悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目

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第14話、ハゲ頭

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 手下を連れた親分・・・兄貴分といった所か?
 そんな様子の男が俺を見定める様に見つめていた。
 ハゲ頭で額から顎にかけて大きな傷があり、それが風貌に迫力を出している。

「こいつです! このガキです!」

 男がどう出て来るのかと思っていると、取り巻きの一人が叫んだ。
 誰かと思えば、出入り口の通路で腹を殴った方か。
 腕を折った方は居ないらしい。

「そうかい」

 ただハゲ男は特に意に介した風も無く、ゆらりと俺に近づいて来る。
 俺は俺で特に構えずに立ち、男の接近をただ見ていた。
 そんな俺達の間に不穏な物を感じたのか、周囲から人が逃げていく。

 ハゲ男は横目でそれを確認しつつ、俺の前に立つとしゃがみこんだ。
 まるで子供に目線を合わせて話しかけるかの様な態度だ。

「お嬢ちゃん、何の用でここに?」
「別に、特にこれといった用は無い」
「じゃあウチの奴をぶちのめしたのは?」
「会話も出来ん馬鹿が人の頭を掴みに来たからだ。無抵抗でいる理由が無い」
「はっは、そりゃ確かにその通りだ」

 ハゲ男は愉快気に笑うと、笑ったまま立ち上がって取り巻きへと近づく。
 そして先程叫んだ男に向け、こっちに来る様にと指で示した。

「な、なんでしょう、あにぶへっ!?」

 ただ男が近づいてきた所で、ハゲ頭はその男の事を殴り飛ばした。
 その力は中々のものだったらしく、歯が空を舞ったのが見える。

「ボケがぁ! 誰に喧嘩売ったかも解んねえのかてめえは! そもそもてめぇから仕掛けときながら、良く俺に尻ぬぐいさせようと思ったなぁ! てめえは俺の事舐めてんのか! ああ!?」
「ひっ、ひぃ・・・!」

 ハゲ男の剣幕に男は怯え、他の取り巻き立ちも少し怯んだ様子を見せている。
 まさか俺では無く、手下を殴るなどとは思っていなかった、という感じだろう。
 それは俺自身も同じ事で、少し驚いた気分でその様子を見ていた。

「お嬢ちゃん、物を知らねぇ馬鹿が迷惑をかけた事、この通り頭を下げる。あのバカの事はこっちできっちりしめておくから、どうか許してくれねえか」
『ふむ、良かろう! だが次は無いぞ!』
「・・・」

 ハゲ男が俺に向き直ると頭を下げ、何故か精霊が許しを出している。
 そのせいと言えば良いか、おかげと言えば良いか、驚きが少し抜けた。

「解り易いパフォーマンスだな」

 そして驚きが抜けてしまえさえすれば、ハゲ男の意図は大体だが解って来る。
 恐らくこのハゲは、俺が何者か良く解っているんだろう。
 先日の大型魔獣を倒した子供だと。下手に喧嘩を売らない方が良い相手だと。

 そんな相手に突っかかったのが自分の部下で、このまま悪感情を持たれるのは不味い。
 下手に本格的な敵対行動をとられる前に、上の人間は友好的だと示したいと。
 その為なら部下一人二人の怪我程度、目を瞑って構わないと思っている訳だ。

 不幸だったのは、兄貴が仕返しをしてくれると思っていた男か。
 とはいえ子供の頭に掴みかかる様な奴だ。同情する気は一切無い。

「許しては貰えねぇ、って事かい?」
「別にそんな事は言っていない。元々怒ってもいないしな。俺は手を出されたからやり返しただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。無論、やるつもりなら受けて立つが」
「そりゃ勘弁。大型の魔獣一人で倒すお嬢ちゃんと、利も無いのに事を構えたかねえなぁ」

 利があるならば俺相手でも事を構えるつもりがあると聞こえるな。
 いや、事を構える事自体は問題じゃない、と言いたげとでも言えば良いか。
 本気なのか虚勢なのか解らんが、面子は潰されない様に保ちたいと言う風に見える。

 面子か。組織だった悪党には必要な物だったな。
 俺にはつまらない物にしか見えないが。

「んじゃあ、この話はこれで手打ちって事で、宜しいかい?」
「好きにしろ」
「ああ、感謝するよ、お嬢ちゃん。お客さん方もお騒がせして申し訳なかった! もう何も問題はねえから今日も楽しんで行ってくれ!」

