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第7話、目的
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「・・・君はよく食べるな」
「美味いからな」
食事を堪能して少し経った後、領主が夕食を共にしたいと声をかけられた。
構わないと告げて食堂に案内され、そして黙々と今も食べている。
この体、食べようと思えば幾らでも食べられそうだ。食べ溜めが出来るのかもしれない。
「口に合ったなら何よりだ」
そんな俺を見ている領主は口で笑みを作る。ただし目が笑っていない。
事務的な笑みだ。まあ、だからどうという訳でも無いが。
「ふふっ、可愛いわね。女の子も欲しくなってしまうわ」
ただしその隣に座る女性は、ふんわりとした笑みでそう告げた。
こちらはしっかりと笑っている。本気かどうかは解らないが。
彼女は領主の妻だそうだ。名は・・・名乗られたが覚えていない。
ミルなんとか、という名前だったと思う。多分。
そもそも領主と息子の名前もちゃんと覚えられていないしな。
いや、覚えられないと言うよりも、覚える気が無いと言うのが正しいが。
「息子はどんどん可愛げが無くなってしまうんだもの・・・」
「母上、男児など、皆何時か可愛くなくなるものです」
「あら、そうかしら。大人になっても可愛い方は可愛いわよ?」
「私にそれを求められても困ります。そんな者は例外です」
息子であるライは、母親の言い分に困った表情を見せている。
まあ、男が可愛くあれと言われても、そういう反応の人間が多いだろう。
特にこの世界の様に、魔獣の様な危険な生き物がいる世界では。
とはいえ魔法、魔術が存在する以上、男女の身体差を崩す事も出来ると思うがな。
実際俺がいい例だ。とはいえ俺は実験体である以上、例外な気もするが
「はぁ、やっぱり少し無理しててでも、女の子を生む為に頑張れば良かったわ。そうすれば今頃食卓には、ミクさんの様な可愛い子が座っていたのに」
「俺の様な娘など止めておいた方が良い。碌な事にならない」
常に正しく生きようとして、結局身の破滅を引き寄せる。
この家が貴族ならば尚更、そんな娘は居ない方が良いだろう。
基本的に悪党で居なければならないのが貴族だからな。
いや、今の俺の様に、悪党として生きようとしているなら良いのか?
「そうかしら・・・それにしても、ごめんなさいね、この人は気が利かなくて」
「気にしていない。寝床を貸してくれただけでも十分だ」
何の事かと言えば、俺の服の事だ。夫人は俺を見た時、先ずそこで夫を責めた。
客人としてもてなすのであれば、服も用意してあげなさいと。
布を纏っただけの姿の俺を放置している、というのが許せなかったそうだ。
領主の言い分としては、俺が好きでこの恰好をしている、と思っていたらしい。
ただそこで俺が、服が無いから巻いているだけだ、と答えてしまった。
結果として夫人の静かな怒りで、領主が小さくなってしまっている。
俺としては本気で気にしていないのだが。
「それに魔核の取り出しもしてくれるのであれば、俺に文句など無い」
俺が倒した魔獣の解体をしてくれる上に、魔核の取り出しもしてくれる。
解体した魔獣は買取扱いで、金も貰えるのだから文句など有るはずも無い。
「でも貴女のおかげで街は魔獣被害を受けなくて済んだわ。感謝の気持ちを伝えるなら、その恰好のままになんてさせておけないわよ」
「代わりに俺は、門を壊したがな」
「物は壊れても直せるわ。人は死ねば生き返らない。貴女は壊してはならない物を守ったわ」
「そうか」
夫人も咎める気は無し、という事か。むしろ好ましいとすら思っているらしい。
まあ、あの場に居たのは商人達も多かった。
