悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目

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第18話、信用

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「ええと、じゃあそろそろ時間ですし、移動しま――――――」
「時間ギリギリだが、一人追加だ」
『ついてくぞー!』
「―――――え?」

 朝締め切りの出発という事は、事前に依頼を出している。
 だから当然と言うべきか、依頼を受けた人数は把握していたのだろう。
 なので全員集まった事を確認して、予定通りの時間に移動を開始する。

 そんなタイミングで現れた俺の事を、バンダナ男は怪訝そうな表情で見つめる。
 だが良くないのと思ったのか、柔らかい笑みに変えて少しかがんだ。

「お嬢さん、私共に何か用かな?」
「俺も護衛の一人だ」
『兄も!』

 護衛だとは欠片も思っていなさそうな男に向けて、先程貰った割符の様な物を見せる。
 すると今度は目を見開いて驚き、それから困った様な表情を見せた。

「ええと、それは、一体誰から受け取ったのかを聞いても良いかな?」
「支部長だ」
『でっかいやつー』
「お嬢さん、嘘を言ってはいけない。誰の考えか知らないが、ちょっとタチが悪いよ。正直に話してくれたらお嬢さんの事は悪いようにはしないから。付いて来たいと言う事なら・・・確約は出来ないが商隊頭に相談してあげよう。雑用は幾ら居ても困らないからね」

 ・・・うん? ああ、成程、これはアレか、不正をしたと思われているな。
 俺が何かしらの都合で商隊と同じ方向に行きたくて、その為にこんな事をしていると。
 そして組合の誰かがこの不正を考え、実行したと考えている訳だ。

 いや、解らなくはないが・・・不正で子供をねじ込んでも無理が有るだろう。
 どう考えても後で問題が起きるし、そんな事をした組合員は処罰を間違いなく受ける。
 まあ世の中信じられない事を平気でする人間も居るから、絶対無いとは言い切れないが。

「不正などしていない。これは支部長から受け取った物だ」
『そうだぞ! 妹は優しい約束したんだぞ!』
「・・・はぁ、お嬢さん、大人を騙すにはもうちょっと騙せる嘘を吐かないと。ったく、こんなお嬢さんにこんなくだらない事させたのはどいつだ・・・!」

 駄目だ。こいつ俺の話をまるで信じない。さっきの騒動を見てなかったんだろうか。
 いや、あの時は大人の中に埋まっていたし、俺の姿は見えてなかったのかもしれない。
 俺もこの男を確認できていなかったし、騒動が有った事しか解ってない感じか?

「あー、少し良いか」

 ただそこで、見てられないと言う表情を見せた護衛が一人、バンダナに声をかけた。

「ああ、すみません、これは組合へ抗議を行わなければなりません。商隊頭にも話を通しますので、出発は少々遅れる事になるかと。勿論ずれた分の依頼料はお支払いしますのでご安心を」

 ただバンダナ男はその行動を、早くいかないかという意味にとったらしい。
 申し訳なさそうに頭を下げるが、護衛の一人は「そうじゃなくて」と続ける。

「その嬢ちゃんが護衛なのは、本当だと思うぞ。少なくとも、俺より強いし」
「・・・は?」

 そこでバンダナ男はポカンとした顔を見せ、そして護衛の内の半数程は頷いていた。
 ただその発言に怪訝そうな顔をする護衛も居る辺り、こちらは俺の事を知らないんだろう。
 いや、知っていても信用してないとか、そんな辺りの話かもしれないが。

「先日大型魔獣が近隣に出たが、単独で討伐したのがそこのお嬢ちゃんだ。俺はその場で討伐を見てたから間違いない。赤子の手でも捻る様に仕留めていた」
『僕の活躍は!? 僕が勝ったんだよ!?』

 ああ、この男その場に居たのか。俺は覚えていないが、これは助かったな。
 あと精霊にとっては、アレは自分の勝利らしい。そういえばそんな事叫んでたな。

「・・・御冗談では」

 これで面倒な問答は終わると思ったが、それでもバンダナ男は信じられなかったらしい。

「冗談でも嘘でもない。こんな嘘ついて信用を無くす意味が無い」
「・・・本当に?」
「本当だ」

 という問答を数度繰り返した後で、信じられないと言う表情のまま俺に目を向ける。

「とりあえず、移動しないか。組合に抗議しても、実力ある者を付けただけだと言われるだけだと思うぞ。おそらくアンタの落ち度になって終わるだけだ。彼女は、強いからな」
「・・・解りました。では、行きましょうか」

