あの人と。

Haru.

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本編

85 side.ラギアス

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 最初俺はユキ様を信用しきれていなかった。だがいつからだろう。俺の中でユキ様は信用できる人になった。いや、ユキ様だけじゃない。ユキ様の周りには信用できる人間ばかり集まっている。ダグラスさんはもちろん、リディア様、ヴォイド様、陛下方も信用できる。

 俺はずっと人間は総じて信用ならないと思っていた。思い込んでいた。だから、思った以上に信用できる人間がいたことが少し戸惑いを覚えてしまう。

 ユキ様は獣人に優しい。それでいて、獣人の俺を腫れ物を触るような扱いをするのではなく、1人の人間と同じように扱ってくれる。だから、ユキ様の側は居心地がいい。


 これまでにも俺たち獣人を哀れむような様子を見せる人間には会ったことはある。でも、そいつらは上辺だけの薄っぺらい言葉をかけてはそれよりもマシな自分を喜び、優越感に浸ったり、他人を哀れむ優しい自分に酔いしれるだけで、心から俺たち獣人のことを考えるような人間などいなかった。


 それなのにユキ様は、ユキ様の周りの人間達は本当に俺たち獣人の現状をどうにかしたいと考えてくれている。

 舞踏会の時だってそうだ。ユキ様は当日側に仕えるであろう俺や警備に当たる他の騎士のことを考え、獣人に対する差別等を禁止した上で舞踏会の開催に許可を出した。

 俺は正直、その時は最初よりかはかなり信用していたが、信用しきっていたわけではなかったから、一応禁止している体で当日実際にそんな人間が現れてもどうもしないと思っていた。

 だから俺は、俺を蔑む貴族が現れた時もなんとも思ってはいなかった。それが普通の反応なのだから放っておけばいいと、思っていた。

 けれど、ユキ様は俺を庇い、騎士に命じてその騎士を追い出した。そのあと、ダグラスさんと俺たちへの差別をなくすにはどうすればいいかと話し出した時には少しギョッとした。


「んー、差別思考を持った人たちを悔しがらせる方法、なら1つあるんだけど……」

「なんだ?」

「僕がラギアスとダンスを踊る。でも他の人は断る」

「なるほど、たしかに自分が下に見ている獣人がユキと踊れているのに自分は断られたとなれば悔しいだろうな」

「でも逆上させちゃう可能性だってあるよね。ほら、まだ奴隷制度が残ってる国からもきてるでしょ。国に帰ってから自国の獣人に手を出さないかが心配」


 ……獣人の俺とユキ様がダンスを、なんて誰が考えつく? 結局その日はやはり下手に刺激するのは、とダンスを踊ることはなかったけれど、そうやって何か策をと考えてくれたのが嬉しかった。
 それなのにユキ様は俺に、何もできることがなくてごめんと謝ってきた。それに俺が返した言葉はまぎれもない本心だ。ユキ様が本気で獣人の現状を憂え、打破しようと考えてくれるだけで十分だ。


 確かに、他国で未だに奴隷として苦しめられている同胞のことを考えると人間への怒りがこみ上げてくるが、それはそれだ。ユキ様は何も悪くない。

 周りをよく見てみると、思ったよりも俺たち獣人に対して好意的な人間はいるようだった。偏見を持っているのは俺もだったのかもしれない。

 今日だって、ユキ様が俺たち護衛にと持ってきてくださった土産を配りに行けば他の隊員達は普通に喜んで受け取ってくれた。俺が触れたことなど気にもしなかった。逆に持って行ったことに対して礼を言われたくらいだ。

 俺は初めて少し人間という種族をを信用してみたくなった。いや、確かに基本的には信用ならない種族ではあるが、信用できる人間だっていることを覚えておきたい。

 人間に対する意識を変えてくれたのはまぎれもないユキ様だ。



 そして終業後、部屋でもらった焼き菓子を少しつまんで一息ついていると、部屋の扉がノックされた。
 因みに俺は1人部屋だ。一般の騎士なら2人部屋だが、ユキ様の専属護衛になった時から1人部屋になった。神子の専属、というのはそれだけ地位が高くなるということなのだろうが、俺は正直部屋などどうだってよかった。


「はい……ユキ様?」

「ラギアス! ごめんね、おやすみ中だったよね。中入れてくれる??」

 部屋を訪ねて来たのはユキ様だった。まだ身体の痛みが取れていないのかダグラスさんに抱えられた状態で。

「どうぞ……」

「お邪魔します」

 どうしてユキ様がここに?

「すみません、椅子これしかないんです……お身体痛いのですよね」

 この部屋には1つしか椅子がない。木でできた座面にクッション性など皆無のただの椅子だ。今のユキ様にはお辛いだろう。

「ううん、大丈夫。もうそんなに痛くはないんだけど、ダグがまだ念のためって……それだけなの」

 ……なるほど、ユキ様を溺愛するダグラスさんならやりそうだ。

 ならばとユキ様には椅子に座ってもらい、要件を尋ねれば、渡されたのは綺麗に包装された箱。

「これ、は……?」

「お土産だよ。特別お世話になってる人達には個別に渡してるの。ラギアスももちろんその1人だからね! いつもありがとう、ラギアス」

「ありがとう、ございます……」

 俺個人へと贈り物をもらったのなどいつぶりだろうか。小さい頃に親から貰った以来ではないだろうか。血の繋がりのない他人からもらったのなど初めてだ。

「開けても、よろしいですか……?」

「もちろんだよ!」

 そろりとリボンを解き、震える手で破かないようにそっと包装紙を剥がして現れた箱をドキドキしながら開くと、中に入っていたのはモザイクガラスの小さな器。

 グラスにしては小さいが、これは……? まさか……

「ラギアスにはキャンドルホルダーにしてみたよ。ダグがラギアスはアロマキャンドルが好きだって聞いてね。……もしかして間違ってた?」

 俺がじっと手の中の器を見つめて動かないことに焦ったようにそう言ったユキ様に急いで否定する。

「いえ! 好きです、アロマキャンドル……ありがとう、ございます……すごく、嬉しいです。大事にします」

 まさか、ダグラスさんが俺の趣味を知っていたなんて。そしてユキ様がそれを考えて俺にこれを贈ってくれたなんて。

 嬉しくて嬉しくて、つい顔が緩んでしまうのも仕方ないだろう? 尻尾も振りかけたが必死に抑えた。


 ああ、俺はこの2人が大好きだ。2人が恋人として幸せそうに笑いあっているのを見ているとこっちまで幸せになる。


 どうか、いつまでもあの2人が笑いあえるようにと願いを込めてお気に入りのキャンドルに火を灯した。




 前言撤回。やはり1人部屋をもらえて良かった。このユキ様からもらったキャンドルホルダーを誰にも見せずに独り占めできるのはいいことだ。
 キャンドルの灯りで暖かく照らされるホルダーを見てしみじみとそう感じた。
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