彼らを見殺しにしたという話になれば、この街の流通も滞りかねない。
とはいえ兵士達の反応を見るに、致し方ない行動だったように思えるが。
まだこの世界の常識に疎い俺には判断しかねるな。
『妹が褒められている・・・兄として鼻が高いぞ!』
ここまで妙に静かだった精霊は、領主の飲む酒に漬かりながら笑い始めた。
もう妹と兄の件には突っ込む気も起きない。
ただアレは言った方が良いんだろうか。だが領主は気にせず飲んでいる。
『ワインの僕漬け。僕漬けワイン? どっちでも良いかー! ねえ美味しい? 美味しい?』
・・・まあ、良いか。俺以外に見えていないなら、居ないのと同じだろう。
「所でミクさんは、何時までこの街に滞在される予定なのかしら」
「特に決めていない。とりあえず街道を歩いて街を目指していただけだから、目的らしい目的も特に無い。この後何処かに行きたいという目的すらない」
夫人の問いに答え、そこで改めて思った事がある。
俺は何を目的に生きれば良いのだろうかと。
悪党になるという目的はある。そこだけは大前提だ。
だが悪党として生きて、どうなりたいのかという物が無い。
とりあえず生きて居たい。死にたくない。気分良く過ごしたい。
ただそれは、あくまでどう生きるかであって、何かをしたいという目的ではない。
目的らしい目的が何も無い。その事実を口に出して気が付いた。
いや、よくよく考えれば今までの人生も、俺はそうだった様な気がする。
品行方正に、真面目に、真面に、ただ愚直に努力をして生きて行く。
目的は周囲が決めていて、俺はその為に動く歯車であり続けた。
ただ悪党になれなかった事で、邪魔になると弾かれる程度の歯車でしか無かったが。
こういう所も排除され続けた要因だろう。融通が利かない人間は世間にとって邪魔だと。
「そう、だな。あえて目的があるとすれば、目的を見つけるのが目的、か」
口に出しておきながら、何やら青少年の主張の様だなと苦笑する。
自分探しの旅にでも出て行きそうな言葉だ。
だが領主達はそんな俺を嗤う事なく、夫人はむしろ表情を輝かせた。
「まあ、まあ、では暫くご滞在下さいな。明日は服も買いに行きましょう貴女さえ良ければ好きなだけ滞在してくれて構いませんよ。ふふ、これで暫く我が家も華やかになるわね」
心から嬉しそうに告げる夫人に言葉に、領主も息子も異を口にしない。
もしやこの家は、領主では無く夫人が一番の権力者なのか。
服か。まあ貰えるというのであれば、否というつもりは無い。
恐らくはドレスの類になる予感はするが、別に抵抗も無いしな。
ただ何時までもここに居るつもりは無い以上、普通の服も欲しいが。
『妹よー! 可愛い服を着てどこに行ってしまうのか! 兄は寂しい!!』
いつの間にかグラスから抜け出していた精霊は、ハンカチを嚙みながら泣いている。
寂しいもクソも、お前勝手について来てるだけだろうが。
そもそも既に三回も投げ捨ててるのに戻って来るな。
『妹より先に僕がオシャレになってやるもんね!』
ガン無視していると、精霊は唐突に自分の服を変化させた。
そして出来上がったのは、孔雀を彷彿とさせる姿。
派手な色の羽を纏い、今にも踊り出しそうな雰囲気がある。
こいつの中でオシャレとは一体どうなっているんだ。
『ふふふ・・・僕のオシャレに言葉も出まい。やはり妹より兄が偉大なのだ!』
殴り飛ばしたい。妹じゃないけど思いっきり殴り飛ばしたい。
『よーし、気分良くなって来た! 踊るぞー!』
精霊はまた俺との約束など忘れ、増え始めてテーブルを埋め尽くす。
そして全くそろっていない踊りを始め、ご機嫌に歌まで歌い出した。
『いえーい!』『妹よ、のってるかーい!』『あははははっ!』『へいへーい!』
尚見えているのは俺だけだ。俺だけがこの訳の分からない状況に晒されている。
