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第2章
第13話:帝国の矜持と眠れる守護者
大聖堂に降り注いだ黄金の雨が、石畳を濡らし、人々の心を癒やしていく。 祭壇の上で、醜く這いずる聖教国エリュシオンの神官たちを、シリウス様は氷のような眼差しで見下ろしていた。
「……ひっ、あ、悪魔め……! 神聖なる儀式を汚すとは……!」 震える声で吐き捨てた神官に対し、シリウス様は一歩、重く踏み出した。その拍子に放たれた魔圧だけで、大聖堂の窓ガラスにピキリと亀裂が入る。
「命だけは助けてやる。這ってでも自国へ帰り、貴様らの教皇に伝えろ」 シリウス様の声は、低く、地を這うような威圧感に満ちていた。 「『次は帝国軍が貴国の門を叩く番だ。その時、神とやらに祈る暇があるか試してやる』とな」
「う、うあああああ!」 使節団の面々は、教会の権威など微塵も通用しない「皇帝」という怪物の前に、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。
大聖堂の外へ出ると、そこには黒山の人だかりができていた。 黄金の雨を浴び、病や怪我が癒えた帝都の民衆たちが、私を待っていたのだ。
「ウェンディ様! ありがとうございます!」 「真の聖女様だ……! 我らを救ってくださった!」
地を揺らすような歓声。かつて王国で、ゴミのように扱われ、誰からも必要とされなかった私。 その私が、今、これほどまでに多くの人々に愛され、求められている。 戸惑う私の肩を、シリウス様が力強く抱き寄せた。
「胸を張れ、ウェンディ。これが貴様の成したことだ」 シリウス様と共に民衆を見下ろす。その時、私の心の中にあった最後の「迷い」が、温かな光の中に溶けて消えていくのを感じた。
祝祭に沸く帝都を後にし、私たちは皇城のさらに深く、地下数百メートルにある「秘匿ドック」へと向かった。 ひんやりとした空気が肌を刺し、重厚な金属の匂いが鼻を突く。
「……シリウス様、ここは?」 「帝国の建国以来、誰も目覚めさせることができなかった……我が国の『最大の遺産』だ」
シリウス様が重い防壁を開くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。 ドックの巨大な空間に鎮座するのは、漆黒の装甲に覆われた巨大な魔導戦艦だった。 その姿は、翼を休め眠る竜を思わせる。
「魔導戦艦『黒鉄の巨竜』。あまりにも複雑な回路ゆえ、歴代の編纂者が誰一人として、この艦の心臓を動かすことができなかった」
戦艦の放つ沈黙の重圧。それは、長い年月を孤独に耐えてきた強者の、悲しい叫びのようにも聞こえた。
シリウス様が私の前で立ち止まり、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。 「ウェンディ。これは皇帝としての命令ではない。一人の男としての……願いだ」
彼は私の両手を優しく取り、その温もりを伝えるように包み込んだ。 「聖教国は、貴様を『神の道具』として狙ってくるだろう。俺は、貴様を守るための絶対的な力が欲しい。……この巨竜を目覚めさせ、帝国の、そして貴様の『矛』となってくれないか」
シリウス様の黄金の瞳には、信頼、そして隠しきれないほどの深い愛が宿っていた。 私を、一人の技術者として尊重し、頼ってくれるその心が、何よりも嬉しかった。
「……はい。シリウス様。私にお任せください」
私は、戦艦の冷たい船体にそっと指先を触れさせた。 その瞬間、私の意識は一気に戦艦の深淵へと潜り込んでいく。
(ああ……貴方は、ずっと待っていたのね)
戦艦の回路は、これまで見たどんな魔導具よりも複雑で、そして繊細だった。 まるで、迷路のように絡まった血管。私はその一本一本を、慈しむように魔力の糸で整えていく。
次の瞬間。
ドォォォォン……!
