義妹に婚約者を奪われ追放された私。実は国を支えていたと気づいても遅いです。隣国で能力を開花させたので、今さら泣きつかないで。

瀬戸 ゆら

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第3章

第29話:皇帝の特権、バグの上書き

真っ白だった。 大地も、空も、これまで紡いできた歴史さえも。バックアップが完了した後の世界は、記述を失った真っ白なキャンバスと化していた。

そして、その中心で私の体もまた、光の粒子となって希釈フェードアウトし始めていた。指先から感覚が消え、自分が何者であったかという記憶までもが、薄い霧のように白く染まっていく。心理学における「存在論的不安」の極致。私は世界を救うための「使い捨ての容器」として、システムから抹消されようとしていた。

(ああ……みんなは、助かったんだ……。それで、いい……)

意識が途切れそうになったその時、虚無の底から冷徹な声が響いた。

『――バグは保存されない。それがこの世界の最適解だ。第零号、貴女の役割は終了した』

それは管理者アドミニストレーターの声。正論という名の暴力。論理的に言えば、異物である私は新しい世界には持ち越せない。管理者は、私が捧げた自己犠牲を「当然の処理」として切り捨てたのだ。

「……誰が、終わったと言った」

その声を、怒りと魔圧で強引に引き裂いた者がいた。 シリウス様だ。彼は実体を失いかけた私の腕を掴もうとするが、彼の手は虚しく私の体をすり抜けてしまう。最強の皇帝であっても、世界の「消去命令」という概念には干渉できない。

「待って、シリウス様。もう、私は……」 「黙れ。世界が貴様をいらんと言うなら、俺が貴様を必要とする。理が貴様を消すと言うなら、俺が新しい理を創る。……この俺を、誰だと思っている」

シリウス様の黄金の瞳が、漆黒の情念を宿して燃え上がった。 彼は逃げようとする私の魂を逃がさぬよう、自らの魔力を「自分の内側」へと凝縮させた。それは、自分の存在定義ログを削り、私へと流し込むという狂気的な強制介入ルート・アクセスだった。

「貴様は『世界の一部』ではない。……俺の一部だ」

シリウス様が私の胸元に手を当てた瞬間、焼けるような熱さが走った。 彼の漆黒の魔力が、透ける私の体に強固な「骨組み」を刻み込んでいく。システム上の「バグ」だった私を、シリウスという名の「最高管理者」の伴侶として上書きしていく――強制上書きオーバー・ライト

心理学における「リアクタンス」。押し付けられた消去命令に対し、シリウス様は「知るか」と一蹴し、愛という名の権限で私の存在を固定した。

「ウェンディ、目を開けろ。貴様は俺の隣で、この新しい世界を眺める義務がある。……俺という世界の、妃としてな」

その言葉が、私の「空」だった領域を埋め尽くした。 共生する皇帝妃エンプレス・コード。 管理者の悲鳴のようなノイズを塗りつぶし、私の瞳に鮮やかな色が戻る。シリウス様の心音が、私の体温となって実体を呼び戻した。

「……ただいま、シリウス様」

私が彼の腕の中で実体を取り戻した瞬間、二人の中心から極彩色の光が爆発した。 白紙だった世界に、再び大地が、空が、海が描き直されていく――再起動リブートの産声。

だが、再構築された世界は、以前のそれとは決定的に異なっていた。 戻ってきた帝都の空に浮かんでいるのは、太陽ではない。

シリウス様の瞳と同じ色をした、巨大な黄金の紋章。 それは、世界が救われたと同時に、この世界そのものが「皇帝シリウスの所有物」へと書き換えられたことを告げる、甘く支配的な歪みだった。

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👑 EMPEROR'S DECREE:黒狼皇帝からの勅命

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「よくぞ最後まで読み遂げた。

ウェンディの功績を称え、貴様らにも『いいね』を許す。

……さあ、その指先で俺の女を喜ばせてみせろ。

貴様の忠誠、確かに受け取るぞ」

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