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第2章
第12話:聖教国の罠、仕掛けられた聖域
帝都の象徴である大聖堂。その高くそびえる尖塔が、今日はどこか不吉な影を落としているように見えた。
「聖女ウェンディ様。滅びた王国の負の遺志が、この帝国の美しき魔導網を蝕もうとしております。どうか、我らと共に『浄化の祈り』を」
聖教国エリュシオンの使節団が民衆の前で掲げたのは、あまりにも正当で、そして拒絶しがたい「善意」の提案だった。断れば、帝国に災いをもたらす不吉な聖女として噂を流される――巧妙に仕組まれた、政治的な外堀だった。
「……分かりました。お引き受けします」
私はシリウス様の隣で、静かに頷いた。 シリウス様は不快そうに黄金の瞳を細めたが、私の決意を尊重し、ただ私の手を強く握り返してくれた。
大聖堂の地下、祭壇の前。 そこには、仮面の鑑定士が用意したという、巨大な魔導回路が刻まれていた。
「これは『聖域編纂陣』。貴女様の純粋な魔力を通すことで、帝都の空気を清める触媒となります」
鑑定士の男が、仮面の奥で歪んだ笑みを浮かべたような気がした。 私の編纂者の目には、その回路の「流れ」が、不気味なほどに鋭利で、粘りつくような色に見えていた。
「ウェンディ、俺がそばにいる。何かあればすぐに叫べ」 「はい、シリウス様」
聖域という名目のもと、シリウス様は数歩離れた位置での待機を強いられる。 私が祭壇の中心に立ち、指先から魔力を流し込んだ瞬間――視界が真っ白に染まった。
(……っ、これは、浄化じゃない……!)
回路から溢れ出したのは、神聖な光を装った**「拘束の鎖」**だった。 それは私の手足を縛るのではなく、脳の奥、意識の深淵へと直接入り込み、私の意志を「書き換えよう」と蠢き始める。
『……ひれ伏せ。……神の意志に、教会の声に従え……』
頭の中に直接響く、悍ましい囁き。 意識が遠のき、指先の感覚が失われていく。 私は、自分という人間が消えて、ただの「教会の道具」へと作り替えられていく恐怖に震えた。
だがその時、左手の薬指に激痛に近いほどの「熱」が走った。
(……シリウス様……!?)
かつて彼が贈ってくれた、皇帝直属の証である指輪。 それが、私の精神を侵食しようとする闇の魔力を弾き飛ばすように、眩い黄金の輝きを放ったのだ。
指輪に宿ったシリウス様の魔力が、私の意識を現実へと繋ぎ止める。 「私は、……もう二度と、誰の『道具』にもならない!」
私は無理やり指先を動かし、自分を縛り上げようとする光の鎖に直接触れた。
「……汚い回路。これが貴方たちの『祈り』だというのなら、私が編み直してあげる!」
私は、洗脳を目的とした『神聖拘束回路』の糸を、力ずくで引き抜いた。 そして、その悍ましい「支配」の概念を、正反対の**「解放」と「癒やし」**へと強引に書き換えていく。
回路が、断末魔のような音を立てて爆ぜた。 次の瞬間、大聖堂を包んでいた不気味な光は、温かな「黄金の雨」となって降り注いだ。
「なっ……!? 馬鹿な、私の回路が……上書きされたというのか!?」 仮面の鑑定士が、驚愕に声を荒らげる。
「そこまでだ、下種共」
轟音と共に、聖域の結界が文字通り「粉砕」された。 そこには、抜剣し、怒りのままに魔圧を膨れ上がらせたシリウス様が立っていた。
「神の名の下に、俺の女に呪いをかけた罪……その命で購うがいい」
シリウス様の一振りで、祭壇は一瞬にして両断された。 逃げ惑う神官たち、そして闇に紛れて姿を消そうとする仮面の鑑定士。
「……逃がさん。貴様らエリュシオンが、帝国と、そして俺のウェンディを敵に回したこと、地獄の底で後悔させてやる」
シリウス様は私を強く抱き寄せると、その場に跪く民衆たち――黄金の雨によって病や疲れを癒やされ、私を「真の聖女」と呼び始めた人々――を背に、聖教国への宣戦布告とも取れる鋭い視線を向けた。
私を巡る戦いは、もはや一国の王太子の執着などではない。 世界を揺るがす、聖教国との全面対決へと突入しようとしていた。
