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本編
38 side.ダグラス
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先日、ユキ様は
「抱きしめたり撫でてくれる腕や手への感じ方に違いがある」
とおっしゃられた。
ご自身は何故そうなのか気付いてらっしゃらないご様子だったが、間違いない。ユキ様には想い人がいらっしゃるのだろう。
ヴォイド様だって気付いておられるご様子だった。
ユキ様に想い人ができたことは、たとえご自身が気付いておられずともユキ様の生活や心を豊かにするだろうし、喜ばしいことだ。
喜ばしいことのはずなんだ。
だが……なぜか喜びきれない自分がいる。
俺は、恐れ多くもユキ様の御身を抱きしめたことがある。
ユキ様が熱を出された際には望まれて手を繋いだ。苦しげに唸りながら眠りにつくユキ様の頭を撫でた。
少しでも、ユキ様の苦しみを取り除けたらと、安心していただけたらと、思いながら。
ユキ様が抱きしめられて最も安心するのは、少なくとも俺ではないだろう。俺ではない誰かが、俺の知らぬところでユキ様の御身を抱きしめ、ユキ様はその腕に安心を覚えている。
ユキ様が安らかであることが第一であったはずなのに、そのことを考えると悔しくてたまらなくなる。
なぜ俺はこんなことを思っているんだ……
俺はただの護衛でしかない。ユキ様が幸せであるならば、それでいいではないか。いいはずなのに、なぜこんなにも悔しいんだ……
その夜、俺はリディアにユキ様の想い人の正体を聞きにいった。主人のプライベートを詮索するなど、と断られたが、それでも俺は護衛として知らないわけにはいかないと聞き出そうとした。リディアは頑なとして言うことはなかったが。
今思えば、俺は初めから聞きに行く必要などなかったのだ。あのリディアが、調べていないはずがないのだから。
ユキ様に近付く人物が危険ではないか、調べていないはずがない。リディアが護衛である俺へ報告しなかったということは、調べた上で危険がなかったということだ。
リディアの情報収集能力は半端ではない。下手したら騎士団の諜報部よりもその能力は高いだろう。そんなリディアが調べて危険はないと判断したのだ。俺が詮索する必要など、何もなかった。
少し考えればそんなことくらいわかったのに、あの時の俺はただ知りたい一心だった。
だが、なぜ?
俺は、ユキ様の想い人を知って、どうするつもりだったのだ?
俺はあの夜、本当に護衛としてリディアに聞いたのか?
俺は……何を感じた?
……だめだ、これは考えてはいけない。
そして今日、ユキ様は陛下とのやりとりの中でご自身の想いに気付かれたご様子だった。
顔を真っ赤にされ、あたふたとされるユキ様は誰が見ても恋する少年そのものだった。
上の空になりどこかふわふわとしたお部屋に戻ろうとするユキ様は危なっかしく、目が離せなかった。
ユキ様の御心をこうも奪う人間が、憎い──
っ……!! 俺は、俺は今なにを考えた?!
俺はただの護衛だ。護衛でしかない。
そんな俺が、ユキ様の想い人を憎いなどと……
お部屋へお戻りになり、カウチに座ったところで漸くお気づきになったユキ様は、リディアと幾らか言葉を交わされ、考えに耽り始めた。
この先どうするかをお考えなのだろう。じっとユキ様を見ていると、突然泣きそうに顔を歪められ──しかしその表情はどこか決意したようにも見られた。
間違いなく、ユキ様は恋を諦めようとしているのだと感じた。同じことをリディアも思ったようで、なぜそう思ったのか尋ねていた。
曰く、
「迷惑しかかけていないのに、自分には返せるものがなにもない。そんな自分が好意を寄せたところで相手には迷惑でしかないだろう」
と。
ユキ様が迷惑? そんなことを考える者などいないだろう。突然連れてこられたこの世界で、必死に頑張っていらっしゃるユキ様のことを迷惑などと考える人間がいるのならば、直ぐにでも俺の剣の錆にしてくれよう。
ユキ様をここまで悲しませるのは一体誰なのだ……一体誰が、ユキ様にただの一瞬でもこんな悲しい決断をさせた?
