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第二話 異常性癖のサイラス
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「ーーお疲れ様でございます、ナキア様」
王の間から気怠げに杖に寄りかかりながら出てきたナキアを、一人の青年が丁寧に出迎える。
柔らかな色合いの金髪に、紫色の瞳がどこか魔性を感じさせる美しい顔立ちのこの男は、ナキアの弟子で唯一の側近、サイラス=モンタギューだ。
「オーディン侯爵、最期は命乞いしていましたね。賭けは俺の勝ちということで」
にやりと笑うサイラスに、ナキアは金貨を取り出すとピンと弾いてサイラスに投げ渡した。
「あーあ、開き直って対抗してくるくらいの気概は見せてくれると思ったんだけどなぁ・・・・・・つまんねーの」
ナキアがあくびをしながら言うのに、サイラスも悪な微笑みを浮かべる。
「オーディン侯爵が大胆な犯行に及んでいたのは、気概があるからではありません。・・・・・・単純に愚かだからです」
「ハッ、そうかもな」
ナキアは下卑た笑い声を上げると、サイラスと共に長い宮廷の廊下を歩き出した。
ーーーーー
不遜で、傲慢で・・・・・・悪魔のような性格をしたナキアという男だったが、そんな彼にも恋情というものが存在する。
その相手というのが、なんとナキアの弟子サイラス。
(ーーサイラスが好きだと言ってくれれば、付き合ってやらないこともないのに)
自分より下の存在である彼に心を奪われたのは、自尊心の塊であるナキアにとってひどく屈辱的なことだった。
廊下を堂々とした足取りで歩くナキア、その後ろに侍るサイラス。
彼のナキアに対する忠誠心は本物だが、その慕う心が性愛に向かうかといえば、それは難しい問題だとナキアは考えていた。
理由は単純ーーサイラスが“幼児性愛者”であるから、その一言に尽きる。
以前、他の者も入り混じっての酒の席で聞いたのだ、サイラスが、幼い少年に対して欲情する性癖を持っていることを。
(・・・・・・悪魔だとか、蠍だとか呼ばれているこの俺の弟子をこなせるくらいなんだから、まともな奴じゃない事は分かっているが)
ナキアはサイラスと同い年の23歳、とても幼児とはかけ離れている。
(ーークソッ、俺がこんなことで悩まされるなんて、馬鹿らしい)
ふっと後ろを振り返ってみれば、サイラスがにこにこしながら自分を見てくる。
「どうしましたか、ナキア様?」
“悪魔”ナキアを相手に全く物怖じしないそんな態度が、サイラスの気に入っている要素でもあるのだが、同時にひどく気に入らない。
(・・・・・・俺が幼児になったら愛してくれるのか、なんて馬鹿げたこと、一生口にするものか)
「なんでもねーよ」
フイッと拗ねたように顔を逸らし、ナキアが再び歩き出そうとしたーーその時だった。
『ーーおのれ・・・・・・ナキアッ‼︎ この悪魔が‼︎』
どこからか、悲鳴じみた怒声が聞こえてきたのは。
「なんだッ・・・・・・⁉︎」
とっさに身構えるナキアとサイラス。
・・・・・・しかし、時はすでに遅かった。
ナキアの足元に出現した魔法陣が、真っ赤に光る。
ーー次の瞬間、光の中でナキアの姿が消えた。
・・・・・・否、“縮んだ”のだ。
「な、なんだ、これは・・・・・・⁉︎」
自分の喉から出る声が、子供のように高いのに、ナキアは頭の中が真っ白になる。
細い手足、絹のような肌、高い体温。
ナキアの身体は、一瞬のうちに11、2歳程度の幼い肉体に変化してしまった。
「ーーナキア様ッ‼︎」
駆け寄るサイラス。
ーーその背後に見えた女の亡霊のようなものが、ニタァ、と笑ったのが見えた。