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👑 EMPEROR'S DECREE:黒狼皇帝からの勅命
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「よくぞ最後まで読み遂げた。
ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。
……さあ、その指先で俺の女を喜ばせてみせろ。
貴様の忠誠、確かに受け取るぞ」
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「聖女ウェンディ様。滅びた王国の負の遺志が、この帝国の美しき魔導網を蝕もうとしております。どうか、我らと共に『浄化の祈り』を」
聖教国エリュシオンの使節団が民衆の前で掲げたのは、あまりにも正当で、そして拒絶しがたい「善意」の提案だった。断れば、帝国に災いをもたらす不吉な聖女として噂を流される――巧妙に仕組まれた、政治的な外堀だった。
「……分かりました。お引き受けします」
私はシリウス様の隣で、静かに頷いた。 シリウス様は不快そうに黄金の瞳を細めたが、私の決意を尊重し、ただ私の手を強く握り返してくれた。
大聖堂の地下、祭壇の前。 そこには、仮面の鑑定士が用意したという、巨大な魔導回路が刻まれていた。
「これは『聖域編纂陣』。貴女様の純粋な魔力を通すことで、帝都の空気を清める触媒となります」
鑑定士の男が、仮面の奥で歪んだ笑みを浮かべたような気がした。 私の編纂者の目には、その回路の「流れ」が、不気味なほどに鋭利で、粘りつくような色に見えていた。
「ウェンディ、俺がそばにいる。何かあればすぐに叫べ」 「はい、シリウス様」
聖域という名目のもと、シリウス様は数歩離れた位置での待機を強いられる。 私が祭壇の中心に立ち、指先から魔力を流し込んだ瞬間――視界が真っ白に染まった。
(……っ、これは、浄化じゃない……!)
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『……ひれ伏せ。……神の意志に、教会の声に従え……』
頭の中に直接響く、悍ましい囁き。 意識が遠のき、指先の感覚が失われていく。 私は、自分という人間が消えて、ただの「教会の道具」へと作り替えられていく恐怖に震えた。
だがその時、左手の薬指に激痛に近いほどの「熱」が走った。
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「……汚い回路。これが貴方たちの『祈り』だというのなら、私が編み直してあげる!」
私は、洗脳を目的とした『神聖拘束回路』の糸を、力ずくで引き抜いた。 そして、その悍ましい「支配」の概念を、正反対の**「解放」と「癒やし」**へと強引に書き換えていく。
回路が、断末魔のような音を立てて爆ぜた。 次の瞬間、大聖堂を包んでいた不気味な光は、温かな「黄金の雨」となって降り注いだ。
「なっ……!? 馬鹿な、私の回路が……上書きされたというのか!?」 仮面の鑑定士が、驚愕に声を荒らげる。
「そこまでだ、下種共」
轟音と共に、聖域の結界が文字通り「粉砕」された。 そこには、抜剣し、怒りのままに魔圧を膨れ上がらせたシリウス様が立っていた。
「神の名の下に、俺の女に呪いをかけた罪……その命で購うがいい」
シリウス様の一振りで、祭壇は一瞬にして両断された。 逃げ惑う神官たち、そして闇に紛れて姿を消そうとする仮面の鑑定士。
「……逃がさん。貴様らエリュシオンが、帝国と、そして俺のウェンディを敵に回したこと、地獄の底で後悔させてやる」
シリウス様は私を強く抱き寄せると、その場に跪く民衆たち――黄金の雨によって病や疲れを癒やされ、私を「真の聖女」と呼び始めた人々――を背に、聖教国への宣戦布告とも取れる鋭い視線を向けた。
私を巡る戦いは、もはや一国の王太子の執着などではない。 世界を揺るがす、聖教国との全面対決へと突入しようとしていた。
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