 ハゲ男がパンと手を叩いてそう告げると、空気が弛緩したのを感じた。
 そして言葉通り、客達はそれぞれ好きな様に動き出す。
 傍らに気に入りの女を侍らせながら。

 その間に殴られた男も連れていかれ、恐らく別の場所で治療を受けるんだろう。

「それでお嬢ちゃんは、これからどうするつもりなんだ? まさか女を買いに来た訳でも・・・いや、そっちの趣味があるのか? うちとしてはお客さんなら大歓迎だが」
「ただの興味本位だ。見張り共が素直に教えてくれたら、入らずに帰っていた」
「そういう事かい。ったく、そういう目端が利かねえから何時までも下っ端なんだよなぁ。ちょーっと世間様に耳傾けりゃ、お嬢ちゃんが何者かぐらい解るだろうに」

 男は呆れた様に溜め息を吐き、やはり俺の事を知っている事を告げる。

「もし違ったらどうするつもりだった」
「そりゃ、ま、ご想像にお任せするよ」

 つまりは、痛い目に遭わせていた、という事だな。
 相手が化け物だから、仕方なく頭を下げて場を収めたと。

「悪党だな」
「否定は出来ないねぇ」

 ニィっと笑うハゲ男に、不愉快な気分になるのは何故だろうな。
 俺も同じ悪党のはずなのに・・・同族嫌悪という奴か。
 まあ、どうでも良いか。これ以上関わる事も無いだろうしな。

「俺は帰る」
「一人で帰れるのかい? 迷子なんじゃないのか?」
「・・・何故知っている」
「スラムで見覚えの無い子供が暴れているって情報が入って来ててな。周囲をキョロキョロしながらフラフラフラフラ、どんどん奥へ入って行っているとか・・・どう聞いても迷子だろ?」
『確かに迷子だ!』

 煩い。言われなくても解ってる。

「随分と目と耳が良い様だな」
「ウチの組織はこの辺りでは一番でかいんでね。でなきゃこんな商売出来ねえさ」
「そうか。なら下っ端の教育もしっかりしておけ」
「お前さんに殺された馬鹿共は流石にウチの者じゃねえさ。もしそうなら流石に引けねぇ」
「ほう・・・つまり、引かずに済むと思っている訳だ」

 それはまるで、その気になればお前を殺せると、そう言われている様に聞こえるぞ。
 同時に、余り調子に乗らない方が良いという脅しにも聞こえるな。

「マテマテマテ、さっきも言ったろ。利も無いのにやらねえさ」
「身内が殺されたらやるんだろう?」
「―――――正気か、お嬢ちゃん」
「先に脅しにかかったのは貴様だ」

 貴様にとっては面子が大事で、俺に釘を刺しておきたかったのだろう。
 だが俺にしてみれば、ただ不愉快な脅しをされただけに過ぎない。
 悪党として自由に生きると決めた俺に、生死をちらつかせる脅しは逆効果だ。

 そのまま脅しを押し通すなら、俺もこのまま暴れたって構いはしない。
 殺気を込めて男を睨み上げ、どこまで本気か態度で示す。

「・・・まいった。降参。勘弁してくれ。利の無い喧嘩は本気でしたくねえんだ。お嬢ちゃんと本気でやりあったりすれば、どんな被害が出るか解ったもんじゃねえ」

 だが男は途中で大きな溜息を吐き、手を軽く広げながらそういった。
 それでも暫く男を睨んだが、態度を変えない様子に俺も肩の力を抜いた。

「一応言っておくが、俺は今後も、俺に手を出す人間には容赦しない」
「解った、うちの者にはしっかりと周知させておく。それでも手を出すやつは自己責任だ。けどそっちから手を出すのは勘弁してくれよ」
「俺が不愉快にならなければ手はださん」
「判断基準が曖昧で怖えな・・・そこも一応周知させておくよ・・・はぁ。なんたってこんな恐ろしい嬢ちゃんが生まれるのやら。勘弁してくれ」

 それは俺を生み出した連中に言ってくれ。もう全員死んでるがな。

「このまま一人にさせる方が不安だな。スラムの外までうちの者を・・・いや、領主館まで案内を付けるから、頼むから大人しく帰ってくれ」
「そうか、それは感謝する」
「・・・感謝とか口にするのか。意外だな」

 世話になれば感謝するだろう。一体俺を何だと思っているんだ。
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