス様は冷徹な黄金の瞳でジュリアンを射抜き、私の腰を抱き寄せた。
「彼女は帝国の、そして俺の伴侶となるべき女性だ。貴様のような不潔な男が触れていい存在ではない」
「う……うあああっ!」 シリウス様の威圧感に耐えきれず、ジュリアンはその場に伏して震え始めた。
「……ウェンディ、頼む……! お前がいなければ、国が終わるんだ! エリスも、誰も直せないんだ! 助けてくれ……死にたくないんだ……!」 ジュリアンの声は、もはや懇願を通り越し、見苦しい命乞いへと変わっていた。
私は、彼の手が届かない距離から、静かに告げた。 「あの日、殿下が私の『糸』を切り捨てた時、私の心も一緒に死にました。……でも、シリウス様が私を拾い上げ、一人の人間として扱ってくださった」
「私は、私を愛してくれる人のために、私の力を使いたい。……さようなら、ジュリアン殿下。もう、二度とお会いすることはないでしょう」
私の宣告が終わると同時に、シリウス様が短く命じた。 「衛兵。この不届き者を、今すぐ国外へ叩き出せ。二度と帝国の地を踏ませるな」
「嫌だ! 離せ! ウェンディィィッ!」 ジュリアンの絶叫が、遠ざかっていく。
彼が王国の廃墟へと引きずり戻される背後に、帝国の重厚な門が、重苦しい音を立てて閉ざされた。
「……終わったな、ウェンディ」 シリウス様が、私の肩を優しく抱きしめる。
私は彼の胸に顔を埋め、溢れ出した涙を拭った。 それは、悲しみの涙ではなく、過去と決別した喜びの涙だった。
王国の北側では、完全に結界を失った王都が、巨大な魔獣の影に飲み込まれようとしていた。 だが、私を呼ぶ声は、もうどこからも聞こえない。
私は、私を必要としてくれる、この温かな腕の中で、新しい朝を迎える準備を始めた。
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「よくぞ最後まで読み遂げた。
ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。
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