あの人と。

Haru.

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本編

69 2人きりの

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 今何人目だったっけ。途中からもう数えることは放棄したよ。

 同じようなことばかり言われて退屈してきた頃、気分転換出来そうな機会が巡ってきた。

「神子様はピアノが随分と堪能でいらっしゃるとか。是非とも一度お聞かせ願いたいものです」

 どこでそんな話を聞いたのかはわからないけどいつも弾いてるから城内の人なら大抵が知ってるだろうし、知り合いにお城勤務の人がいるのかな? まぁいいや、これを利用して気分転換させてもらいましょ!

「お耳汚しでしかないとは思いますが……そうですね、せっかくの機会ですから少しだけ弾きましょうか」

「ほ、本当ですか?!」

「ええ、構いませんよ」

 チラリと目配せをすれば僕から見て斜めの位置、上段のすぐそばにピアノを準備してくれるリディア。わがまま言ってごめんなさい。でも僕そろそろ気分転換しないとキツイよ。

「な、何かリクエストしてもよろしいですか?」

「あまりこの世界の曲は知りませんので、こんなイメージの曲が聴きたい、といったものであれば大丈夫ですよ」

「では喜びをイメージした曲をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「喜び、ですね。わかりました」

 僕がピアノに座れば興味津々と言った様子で会場中から視線が集まる。緊張しなくもないけどコンクールと思えば大丈夫。結構出てたからね。それにダグも斜め後ろにいてくれてるし落ち着いて弾けるしね。

 さぁ、お気に召してもらえるかな? 






***


****


*****





 最後の一音の響きすら消えた瞬間、ドッと会場が沸いた。盛り上げるために弾いたわけではないけど、こうして盛り上がってもらえると気分は良くなるね。

「す、素晴らしい……! なんという音色でしょう! 本当にありがとうございました! 今日聞いた音色は一生忘れません……!」

「こちらこそ、聴いていただきありがとうございました。僕もついつい楽しくなって5曲も弾いてしまって……喜んでもらえたようで良かったです」

 そう言ってダグと席へ戻りつつ。

「気分転換は出来たか?」

「う、バレてた? 僕が飽きてきてたって」

「当たり前だろう? そろそろ休憩させようかと思っていたぐらいだ」

「そんなにあからさまだった?」

「いや、気付いていたのは俺とリディアくらいだろう」

 ああ、僕センサーが異常な2人ね……

「流石だねぇ……よし、もうちょっと頑張ろ! 舞踏会終わったらいっぱい甘やかして?」

「はは、わかった。嫌になるくらい甘やかしてやろう」

「ふふ、それは楽しみだね?」

 ダグに甘やかされて嫌になるなんてないもんね。舞踏会後のご褒美が出来たからまだ頑張れます!

「あと5人くらいで挨拶は終わるだろう。そうしたらあとはダンスだけだな。ダンスが始まればあとは自由解散だ。一曲だけ踊って帰る者もいれば何曲も踊る者もいる。ユキも好きな時に帰れるぞ」

「ほんと? じゃあ早めに帰ろ?」

「ああ、そうだな」


 なんとか残りの人たちの挨拶を乗り切った。精神的疲労がものすごいよ。

「ユキ、軽く何か食べないか? 無理そうなら終わってから部屋で食べてもいいが」

「うーん……何か甘い物だけ食べたい……ご飯は部屋がいいなぁ」

 疲れた時には甘い物だよね! 糖分糖分!!

「わかった。リディア、何かスイーツを」

「ええ、すぐに持ってきます」

 どんなスイーツかな、僕甘い物大好きだから楽しみだよ。

「ユキ様、こちらでよろしいでしょうか?」

「わぁ、美味しそう! うんうん、全然大丈夫だよ!」

 チョコケーキだぁ! あぁ……トロッと口当たりのいいチョコがたまらない……自然と頬も緩んじゃいます!

