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出会い
3話 呼ばない理由
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西村は、自分が水野の名前を呼んでいないことに気づいていた。
入学してから一週間。
隣の席の水野とは、自然に話すようになっていた。
といっても、大した会話じゃない。
「ねぇ、それ次の授業?」
「うん」
「ねぇ、プリント出した?」
「まだ」
短いやり取りばかりだ。
でも、気まずさはない。
むしろ、ちょうどいい距離だった。
ただ一つだけ、妙なことがある。
西村は水野の名前を知っている。
出席を取るときに聞いたし、クラスの誰かが呼ぶのも何度も聞いた。
水野。
簡単な名前だ。
覚えるのに時間もかからなかった。
それなのに、西村は一度もその名前を口にしていない。
別に、わざとじゃない。
最初に「ねぇ」と話しかけたのがきっかけだっただけだ。
あのとき、普通に「水野」って呼べばよかったのに、
なぜか口から出たのは「ねぇ」だった。
それからずっと、そのままになっている。
ある日の昼休み。
西村は前の席の田中と話していた。
「田中、それ貸して」
消しゴムを受け取る。
少ししてから、横の席の佐藤に声をかける。
「佐藤、これ提出?」
普通だ。
何も考えずに名前を呼んでいる。
でも、そのあと隣を見ると、水野が弁当を食べていた。
目が合う。
少しだけ視線を逸らされる。
西村は一瞬考える。
今なら普通に言える。
「水野、それさ」
——そう思った。
でも、なぜか言えなかった。
代わりに口から出たのは、
「ねぇ」
だった。
水野が顔を上げる。
「なに?」
西村はプリントを持ち上げる。
「これ、次の授業で使うやつ?」
「うん、そうだよ」
それで会話は終わる。
いつも通りのやり取りだった。
でも、西村は少しだけ考え込んだ。
どうして言えないんだろう。
水野。
たった三文字だ。
難しいわけでもない。
なのに、口に出そうとすると、ほんの少しだけ引っかかる。
理由は分からない。
ただ、なんとなく。
名前を呼ぶと、今の距離が変わる気がした。
別に仲が悪いわけじゃない。
むしろ、話しやすい。
でも、その距離がちょうどいいと思っている自分もいる。
だから西村は、また言った。
「ねぇ」
水野が振り向く。
「なに?」
そのやり取りが、なぜかしっくりきた。
西村はふと思う。
もしかしたら、このままでもいいんじゃないか。
名前を呼ばなくても、
ちゃんと会話はできている。
それなら——
わざわざ変える必要もない。
西村はそう思いながら、窓の外を見た。
春の風が吹いて、桜の花びらがゆっくりと校庭を流れていく。
隣では水野がノートを開いていた。
西村はまた、何気なく声をかける。
「ねぇ」
水野が顔を上げる。
「なに?」
そのやり取りは、もう自然になっていた。
入学してから一週間。
隣の席の水野とは、自然に話すようになっていた。
といっても、大した会話じゃない。
「ねぇ、それ次の授業?」
「うん」
「ねぇ、プリント出した?」
「まだ」
短いやり取りばかりだ。
でも、気まずさはない。
むしろ、ちょうどいい距離だった。
ただ一つだけ、妙なことがある。
西村は水野の名前を知っている。
出席を取るときに聞いたし、クラスの誰かが呼ぶのも何度も聞いた。
水野。
簡単な名前だ。
覚えるのに時間もかからなかった。
それなのに、西村は一度もその名前を口にしていない。
別に、わざとじゃない。
最初に「ねぇ」と話しかけたのがきっかけだっただけだ。
あのとき、普通に「水野」って呼べばよかったのに、
なぜか口から出たのは「ねぇ」だった。
それからずっと、そのままになっている。
ある日の昼休み。
西村は前の席の田中と話していた。
「田中、それ貸して」
消しゴムを受け取る。
少ししてから、横の席の佐藤に声をかける。
「佐藤、これ提出?」
普通だ。
何も考えずに名前を呼んでいる。
でも、そのあと隣を見ると、水野が弁当を食べていた。
目が合う。
少しだけ視線を逸らされる。
西村は一瞬考える。
今なら普通に言える。
「水野、それさ」
——そう思った。
でも、なぜか言えなかった。
代わりに口から出たのは、
「ねぇ」
だった。
水野が顔を上げる。
「なに?」
西村はプリントを持ち上げる。
「これ、次の授業で使うやつ?」
「うん、そうだよ」
それで会話は終わる。
いつも通りのやり取りだった。
でも、西村は少しだけ考え込んだ。
どうして言えないんだろう。
水野。
たった三文字だ。
難しいわけでもない。
なのに、口に出そうとすると、ほんの少しだけ引っかかる。
理由は分からない。
ただ、なんとなく。
名前を呼ぶと、今の距離が変わる気がした。
別に仲が悪いわけじゃない。
むしろ、話しやすい。
でも、その距離がちょうどいいと思っている自分もいる。
だから西村は、また言った。
「ねぇ」
水野が振り向く。
「なに?」
そのやり取りが、なぜかしっくりきた。
西村はふと思う。
もしかしたら、このままでもいいんじゃないか。
名前を呼ばなくても、
ちゃんと会話はできている。
それなら——
わざわざ変える必要もない。
西村はそう思いながら、窓の外を見た。
春の風が吹いて、桜の花びらがゆっくりと校庭を流れていく。
隣では水野がノートを開いていた。
西村はまた、何気なく声をかける。
「ねぇ」
水野が顔を上げる。
「なに?」
そのやり取りは、もう自然になっていた。
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