悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目

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第17話、初依頼

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『おー、人いっぱーい!』
「・・・本当に多いな」

 とりあえず街を出る挨拶が必要かと思い組合に来た所、人の多さにげんなりしている。
 近隣で仕事をするならこの時間に受けに来る必要が有るとはいえ、多過ぎはしないか。

「日雇い以外の仕事もあるだろうに・・・」

 少なくとも魔獣討伐などの依頼は、その日の内に終わらせるのは無理だろう。
 いや、出来なくはないだろうが、流石に当日を期日にするのは厳しいはずだ。
 先ず狙った魔獣が見つかるかどうか、という点も有るはずだからな。

 となれば日を跨いでの仕事も有るはずなのに、これだけ人が多いのはどうなんだ。
 それだけあぶれている人間が多いのか、それとも自由人が多いのか。
 ある意味で自営業に近いからな。仕事をしたい時だけ来る人間も居る気はする。

 そう考えると、今日は偶々人が多いだけの可能性も有るのかもしれない。
 いや、偶然だろうと必然だろうと、人が多く並んでいる事は変わりないんだが。

「・・・コレ、並ぶのか・・・面倒だな」
『じゃあ僕が代わりに並ぶー!』

 精霊が並んだ所で誰も気が付いていないだろうが。出来るなら変わって欲しいが。
 とはいえカードを使う事を考えれば、並んで受付に話を通す必要はある。
 重い足取りで人の列に並び、溜め息を吐きながら順番を待つ。

「なあ、あれって」
「しっ、止めとけ」
「目を合わせるな」

 気のせいか、腫れものを扱う様な風に言われている気がする。
 まあ、絡まれないならその方が楽で良いが。
 ただ俺に対して不思議そうな表情を向けている者も居るな。

「何であんな小娘が並んでんだ?」
「おい、ガキンチョ、こんな人の多い時間にふざけてんじゃねえぞ」

 まあこれだけ人が多ければ、こんな風に絡んでくる人間も居るだろうな。
 他にも同じような態度の者は居たが、そっちは誰かに止められている。
 こいつらは止める人間が居なかったらしい。まあ、つまりはそういう事だろう。

「俺が並んでいる事で貴様らに不都合でもあるのか」
『そうだぞー! 兄だって並んでるんだぞ! 大人しく並べー!』
「ああ!? あるに決まってんだろうが!」
「ガキの対応で受付が滞ったら迷惑なんだよ!」

 こいつらは馬鹿なんだろうか。俺が依頼主側の人間とは思わないのか。
 いや、たとえ依頼主なのだとしても、子供のするような依頼を受けない人間達か。
 少なくとも、俺から不評を買っても問題無いと思っての行動なんだろうな。

 武装も狩りをするらしき装備だし、明らかに荒事専門の連中だろう。

「おら、解ったらとっとと退――――」

 肩を掴んで列から弾こうとしたので、その手を取って放り投げた。
 そんなに上手く投げたつもりは無かったが、思いの他綺麗に投げれてしまった。
 男はキョトンとした顔をしながら、綺麗な放物線を描いて壁へと激突する。

「ぐえっ!?」
『おー、綺麗に飛んでった! 10点!』

 壁への激突よりも、その後の落下の方が痛かったらしい。
 上手く受け身を取れなかった事で悶えている。
 連れらしい男は一連の流れに驚き、あんぐりと口を開けていた。

「朝から何やってんだてめえら!」

 するとそこに昨日の支部長とやらが出て来て、ぎろりと鋭い視線を向けて来た。
 驚いていた男はそこで正気に戻り、気まずそうな視線を彷徨わせる。
 支部長が怒鳴った程度でその態度を見せるなら、最初からやるなと言いたい。

「・・・何かと思えば嬢ちゃんかよ。何があった?」

 ただその支部長はというと、俺の姿を見るなりげんなりした様子を見せた。
 流石にそれは失礼ではと思うものの、二日続けてトラブルを起こせばそんな態度にもなるか。

「別に、俺が大人しく並んでいたら、俺を列から弾こうとしたから投げ捨てただけだ」
「・・・はぁ、よりにもよってなーんでこの嬢ちゃんに絡むかなぁ。馬鹿じゃねえの」

 俺がただ事実を伝えると、支部長は頭を抱えて心底面倒くさそうに息を吐く。

「くそっ、ふざけんじゃねえぞクソガキがぁ!!」

 その間に投げた男が復活したのか、血走った眼で叫んで俺を睨んでいた。

「オイコラ馬鹿野郎、止めろ」
「あんだ、邪魔すんな! 先に手を出したのはそのクソガキだぞ!!」
「良いから止めとけ。な」
「るせぇ―――――」

 ゴスッと、鈍い音がした。同時に叫んでいた男は力なく崩れ落ちる。
 支部長の拳が顔面に綺麗に決まり、意識を完全に失ったらしい。
 大分鈍い音だったから、顔の骨が折れていそうだ。少なくとも鼻は折れてるだろう。