ああ、やはり俺はユキ様の想い人が憎い。
護衛としてあってはならない感情であるのに、憎しみがやまない──
ユキ様のことを迷惑などと思っていない、面倒だと思ったことなどないと、ユキ様だからこそお仕えしているのだと伝えた俺とリディアの言葉は、ユキ様の御心を少しでも軽くすることができただろうか。
俺たちの元へ飛び込んできたユキ様は、俺たちのことが大好きだと、ずっと側にいてくれるかと、仰った。
天にも昇る心地だった。たとえ護衛としてでも、大好きだと言われるのはたまらなく嬉しかった。
待て、としてでも……? なんだ、なぜこんなことを思った?
ユキ様は俺たちを大好きだと言ってくれた、それで十分ではないか。
なのに、なぜそれでは足りないなどと────
────ああ、気付いてしまった。
気付いてはいけない想いに、気付いてしまった。
俺は、俺はユキ様のことを、好きになっていたのか……
主人としてではなく、1人の人間として。
恋愛対象、として。
だからユキ様の御心を奪う想い人が憎いと感じた。
なんてことだ……護衛でしかない俺が、護衛対象であるユキ様に想いを寄せるなどと……
本来ならばもう、俺は護衛としてふさわしくない。
だがもう、俺はユキ様に、ずっと側にいると、誓ってしまった。
これは、護衛対象へ想いを寄せた俺への罰だ。俺はこの先ユキ様が想い人と共になられるのも、見守り続けなければならない。
目の前で、好きな人が違う男と共にいるところを見続けねばならない。
なんという酷い罰なのか。
だが、もうそれでも構わない……ユキ様の幸せを見続けられるのならば、もう、構わない。
好きな人が幸せである、それが1番だ。
俺はユキ様の幸せの為に、この想いを封印しよう。
ああユキ様、どうか今だけはこの腕の中に────
腕の中で眠ってしまわれたユキ様を逃すまいと、きつくきつく抱きしめた。
「抱きしめたり撫でてくれる腕や手への感じ方に違いがある」
とおっしゃられた。
ご自身は何故そうなのか気付いてらっしゃらないご様子だったが、間違いない。ユキ様には想い人がいらっしゃるのだろう。
ヴォイド様だって気付いておられるご様子だった。
ユキ様に想い人ができたことは、たとえご自身が気付いておられずともユキ様の生活や心を豊かにするだろうし、喜ばしいことだ。
喜ばしいことのはずなんだ。
だが……なぜか喜びきれない自分がいる。
俺は、恐れ多くもユキ様の御身を抱きしめたことがある。
ユキ様が熱を出された際には望まれて手を繋いだ。苦しげに唸りながら眠りにつくユキ様の頭を撫でた。
少しでも、ユキ様の苦しみを取り除けたらと、安心していただけたらと、思いながら。
ユキ様が抱きしめられて最も安心するのは、少なくとも俺ではないだろう。俺ではない誰かが、俺の知らぬところでユキ様の御身を抱きしめ、ユキ様はその腕に安心を覚えている。
ユキ様が安らかであることが第一であったはずなのに、そのことを考えると悔しくてたまらなくなる。
なぜ俺はこんなことを思っているんだ……
俺はただの護衛でしかない。ユキ様が幸せであるならば、それでいいではないか。いいはずなのに、なぜこんなにも悔しいんだ……
その夜、俺はリディアにユキ様の想い人の正体を聞きにいった。主人のプライベートを詮索するなど、と断られたが、それでも俺は護衛として知らないわけにはいかないと聞き出そうとした。リディアは頑なとして言うことはなかったが。
今思えば、俺は初めから聞きに行く必要などなかったのだ。あのリディアが、調べていないはずがないのだから。
ユキ様に近付く人物が危険ではないか、調べていないはずがない。リディアが護衛である俺へ報告しなかったということは、調べた上で危険がなかったということだ。
リディアの情報収集能力は半端ではない。下手したら騎士団の諜報部よりもその能力は高いだろう。そんなリディアが調べて危険はないと判断したのだ。俺が詮索する必要など、何もなかった。
少し考えればそんなことくらいわかったのに、あの時の俺はただ知りたい一心だった。
だが、なぜ?