地鳴りのような重低音が、ドック全体を震わせた。 数百年もの間、死んでいたはずの「巨竜」の心臓――超高密度魔導炉が、黄金の脈動を開始したのだ。
「……っ、馬鹿な……。指先一つで、あの化け物を……!」 背後でガゼルが絶句する声が聞こえる。
戦艦の至る所に青白い光が走り、巨大な翼のような主砲がゆっくりと展開していく。 それは、帝国の守護者が、真の主を得て覚醒した瞬間だった。
「見ていてください、シリウス様。私の『編纂』が、貴方の敵をすべて薙ぎ払います」
漆黒の戦艦の咆哮が、静かに、けれど確実に、聖教国への宣戦布告として地下深くから響き渡った。
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👑 EMPEROR'S DECREE:黒狼皇帝からの勅命
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「よくぞ最後まで読み遂げた。
ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。
……さあ、その指先で俺の女を喜ばせてみせろ。
貴様の忠誠、確かに受け取るぞ」
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「……ひっ、あ、悪魔め……! 神聖なる儀式を汚すとは……!」 震える声で吐き捨てた神官に対し、シリウス様は一歩、重く踏み出した。その拍子に放たれた魔圧だけで、大聖堂の窓ガラスにピキリと亀裂が入る。
「命だけは助けてやる。這ってでも自国へ帰り、貴様らの教皇に伝えろ」 シリウス様の声は、低く、地を這うような威圧感に満ちていた。 「『次は帝国軍が貴国の門を叩く番だ。その時、神とやらに祈る暇があるか試してやる』とな」
「う、うあああああ!」 使節団の面々は、教会の権威など微塵も通用しない「皇帝」という怪物の前に、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。
大聖堂の外へ出ると、そこには黒山の人だかりができていた。 黄金の雨を浴び、病や怪我が癒えた帝都の民衆たちが、私を待っていたのだ。
「ウェンディ様! ありがとうございます!」 「真の聖女様だ……! 我らを救ってくださった!」
地を揺らすような歓声。かつて王国で、ゴミのように扱われ、誰からも必要とされなかった私。 その私が、今、これほどまでに多くの人々に愛され、求められている。 戸惑う私の肩を、シリウス様が力強く抱き寄せた。
「胸を張れ、ウェンディ。これが貴様の成したことだ」 シリウス様と共に民衆を見下ろす。その時、私の心の中にあった最後の「迷い」が、温かな光の中に溶けて消えていくのを感じた。
祝祭に沸く帝都を後にし、私たちは皇城のさらに深く、地下数百メートルにある「秘匿ドック」へと向かった。 ひんやりとした空気が肌を刺し、重厚な金属の匂いが鼻を突く。
「……シリウス様、ここは?」 「帝国の建国以来、誰も目覚めさせることができなかった……我が国の『最大の遺産』だ」
シリウス様が重い防壁を開くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。 ドックの巨大な空間に鎮座するのは、漆黒の装甲に覆われた巨大な魔導戦艦だった。 その姿は、翼を休め眠る竜を思わせる。
「魔導戦艦『黒鉄の巨竜』。あまりにも複雑な回路ゆえ、歴代の編纂者が誰一人として、この艦の心臓を動かすことができなかった」
戦艦の放つ沈黙の重圧。それは、長い年月を孤独に耐えてきた強者の、悲しい叫びのようにも聞こえた。
シリウス様が私の前で立ち止まり、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。 「ウェンディ。これは皇帝としての命令ではない。一人の男としての……願いだ」
彼は私の両手を優しく取り、その温もりを伝えるように包み込んだ。 「聖教国は、貴様を『神の道具』として狙ってくるだろう。俺は、貴様を守るための絶対的な力が欲しい。……この巨竜を目覚めさせ、帝国の、そして貴様の『矛』となってくれないか」
シリウス様の黄金の瞳には、信頼、そして隠しきれないほどの深い愛が宿っていた。 私を、一人の技術者として尊重し、頼ってくれるその心が、何よりも嬉しかった。
「……はい。シリウス様。私にお任せください」
私は、戦艦の冷たい船体にそっと指先を触れさせた。 その瞬間、私の意識は一気に戦艦の深淵へと潜り込んでいく。
(ああ……貴方は、ずっと待っていたのね)
戦艦の回路は、これまで見たどんな魔導具よりも複雑で、そして繊細だった。 まるで、迷路のように絡まった血管。私はその一本一本を、慈しむように魔力の糸で整えていく。
次の瞬間。
ドォォォォン……!
地鳴りのような重低音が、ドック全体を震わせた。 数百年もの間、死んでいたはずの「巨竜」の心臓――超高密度魔導炉が、黄金の脈動を開始したのだ。
「……っ、馬鹿な……。指先一つで、あの化け物を……!」 背後でガゼルが絶句する声が聞こえる。
戦艦の至る所に青白い光が走り、巨大な翼のような主砲がゆっくりと展開していく。 それは、帝国の守護者が、真の主を得て覚醒した瞬間だった。
「見ていてください、シリウス様。私の『編纂』が、貴方の敵をすべて薙ぎ払います」
漆黒の戦艦の咆哮が、静かに、けれど確実に、聖教国への宣戦布告として地下深くから響き渡った。
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