主語のない2人

さつき

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出会い

1話 ねぇ

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入学式の日の教室は、まだ静かだった。

クラス替えの紙を見て集まったばかりの生徒たちは、どこか落ち着かない様子で席に座っている。まだ友達も少なくて、会話もまばらだ。

西村は窓側の席に座り、ぼんやりと校庭を見ていた。春の風で桜の花びらが流れていく。

そのとき、隣の椅子が引かれた。

誰かが座る気配。

ちらっと横を見ると、黒髪の女子がカバンを机に置いていた。少し長めの髪が肩に触れている。

目が合う。

お互いに、少しだけ気まずくなる。

何か言った方がいい気がした。でも「よろしく」とか「名前なんだっけ」とか、普通の言葉がなぜか出てこない。

西村は少しだけ迷って、口を開いた。

「……ねぇ」

女子が顔を上げる。

「シャーペン、持ってる?」

言ったあとで、自分でも変なことを聞いたと思った。

女子は一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。

「あるよ」

ペンケースから一本取り出して、西村の机に置く。

「ありがと」

「うん」

それだけの会話だった。

ちょうどそのとき、教室の前のドアが開いた。

先生が入ってきて、ホームルームが始まる。

出席を取る声が教室に響く。

「西村」

「はい」

少ししてから、先生が次の名前を呼んだ。

「水野」

「はい」

隣の女子が手を挙げる。

ああ、水野っていうのか。

西村はそう思った。

でもその日の昼休み、やっぱり口から出た言葉は同じだった。

「ねぇ、それ提出?」

水野は西村を見て、少しだけ笑った。

「うん」

それが、西村と水野の最初の日だった。

そしてその日から、二人の会話はずっと——

「ねぇ」から始まるようになる。
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