「そんなに美味いか?」

「美味しい!! ダグも食べる??」

「いや、俺は…………これで十分だ」

 唇を親指でグイってされてそのままその指ペロって舐めた……!! そのあとニヤリって……!!

「や、やらしい! えっち!!」

 人前でこんなこと……!

「嫌だったか?」

 うぐ……いや、ではないけどぉ……

「嫌じゃないけど恥ずかしいからダメ!」

「もっと恥ずかしいことだってしてるのにか?」

「ひ、人前じゃしないもん!」

「そうだな、ユキの可愛いところは他のやつらに見られたくないしな」

「もっ……ばかぁ!」

 なんでなんで意地悪モード発動?! 耳元で囁かれてゾクってしちゃったじゃんか……!
 最近えっちなことする時もこんな感じなんだよ……本当に嫌なことはされないけど寸止めされたりおねだりさせられたり……

 あぅ、思い出したら余計に恥ずかしくなってきた……

「はは、悪いな。あんまり可愛い顔を晒して食べるものだから少し意地悪したくなってな」

「ばか……今の顔は見られてもいいの?」

 だって絶対今の顔の方がダメだよ。顔熱いしちょっと視界ぼやけてるから目も潤んでるだろうし……赤面涙目の方が見られたくなくない?!

「そうだな。今少し後悔してる」

 ちょっときまり悪そうに言うもんだからつい笑ってしまった。

「ふふ、舞踏会中に僕をからかうのが悪いんだよ」

「そうだな……次からは2人きりの時だけにしよう。ユキの可愛い顔も反応も俺が独り占めすることにしよう。

さぁ、次がワルツだ。一曲踊っていただけますか?」

 いつのまにか最初の曲が終盤に差し掛かってる。

「もう……よろこんで」

 ちょっと照れ臭さを感じながら差し出された左手へ右手を重ね、2人で上段を降りて広間の中央へ向かう。僕は端っこでいいのに主役だからここなんだって。すごく視線が集まってて緊張します。このワルツは僕達が踊るからって周りも踊らないみたいだし、余計に緊張する。
 え? さっきは緊張しないこともないけど大丈夫って言ってたって? あれはピアノだからだよ。これはダンスで人前で踊るのなんて初めてなんだから緊張もする。


「ユキ、俺だけを見ていろ」

 僕が緊張するなら周りを見るな、ってことなんだろうけどこれ、絶対独占欲も混ざってるなぁ……

 ふふ、でもそうだね。僕の恋人はダグだけだ。そう思えば周りになんて目がいかない。

 ほら、もう視界はダグだけになった。

「ダグも、僕だけを見てね」

「とうにユキしか見えていない」

 僕も少しの独占欲を混ぜて言えばそれを察したように微笑んでくれる。視界いっぱいに広がる愛しい人の微笑み。たまらなく幸せだなぁ。

 ふふ、最近の僕、幸せばっか感じてる。今の幸せが壊れたらって思うと怖いけど、壊れないような気がする。なぜかはわからないけどね。神子パワー的なものだったりするのかな?


 アップテンポなウィンナワルツは僕達に2人きりの世界を齎してくれる。聞こえてくるはお互いの息遣いと流れる優雅な曲だけ。目にはお互いの姿しか映らない。

 微笑みを交わしつつくるくるとステップを踏む。ダグのリードを覚えきった僕の身体は意識せずとも正確なステップを踏んでくれる。だから僕は思う存分2人きりの世界に浸った。

 雑音や視線から解放された世界はまるで────






































────まるで、そう。僕の部屋の寝室で、2人きりのようで。



 そう思った瞬間、金色の輝きにゾクリと重たいものが腰に走った。




 どうして、突然……?

 ああだめだ。ここでこんな気持ちになるなんて。ここは部屋じゃないのに。まだ、ワルツは終わっていないのに。

 でも一度思ってしまったらズクズクとその感情が腰に重く響いてきて────


















 ああ、どうしよう。

























────ダグに抱かれたい、なんて。
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