俺は、ユキ様の想い人を知って、どうするつもりだったのだ?
俺はあの夜、本当に護衛としてリディアに聞いたのか?
俺は……何を感じた?
……だめだ、これは考えてはいけない。
そして今日、ユキ様は陛下とのやりとりの中でご自身の想いに気付かれたご様子だった。
顔を真っ赤にされ、あたふたとされるユキ様は誰が見ても恋する少年そのものだった。
上の空になりどこかふわふわとしたお部屋に戻ろうとするユキ様は危なっかしく、目が離せなかった。
ユキ様の御心をこうも奪う人間が、憎い──
っ……!! 俺は、俺は今なにを考えた?!
俺はただの護衛だ。護衛でしかない。
そんな俺が、ユキ様の想い人を憎いなどと……
お部屋へお戻りになり、カウチに座ったところで漸くお気づきになったユキ様は、リディアと幾らか言葉を交わされ、考えに耽り始めた。
この先どうするかをお考えなのだろう。じっとユキ様を見ていると、突然泣きそうに顔を歪められ──しかしその表情はどこか決意したようにも見られた。
間違いなく、ユキ様は恋を諦めようとしているのだと感じた。同じことをリディアも思ったようで、なぜそう思ったのか尋ねていた。
曰く、
「迷惑しかかけていないのに、自分には返せるものがなにもない。そんな自分が好意を寄せたところで相手には迷惑でしかないだろう」
と。
ユキ様が迷惑? そんなことを考える者などいないだろう。突然連れてこられたこの世界で、必死に頑張っていらっしゃるユキ様のことを迷惑などと考える人間がいるのならば、直ぐにでも俺の剣の錆にしてくれよう。
ユキ様をここまで悲しませるのは一体誰なのだ……一体誰が、ユキ様にただの一瞬でもこんな悲しい決断をさせた?
ああ、やはり俺はユキ様の想い人が憎い。
護衛としてあってはならない感情であるのに、憎しみがやまない──
ユキ様のことを迷惑などと思っていない、面倒だと思ったことなどないと、ユキ様だからこそお仕えしているのだと伝えた俺とリディアの言葉は、ユキ様の御心を少しでも軽くすることができただろうか。
俺たちの元へ飛び込んできたユキ様は、俺たちのことが大好きだと、ずっと側にいてくれるかと、仰った。
天にも昇る心地だった。たとえ護衛としてでも、大好きだと言われるのはたまらなく嬉しかった。
待て、としてでも……? なんだ、なぜこんなことを思った?
ユキ様は俺たちを大好きだと言ってくれた、それで十分ではないか。
なのに、なぜそれでは足りないなどと────
────ああ、気付いてしまった。
気付いてはいけない想いに、気付いてしまった。
俺は、俺はユキ様のことを、好きになっていたのか……
主人としてではなく、1人の人間として。
恋愛対象、として。
だからユキ様の御心を奪う想い人が憎いと感じた。
なんてことだ……護衛でしかない俺が、護衛対象であるユキ様に想いを寄せるなどと……
本来ならばもう、俺は護衛としてふさわしくない。
だがもう、俺はユキ様に、ずっと側にいると、誓ってしまった。
これは、護衛対象へ想いを寄せた俺への罰だ。俺はこの先ユキ様が想い人と共になられるのも、見守り続けなければならない。
目の前で、好きな人が違う男と共にいるところを見続けねばならない。
なんという酷い罰なのか。
だが、もうそれでも構わない……ユキ様の幸せを見続けられるのならば、もう、構わない。
好きな人が幸せである、それが1番だ。
俺はユキ様の幸せの為に、この想いを封印しよう。
ああユキ様、どうか今だけはこの腕の中に────
腕の中で眠ってしまわれたユキ様を逃すまいと、きつくきつく抱きしめた。
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