悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目

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第11話、登録理由

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「おい、とりあえずそこの馬鹿は武装解除してふんじばって、奥に突っ込んどけ」
「「「はい、支部長」」」

 いかつい男が職員達に指示を出すと、俺が殴り飛ばした男は奥に運ばれていった。
 指示通り装備を剥いだ上で縛られるのだろう。その後はどうなるのか知らないが。

 しかし、支部長か。お偉いさんなのに、奥に引っ込んでいないのか。
 ふと馬鹿どもの残りを見ると、支部長という言葉を聞いて一瞬固まっていた。
 部下が役職を口にしたのは、巨漢が何者なのか解らせる為にわざと呼んだか。

「よっと」

 支部長と呼ばれた男はカウンターをまたぎ、こちら側に出て来た。

「・・・でかいな」
『でかー! 登りがいがあるね!』

 身長は大の大人の1,5倍程といった所か。横幅も筋肉で溢れている。
 遠目の時点で大きさは感じていたが、傍に立たれると尚更巨体を実感するな。
 近くに居るだけで威圧感がある。精霊はそんな男によじ登り始めた。

「それで、お前らはアイツの仲間って事で良いのか?」
「い、いや、アイツとはちょっとした知り合い程度で、仲間って訳じゃ、なあ?」
「そ、そうそう。最近ちょっと一緒に仕事する事があったから、今回も偶々つるんでただけで、仲間って訳じゃ無いって」

 そんな巨漢の質問に対し、明らかに怯んだ様子で答える男達。
 連れて行かれた男の事は見捨てるつもりの様だ。
 自分の命優先で依頼人を捨てる人間が、仲間を助ける訳が無いか。

 ただそんな男達への目は、職員だけではなく、同業者すら冷たいものだが。

「ふんっ・・・そうかい」
『登頂!』

 それは目の前の巨漢も同じ様子で、男達をつまらなそうに睥睨している。
 だが不意に視線を受付に戻し、対応していた受付所から書類を受け取った。
 精霊は頭に登って拳を掲げている。

「で、罰則金が気に食わねえだと? そうか、じゃあ罰則金は無しで構わねえぞ」
「え、い、良いのか?」
「やった!」
「ああ。お前らの登録は抹消しておくから、それで良い」
「「は?」」

 一瞬喜んだ男達は、巨漢の言った言葉に呆けた顔を見せた。

「当たり前だろうが。組織の規則に従う気が無い連中の面倒なんざ、見てやる理由が無い。ウチも慈善事業でやってんじゃねえんだよ。何事にも事故や例外は有るから、達成出来なくても仕方ねえ時は在る。だがてめえらのは仕事の放棄だ。せめて依頼人抱えて逃げやがれ。馬鹿が」

 巨漢の言う通り、組織に属するとはそういう事だ。
 組織の決まりを守って仕事をするからこそ、報酬を受け取る事が出来る。
 規則を守らずに報酬を得たいのであれば、完全に個人で事業を行う他に無い。

 とはいえそれはそれで、もっと大きな規則の枠組みに囚われる事になるとは思うが。

「なっ、ちょ、待てよ! じゃあ俺達これからどうすれば良いんだよ!」
「そ、そうだ、突然登録抹消なんかされたら・・・!」
「まあ、仕事なんて無いだろうな。定職に就けないからウチで登録してんのに、登録抹消される様な奴を雇ってくれる所があるとは思えねえしな。ああ、開拓村なら引く手数多か」

 この二人がどの程度の能力なのかは解らないが、何となく登録抹消者の評価は理解出来た。
 恐らくではあるが、この組合は問題児の面倒も多少は見る組織、という側面が有るのだろう。
 だがそんな組織であったとしても、面倒を見られる限界という物がある。

 ならば組合が見捨てた様な連中の信用は、地に落ちる所か地下に埋まる勢いだろう。
 そんな信用ならない連中を雇いたい者が居るだろうか。少なくとも俺は嫌だ。
 開拓村に関しては・・・魔獣が居る様な世界の未開の地を開拓など、命がけだろうな。

「す、すみませんでした! 勘弁してください!」
「払います! 罰則金払います! だから許してください!」
「・・・はぁ。だってよ。とっとと手続きしてやんな。次は無いって注意も入れとけ」

 巨漢は呆れた様に溜め息を吐いてから、受付嬢の書類を返した。

「ったく、下らねぇ。こっちとしてもあんな馬鹿でけぇ魔獣相手って事で、軽い罰則金だけで済ませてやろうって温情だっつうのに・・・馬鹿共が。普通依頼主置いて逃げた連中を、あの程度の罰則金で済ませられる訳ねえだろうが。今回の件で誰が頭下げたかも解んねえのか・・・」

 受け付けで手続きを始めた連中に対し、巨漢は吐き捨てる様に言った。
 成程。罰則金で済ませてやるのは温情だった訳か。
 だが馬鹿にはその温情が伝わらず、むしろ仇で返された訳だ。