その間領主や息子、夫人から何かを言われた気がしたが、全く覚えていない。
よし、目的が一つ出来た。何時かこいつ絶対排除してやる。
「美味いからな」
食事を堪能して少し経った後、領主が夕食を共にしたいと声をかけられた。
構わないと告げて食堂に案内され、そして黙々と今も食べている。
この体、食べようと思えば幾らでも食べられそうだ。食べ溜めが出来るのかもしれない。
「口に合ったなら何よりだ」
そんな俺を見ている領主は口で笑みを作る。ただし目が笑っていない。
事務的な笑みだ。まあ、だからどうという訳でも無いが。
「ふふっ、可愛いわね。女の子も欲しくなってしまうわ」
ただしその隣に座る女性は、ふんわりとした笑みでそう告げた。
こちらはしっかりと笑っている。本気かどうかは解らないが。
彼女は領主の妻だそうだ。名は・・・名乗られたが覚えていない。
ミルなんとか、という名前だったと思う。多分。
そもそも領主と息子の名前もちゃんと覚えられていないしな。
いや、覚えられないと言うよりも、覚える気が無いと言うのが正しいが。
「息子はどんどん可愛げが無くなってしまうんだもの・・・」
「母上、男児など、皆何時か可愛くなくなるものです」
「あら、そうかしら。大人になっても可愛い方は可愛いわよ?」
「私にそれを求められても困ります。そんな者は例外です」
息子であるライは、母親の言い分に困った表情を見せている。
まあ、男が可愛くあれと言われても、そういう反応の人間が多いだろう。
特にこの世界の様に、魔獣の様な危険な生き物がいる世界では。
とはいえ魔法、魔術が存在する以上、男女の身体差を崩す事も出来ると思うがな。
実際俺がいい例だ。とはいえ俺は実験体である以上、例外な気もするが
「はぁ、やっぱり少し無理しててでも、女の子を生む為に頑張れば良かったわ。そうすれば今頃食卓には、ミクさんの様な可愛い子が座っていたのに」
「俺の様な娘など止めておいた方が良い。碌な事にならない」
常に正しく生きようとして、結局身の破滅を引き寄せる。
この家が貴族ならば尚更、そんな娘は居ない方が良いだろう。
基本的に悪党で居なければならないのが貴族だからな。
いや、今の俺の様に、悪党として生きようとしているなら良いのか?
「そうかしら・・・それにしても、ごめんなさいね、この人は気が利かなくて」
「気にしていない。寝床を貸してくれただけでも十分だ」
何の事かと言えば、俺の服の事だ。夫人は俺を見た時、先ずそこで夫を責めた。
客人としてもてなすのであれば、服も用意してあげなさいと。
布を纏っただけの姿の俺を放置している、というのが許せなかったそうだ。
領主の言い分としては、俺が好きでこの恰好をしている、と思っていたらしい。
ただそこで俺が、服が無いから巻いているだけだ、と答えてしまった。
結果として夫人の静かな怒りで、領主が小さくなってしまっている。
俺としては本気で気にしていないのだが。
「それに魔核の取り出しもしてくれるのであれば、俺に文句など無い」
俺が倒した魔獣の解体をしてくれる上に、魔核の取り出しもしてくれる。
解体した魔獣は買取扱いで、金も貰えるのだから文句など有るはずも無い。
「でも貴女のおかげで街は魔獣被害を受けなくて済んだわ。感謝の気持ちを伝えるなら、その恰好のままになんてさせておけないわよ」
「代わりに俺は、門を壊したがな」
「物は壊れても直せるわ。人は死ねば生き返らない。貴女は壊してはならない物を守ったわ」
「そうか」
夫人も咎める気は無し、という事か。むしろ好ましいとすら思っているらしい。
まあ、あの場に居たのは商人達も多かった。
彼らを見殺しにしたという話になれば、この街の流通も滞りかねない。
とはいえ兵士達の反応を見るに、致し方ない行動だったように思えるが。