「おい、誰でも良いからソイツ端に転がしておけ」

 支部長はつまらなさそうにそう言うと、視線を俺の方へ戻す。

「で、お嬢ちゃん、何か仕事を受けに来たのか?」
「いや、街を出ようと思ってな、出る前に挨拶が必要かと思った。これを使う訳だしな」
「あー、うん、真面目で大変よろしい。出来れば面倒も起こさないでくれるともっと助かる」
「俺は絡まれたから投げただけだ」
「・・・うん、そうな。まあ、そうだな。そう言われると何も言えねえわ」

 支部長は大きな溜息を吐き、顔を上げると俺に手招きをした。

「嬢ちゃんはこっち来い。一緒に並べてるとまた面倒が起きそうだ」

 随分な言い草だなと思ったが、並ばなくて良いなら好都合だ。
 文句を言わずに従い、促されるがままに受付の内側へと入る。

「んで、街を出るんだな? 行先は?」
「特に決めていない」
「は? 決めてない?」
「ああ。気の向くままに適当に歩いて行こうと思っていた。辿り着いた先が目的地だ」
「それは目的地って言わねえんだよ・・・」

 支部長はまた頭を抱え、困ったように項垂れる。
 もしや移動の際は、行先も決めていないといけなかったのか。
 そうなると少し面倒だな。どこにどんな街が有るのか知りもしないぞ。

 多少は名称と方向が解っているが、正確な地図が無いから解らないのとほぼ変わらん。
 たとえ決めて出たとしても、街中で迷った身としては辿り着ける気がしないぞ。

「・・・つまり、行先はどこでも良い、って事だよな?」
「そうだな。どこでも良い。とりあえず何処かに行きたい」
「なら丁度良い依頼がある」
「依頼?」
『いらいー?』
「ああ。商隊の護衛依頼だ。今日の朝期限の今日出発だ。既に人数は揃ってるはずだが、お前さん一人ねじ込む程度なら問題無く出来る。お前さんなら戦力としても申し分ないだろうしな」
「ああ、商隊の護衛ついでに、知らない街に行けという事か」

 確かにそれなら、迷子にならずに別の街に辿り着く事が出来そうだ。

「だが良いのか、突然こんな小娘を割り込ませて」
「大型魔獣を倒せる嬢ちゃんが護衛なら、向こうさんは大歓迎だろうさ。向かう先が少々危険な方向でな。強い護衛は居るには越した事はない、って判断をするだろうよ」
『妹はとっても強いからね! でも兄の方が強いよ!』

 成程。そういう事なら、路銀稼ぎのついでに受けても良いかもしれないな。
 荷物に宝石が有るとはいえ、金はあるに越した事はないだろうし。
 そもそも現金の類が少ないからな。組合で問題が無いならそれで良いだろう。

 あとお前、自分の方が強い強いと言うが、戦った事一度もないだろうが。

「解った。こちらとしては渡りに船だ。宜しく頼む」
「あいよ、すぐ手続きすっから、カード貸してくれ」
「ああ」

 支部長にカードを渡すと、昨日の様に専用の道具にカードを差し込んだ。
 そして何やら少し操作をしてからカードを引き抜き、俺に返して来た。
 ただその際、カードと一緒に割符の片側の様な物も渡された。

「商隊にこれを見せれば、依頼を受けた人間だって解る様になってる」
「成程。で、その商隊はどこに?」
「あそこに集まってる連中が居るだろ。アレのバンダナしてる奴が案内してくれる」
『何あれダサい』

 言われて指をさした方向に視線を向けると、武装した集団が固まっていた。
 その中にバンダナをした非武装の人間が居て、何やら色々と話し合っている。

「ま、道中他の護衛と喧嘩しねえようにな」
「約束はしかねるな。絡んで来たら容赦する気は無い」
「・・・手加減だけはしてやってくれ」

 手加減か。まあここまでしてくれたのだし、礼代わりに多少は気を使うとしよう。

「解った。出来る限りそうしよう」
『妹ってば優しい!』

 俺の返事を聞いた支部長は何かを言いたげだったが、溜め息を吐いて奥に戻って行った。

「さて、護衛依頼か・・・何が出て来るのやら」
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