『死の魔法など生ぬるい。ナキア・・・・・・お前のその罪深く高い自尊心、ズタズタに切り裂いてやろう‼︎』
王の間から気怠げに杖に寄りかかりながら出てきたナキアを、一人の青年が丁寧に出迎える。
柔らかな色合いの金髪に、紫色の瞳がどこか魔性を感じさせる美しい顔立ちのこの男は、ナキアの弟子で唯一の側近、サイラス=モンタギューだ。
「オーディン侯爵、最期は命乞いしていましたね。賭けは俺の勝ちということで」
にやりと笑うサイラスに、ナキアは金貨を取り出すとピンと弾いてサイラスに投げ渡した。
「あーあ、開き直って対抗してくるくらいの気概は見せてくれると思ったんだけどなぁ・・・・・・つまんねーの」
ナキアがあくびをしながら言うのに、サイラスも悪な微笑みを浮かべる。
「オーディン侯爵が大胆な犯行に及んでいたのは、気概があるからではありません。・・・・・・単純に愚かだからです」
「ハッ、そうかもな」
ナキアは下卑た笑い声を上げると、サイラスと共に長い宮廷の廊下を歩き出した。
ーーーーー
不遜で、傲慢で・・・・・・悪魔のような性格をしたナキアという男だったが、そんな彼にも恋情というものが存在する。
その相手というのが、なんとナキアの弟子サイラス。
(ーーサイラスが好きだと言ってくれれば、付き合ってやらないこともないのに)
自分より下の存在である彼に心を奪われたのは、自尊心の塊であるナキアにとってひどく屈辱的なことだった。
廊下を堂々とした足取りで歩くナキア、その後ろに侍るサイラス。
彼のナキアに対する忠誠心は本物だが、その慕う心が性愛に向かうかといえば、それは難しい問題だとナキアは考えていた。
理由は単純ーーサイラスが“幼児性愛者”であるから、その一言に尽きる。
以前、他の者も入り混じっての酒の席で聞いたのだ、サイラスが、幼い少年に対して欲情する性癖を持っていることを。
(・・・・・・悪魔だとか、蠍だとか呼ばれているこの俺の弟子をこなせるくらいなんだから、まともな奴じゃない事は分かっているが)
ナキアはサイラスと同い年の23歳、とても幼児とはかけ離れている。
(ーークソッ、俺がこんなことで悩まされるなんて、馬鹿らしい)
ふっと後ろを振り返ってみれば、サイラスがにこにこしながら自分を見てくる。
「どうしましたか、ナキア様?」
“悪魔”ナキアを相手に全く物怖じしないそんな態度が、サイラスの気に入っている要素でもあるのだが、同時にひどく気に入らない。
(・・・・・・俺が幼児になったら愛してくれるのか、なんて馬鹿げたこと、一生口にするものか)
「なんでもねーよ」
フイッと拗ねたように顔を逸らし、ナキアが再び歩き出そうとしたーーその時だった。
『ーーおのれ・・・・・・ナキアッ‼︎ この悪魔が‼︎』
どこからか、悲鳴じみた怒声が聞こえてきたのは。
「なんだッ・・・・・・⁉︎」
とっさに身構えるナキアとサイラス。
・・・・・・しかし、時はすでに遅かった。
ナキアの足元に出現した魔法陣が、真っ赤に光る。
ーー次の瞬間、光の中でナキアの姿が消えた。
・・・・・・否、“縮んだ”のだ。
「な、なんだ、これは・・・・・・⁉︎」
自分の喉から出る声が、子供のように高いのに、ナキアは頭の中が真っ白になる。
細い手足、絹のような肌、高い体温。
ナキアの身体は、一瞬のうちに11、2歳程度の幼い肉体に変化してしまった。
「ーーナキア様ッ‼︎」
駆け寄るサイラス。
ーーその背後に見えた女の亡霊のようなものが、ニタァ、と笑ったのが見えた。
『死の魔法など生ぬるい。ナキア・・・・・・お前のその罪深く高い自尊心、ズタズタに切り裂いてやろう‼︎』
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