 バンダナ男はどうしても俺の事が信じられない様子で、若干不服そうに了承した。
 そんな様子に説得していた護衛は苦笑をしていた。
 そうしてやっと移動をする事になったが、途中で護衛の一人が俺に寄って来る。

「先日は助かった。あの魔獣相手でも死なない自信はあったが、無傷で倒せたとは言えない。あの巨体で対策も何にも無しだったからな。あの時は言えなかったが、感謝している」
「・・・門の外に居たのか」
『居たのー?』
「逃げ遅れちまってね。仕方ないから倒す方向で構えてたら、アンタが出て来たって訳さ」

 そうか、あの時の周囲の様子から、てっきり倒せないものかと思っていた。
 だが商隊の護衛が倒す気になれば倒せる程度の魔獣だった訳だ。
 よく考えれば、支部長も単独で倒せるような態度だったな。

 これは少々、常識的な強さの認識を改める必要が有るかもしれない。

「成程。それは邪魔をしたな」
「いやいやいや、今言っただろう、助かったって。あんな魔獣を対策無しに相手なんて、したくねえよ普通は。事前に入念な準備して罠張って倒す類だぜ、あんなでかい魔獣」

 それは本心からの言葉なのだろう。本気で嫌そうな表情だ。
 となれば戦っていれば、狩れたとしても大惨事の可能性はあった訳か。

「どの道感謝は必要ない。俺はただ俺の我が儘で狩っただけだ。俺が気に食わないから殴り飛ばしただけの事だ。お前達を助けようなどと、そんな事は一切考えていなかった」
「そうかい。それでも仲間全員無傷だった事は事実だ。感謝してるよ」
『むふー。もっと感謝するが良い!』

 護衛の男がそう言うと、その仲間なのであろう連中が笑顔で手を振って来た。
 それが何だかむず痒くて、どう返して良いのか少し解らなくなる。

「そうか」

 だからそうとしか言えず、すると何故か苦笑された。
 更に女の護衛に可愛いと頭を撫でられた。本当に何故だ。
 そうして良く解らない扱いを受ける事暫く、荷車が集まっている所に辿り着く。

 1台2台所ではなく、10台以上の荷車が並ぶ様子に、大きな商隊なのだなと感じた。
 成程これは護衛の数も多い訳だと、居並ぶ護衛達の数に納得する。
 当然その荷車の傍には商人達が居て、頭らしき男にバンダナ男が近づいて行く。

 そして小声で何かひそひそと話をした後、バンダナ男がガツンと殴られた。

「馬鹿かお前は! あのお嬢ちゃんは今街で話題の嬢ちゃんだろうが! その程度の情報も何で耳にしてねえんだ馬鹿野郎!!」
「す、すみません・・・!」

 どうやら商隊頭の男は俺の事を知っている様だ。
 バンダナ男を怒鳴りつけ、その後何か指示を出して奥に行かせた。
 それを見届けてから商隊頭は俺に視線を向け、近づいて来ると頭を下げた。

「部下の教育が行き届いておらず、ご不快にさせた事を謝罪したい」
「いや、こちらも急な事を言った自覚はあるし、見た目の自覚もある。気にする必要は無い」
「そう言ってくれると助かる」

 そもそもこの依頼は急に支部長がねじ込んだものだ。
 となれば事前連絡など無いし、俺の姿が子供で信用ならないのも事実だ。
 バンダナ男はただ普通の行動をしただけで、別に不愉快な行動という訳でも無い。

 むしろ俺には気を使っている雰囲気があったからな。組合が気に食わないと言う感じだった。

「出発の準備はもう整っているが、護衛方の配置の相談は終わっているのだろうか」
「あー、一応ある程度相談してから出発の予定だったんだが、そっちのお嬢ちゃんが急遽入って来たんでな。彼女の立ち位置だけ決まっていない」
「成程。お嬢さんの要望はあるのかな?」

 そこで周囲の視線が俺に集中し、どうしたものかと少し思案する。
 俺としてはどこでも構いはしないんだが・・・いや、先頭の方が良いか?
 正直な所、ついさっき会った連中と連携を取る、等という自信は一切ない。

 ならば先頭に陣取って、何かあれば突っ込むのが最適解な気がする。

「先頭の方に居ても、良いか?」
「解った。じゃあ嬢ちゃんは先頭集団だな。荷物は持って歩くのか?」
「預かってくれるなら預ける。駄目なら持って歩く」
「鞄一つでけち臭い事は言わないさ。先頭を行く荷車に乗せておくと良い」
「助かる」

 そうして配置が決まると、護衛達は予定していたらしい位置へと移動を始めた。
 俺も言った通り先頭へと移動し、荷車に荷物を載せて初仕事に就く。
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