義妹に婚約者を奪われ追放された私。実は国を支えていたと気づいても遅いです。隣国で能力を開花させたので、今さら泣きつかないで。

瀬戸 ゆら

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第2章

第15話:戦火の休息、指先を重ねて

戦場を支配していた轟音と熱気が、嘘のように引いていく。 魔導戦艦『黒鉄の巨竜』の艦橋に、静寂が戻った。

「……はぁ、……っ」

その瞬間、張り詰めていた意識の糸がぷつりと切れた。 指先が、自分のものとは思えないほど激しく震えている。一万を超える回路と同期し、空間そのものを編み直した代償。私の神経は、極度の集中と魔力の逆流で焼き切れる寸前だった。

膝から崩れ落ちそうになった私の身体を、強引なほど力強い腕が抱き留めた。

「ウェンディ!」

視界が揺れる中、シリウス様の黄金の瞳が間近に迫る。そこにあるのは、勝利の悦びではなく、私を失うことを恐れるような切実な焦燥しょうそうだった。 「……シリウス、様……私、やり遂げ、ました……」 「黙れ。もういい、何も言うな」

シリウス様は、驚く周囲の将兵たちの視線も構わず、私を軽々と横抱きにした。そのまま、艦内にある彼専用の休息室へと、大股で歩き出す。 彼の胸板から伝わる、激しくも規則正しい鼓動。それが、死地を共にした「吊り橋効果」以上の、本能的な安心感を私に与えてくれた。

休息室の扉が閉まると、そこは戦場の残響さえ届かない二人の「聖域」だった。 シリウス様は私を贅沢なソファに横たえると、自ら温かなタオルを用意し、私の額に滲んだ汗を丁寧に拭った。

「……手が、震えているな」

彼は私の右手を取り、その指先にそっと触れた。 編纂者として過敏になった私の触覚は、彼の指の温度、皮膚の質感、そして彼が纏う白檀の香りを、恐ろしいほどの鮮明さで拾い上げる。

シリウス様は、帝国の秘宝とされる高価な魔導薬を、私の指先に一滴ずつ垂らしていった。 冷たい薬液が、熱を持った神経を鎮めていく。

「この指先は、世界を編み直す至宝だ。……これ以上、俺を焦らせるな。貴様が壊れるくらいなら、帝国など滅んだ方がマシだ」 「そんな……シリウス様、それは言い過ぎです……」 「本心だ」

彼は私の指先に、誓いを立てるように深く口づけを落とした。 その瞳に宿る独占欲と熱量に、私の心臓が跳ねる。守られるだけの「置物」だった頃には知らなかった、胸を締め付けるような甘い痛み。

「……でも、シリウス様。私は、あんなに多くの人を、あの一撃で……」 不意に、罪悪感が胸を過った。 私の技術が、多くの命を奪うための「武器」になったという現実。

シリウス様は私の言葉を遮るように、私の頬を包み込んだ。 「ウェンディ、認知を歪めるな。貴様が今日、その指先で守ったのは、侵略者の餌食になるはずだった帝国の数百万の民だ」

彼の言葉は、臨床心理学的な「リフレーミング」のように、私の曇った意識を鮮やかに書き換えていく。 「破壊したのではない。貴様は絶望を希望へと、死を生へと『編み直した』のだ。誇れ。俺が愛した女は、世界で最も気高く、慈悲深い守護者だ」

「……守護者……」 その言葉が、私の心に深く沈み込み、確固たる自己有用感となって根を張った。 私は、彼の胸に顔を埋めた。もう、迷わない。彼の隣で戦い続けるために、私はもっと強くなれる。

同じ時刻。聖教国エリュシオンの最深部では、不気味な祝祭が行われていた。

「……素晴らしい。実に、素晴らしい!」 敗報を届けた使節団に対し、教皇は狂信的な笑みを浮かべて立ち上がった。 「あの一撃、あの干渉波……! まさしく神代の理。あの娘は、失われた『神の器』そのものだ」

仮面の鑑定士が、影の中から低く囁く。 「もはや、武力で奪うのは非効率かと。……帝国を国際的に孤立させ、彼女自身に『帝国は邪悪である』と信じ込ませるのです。彼女の純粋さこそが、最大の弱点となります」

「ふむ……。聖教国の総力を挙げ、彼女を『真の聖地』へと招待しようではないか」

帝都へと帰還する巨竜の窓の外には、かつてないほど眩い祝祭の灯りが広がっていた。

シリウス様は私の左手の薬指、あの指輪に改めて唇を寄せた。 「ウェンディ。これから、世界は貴様を奪いに来るだろう。だが、たとえ神を相手にしても、俺は貴様を離さない」

「はい。……私も、シリウス様を離しません」

指先を重ね、私たちは深く誓い合った。 編み上げられた絆は、もはや何者にも引き裂くことはできない。 だが、聖教国の陰湿な罠が、平和に沸く帝都の裏側で、静かに、確実に張り巡らされようとしていた。




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👑 EMPEROR'S DECREE:黒狼皇帝からの勅命
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 「よくぞ最後まで読み遂げた。
ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。

……さあ、その指先で俺の女を喜ばせてみせろ。
貴様の忠誠、確かに受け取るぞ」
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