「さて、後回しにして悪かったな、お嬢さん」
「む?」

 男はそこで俺に体を向け、というかしゃがみ込んで視線を合わせて来た。

「改めて礼を言う。うちの職員を助けてくれてありがとうな」

 そして巨漢らしい大きな手で、俺の頭を雑に儂儂と撫でる。

「別に、そんなつもりは無い。何となく気に食わなかったから殴っただけだ」

 その手をパシッと払い、礼の意言葉を拒否した。
 そうだ、俺はただ腹が立っただけの事。
 猪の時と同じだ。ただムカついたから殴った。それだけだ。

 礼を言われる様な事では無いし、ましてや善意なんて欠片も無い。

「そうかい。それでもありがとよ」

 それでも礼を言うのであれば、俺としてはもうどうでも良い。
 言いたい事は言ったし、しつこく拒否するのも面倒くさい。

「それで嬢ちゃんは、例の大物殺しのお嬢ちゃんだよな?」
「大物殺し?」
「ほら、バカでかい猪の魔獣を一撃で仕留めただろ?」

 そんな風に呼ばれていたのか。領主館では聞かなかったが。

「正確には3発だ」

 精霊で一撃、頸動脈に一撃、頭に一撃、計三発。

「どっちにしろとんでもねえな。その体のどこにそんな力が有るのやら」
「生まれつきだ」

 実験動物だからな。生まれつき手に入れた力以外の何物でもない。

「かぁー、良いねぇ、才能に恵まれてて」
「そういうアンタこそ、単独であの猪を倒せそうだがな」

 俺の言葉を聞いた巨漢は、ニヤリと獰猛な笑みを見せる。
 恐らく肯定の意思表示なのだろう。
 なら何故あの場に出なかったのか、という疑問は残るが。

「所でお嬢ちゃんは、ここに何か用だったのかい?」
「いや、適当に中を覗いたらくだらない騒動を見かけただけだ」

 用らしい用事は何も・・・ああいや、一つあると言えば有るか。

「一つ聞きたいんだが」
「おう、何だい。何でも聞いてくれ」
「魔獣の出る場所の資料などは有るか?」

 俺の目的の一つである魔核。それを手に入れるには魔獣を見つける必要が有る。
 自分の足で探し回るのも手ではあるが、資料が在るならそれに越した事は無い。

「有るには有るな」
「どこだ。見たい」
「あー・・・そういう資料は、登録した奴だけに公開って事になってるんだ。以前は誰でもは入れて見れる様にしてたんだが、資料の紛失やら破損やらがあってな」

 適当な事をする連中が居ると、規則が生まれる典型だな。

「俺は登録できるか。いや、登録に関して何か不利益は有るのか」
「登録は・・・あーまー、良いか。うん、登録は出来る。不利益は・・・あえて言うなら、依頼を年間に何度か受ける事かな。一度も依頼を受けずに登録だけ、ってのは無しだ」

 妥当、というよりも、大分緩いな。その程度で良いのか。
 そう思っていると、巨漢は身と声を潜めた。

「うちに登録してる人間は税金免除なんだが・・・実際は依頼料から引かれてるんだよ。だから依頼を受けなさ過ぎた場合、一時凍結ってかんじだな。そうなると本来免除されるはずだった税金を払わなきゃ凍結解除は出来ない。まあ、凍結する時点で街を逃げてたりするけどな」

 天引きの部分はかなり声を抑えめに、俺だけに聞こえる様に言って来た。
 本当は内緒の事情という事だろうか。何故俺に言ったのかは解らんが。

 つまりこの組合という組織も、結局は国の枠組みの一つな訳だ。

 社会のはみ出し者を放置するよりも、こうした組合で働かせて税金を吸い上げるか。
 雑にではあるが、そういった者達を管理下に置けるという意味も大きいだろう。
 本人達は税金を払ってないつもりでも、実際はどっちの方が税金が重いのやら。

「剝奪と凍結は違うのか?」
「凍結は単純にうちの利益にならない人間なら要らない、ってだけだからな。それ以上の手間を費やす価値が無い。剥奪は本格的に不利益を起こした人間に対する処置だ。ソイツの名も顔も特徴も能力もきっちり他の支部と共有して、街を逃げて名を変えようとも絶対に排除する」
「成程、不要か害か、という事か」

 どちらにせよ俺に損は無いな。面倒になったら凍結されても問題無い。
 今資料を見る為だけに登録しようとしているだけだし。

「成程。それだけで良いなら登録しよう。資料が見たい。今すぐ見れるのか?」
「お、おう。じゃあすぐに作るから、ちょっと待っててくれ」
「解った」

 巨漢が奥に引っ込んで行くのを見届けてから、近くの椅子に腰を下ろした。

『僕も登録する! 妹と一緒!』

 お前は人に見えないから無理だ。後絶対途中で依頼を忘れる。
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