まだこの世界の常識に疎い俺には判断しかねるな。
『妹が褒められている・・・兄として鼻が高いぞ!』
ここまで妙に静かだった精霊は、領主の飲む酒に漬かりながら笑い始めた。
もう妹と兄の件には突っ込む気も起きない。
ただアレは言った方が良いんだろうか。だが領主は気にせず飲んでいる。
『ワインの僕漬け。僕漬けワイン? どっちでも良いかー! ねえ美味しい? 美味しい?』
・・・まあ、良いか。俺以外に見えていないなら、居ないのと同じだろう。
「所でミクさんは、何時までこの街に滞在される予定なのかしら」
「特に決めていない。とりあえず街道を歩いて街を目指していただけだから、目的らしい目的も特に無い。この後何処かに行きたいという目的すらない」
夫人の問いに答え、そこで改めて思った事がある。
俺は何を目的に生きれば良いのだろうかと。
悪党になるという目的はある。そこだけは大前提だ。
だが悪党として生きて、どうなりたいのかという物が無い。
とりあえず生きて居たい。死にたくない。気分良く過ごしたい。
ただそれは、あくまでどう生きるかであって、何かをしたいという目的ではない。
目的らしい目的が何も無い。その事実を口に出して気が付いた。
いや、よくよく考えれば今までの人生も、俺はそうだった様な気がする。
品行方正に、真面目に、真面に、ただ愚直に努力をして生きて行く。
目的は周囲が決めていて、俺はその為に動く歯車であり続けた。
ただ悪党になれなかった事で、邪魔になると弾かれる程度の歯車でしか無かったが。
こういう所も排除され続けた要因だろう。融通が利かない人間は世間にとって邪魔だと。
「そう、だな。あえて目的があるとすれば、目的を見つけるのが目的、か」
口に出しておきながら、何やら青少年の主張の様だなと苦笑する。
自分探しの旅にでも出て行きそうな言葉だ。
だが領主達はそんな俺を嗤う事なく、夫人はむしろ表情を輝かせた。
「まあ、まあ、では暫くご滞在下さいな。明日は服も買いに行きましょう貴女さえ良ければ好きなだけ滞在してくれて構いませんよ。ふふ、これで暫く我が家も華やかになるわね」
心から嬉しそうに告げる夫人に言葉に、領主も息子も異を口にしない。
もしやこの家は、領主では無く夫人が一番の権力者なのか。
服か。まあ貰えるというのであれば、否というつもりは無い。
恐らくはドレスの類になる予感はするが、別に抵抗も無いしな。
ただ何時までもここに居るつもりは無い以上、普通の服も欲しいが。
『妹よー! 可愛い服を着てどこに行ってしまうのか! 兄は寂しい!!』
いつの間にかグラスから抜け出していた精霊は、ハンカチを嚙みながら泣いている。
寂しいもクソも、お前勝手について来てるだけだろうが。
そもそも既に三回も投げ捨ててるのに戻って来るな。
『妹より先に僕がオシャレになってやるもんね!』
ガン無視していると、精霊は唐突に自分の服を変化させた。
そして出来上がったのは、孔雀を彷彿とさせる姿。
派手な色の羽を纏い、今にも踊り出しそうな雰囲気がある。
こいつの中でオシャレとは一体どうなっているんだ。
『ふふふ・・・僕のオシャレに言葉も出まい。やはり妹より兄が偉大なのだ!』
殴り飛ばしたい。妹じゃないけど思いっきり殴り飛ばしたい。
『よーし、気分良くなって来た! 踊るぞー!』
精霊はまた俺との約束など忘れ、増え始めてテーブルを埋め尽くす。
そして全くそろっていない踊りを始め、ご機嫌に歌まで歌い出した。
『いえーい!』『妹よ、のってるかーい!』『あははははっ!』『へいへーい!』
尚見えているのは俺だけだ。俺だけがこの訳の分からない状況に晒されている。
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