あの人と。

Haru.

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本編

116 可愛い息子

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 アーノルドさん達と会う場所は僕の部屋になった。あまり僕を動かせたくないらしい。ダグが運ぶといっても自分の部屋の方が気楽だろうってことらしい。……本当にもう元気なんだけどなぁ。


「あれ、ダグ今日ってお休み?」

 騎士の制服じゃないや。かっちりした服だけど私服ってことは休みなのかな。

「ああ。休みだ」

「……昨日は?」

 昨日も私服だったような……

「……休みを取った」

 もしかして僕が熱出しちゃったから?

「……大丈夫なの?」

「大丈夫だ」

 本当かなぁ。本当に大丈夫ならいいけども……



 アーノルドさんが来る予定の時間までにリディアにきっちりと用意してもらった。だいぶ伸びた髪も結ってもらって初めて街に行った時にダグに買ってもらった髪飾りをつけてもらった。

「ダグ、似合う?」

「ああ、似合う。可愛いぞ」

 照れるー! でも嬉しい!!

 この髪飾りはダグとデートの時はほとんど毎回付けてる。そして毎回このやり取りをしてます。

 この髪飾りは僕の1番のお気に入り。リディアが色々と用意してくれたのももちろん綺麗なんだけど、やっぱり好きな人にプレゼントしてもらったものは格別で。普段使いはしないでダグとデートの時とか特別な時にだけつけるんだ。

「では私はリゼンブルの方々が到着次第こちらへご案内してまいります」

「うん、おねがいね」

 ドキドキする!

「緊張しているのか?」

「うん! だって一生に一度のイベントだよ!」

「まぁそうだな。だが、父上達はユキを随分と気に入っているしなにも緊張することはないだろう」

「それとこれとは別だもん」

 嫌われていないことはわかるけどやっぱり緊張しますよ。

 あれだよね、不束者ですがよろしくお願いします、って言うんだよね。噛まないで言えるかな。不束者って言いにくそうだ……




















「ふちゅっ……不束者、ですが……よろしく、お願いします……」

 噛んだ……思いっきり噛んだ……

 あれはフラグだった……!!

 恥ずかし過ぎて目の前に座ったアーノルドさん達の顔が見れない。やめなさいダグ。顔を覆って俯いている僕の肩を気遣わしげに叩くのを今すぐやめなさい。

「……穴に埋まりたい」

「気にするなユキ。誰だって噛むことはある」

「よりによって今……」

「そんなユキも可愛いぞ」

 ばかぁ! そんな慰め……嬉しいなんて……嬉しい、なんて……おもいました。はい。だってダグに可愛いって言われるのは嬉しいもの。

「コホン。ユキちゃん、こちらこそよろしくね。ダグラスを選んでくれてありがとう」

「ユキちゃんが息子になってくれて嬉しいよ。結婚式はいつかな?」

「えっと、よろしくお願いします。結婚式……どんなのにしたいかは決めてるんですけど……」

「まだ予定は決まってないの?」

「え、と……はい」

 というかほぼ任せてしまっていて知らないというか……聞いておけばよかったなぁ。結婚式、いつやるんだろう。

「衣装は?」

「ダグが決めると」

「ダグラス、衣装はどうしてるんだ? 季節によって生地も変わるだろう」

「結婚式は秋中にはやります。なので衣装はそれに合わせて作らせていますよ」

「そうか。なら来月にしよう」

「わかりました。では細かい日取りも決めましょう」

「え?!」

 アーノルドさんの提案をダグはあっさりと通したけどそんなさらっと決めるもの?!

「いやかい?」

「いやとかじゃなくて……準備とか大丈夫なのです?」

「どうとでもなるだろう。ユキのやりたい結婚式は呼ぶ人間も少ないしな」

「そう、なの……?」

 そうなの、か……? え、と。式場はたぶんお城の敷地内にある神殿かホール。参列者はリディアにラギアスにロイ達にアーノルドさん達に他にもお世話になったお城勤めの人達。……確かに衣装さえなんとかなればどうとでもなりそうだ。

「なんだ、ユキちゃんは盛大な結婚式はいやなのかい?」

「よく知らない人に祝われるのもなぁ、と。それからはたして純粋にお祝いしてくれる方ばかりなのかと……」

 特に見知らぬ貴族。前の舞踏会の様子からして僕とダグの結婚を純粋にお祝いしてくれる人ってかなり少数派だと思う。すきあらば、って感じの人ばかりだったし。結婚式にうちの息子もどうですかなんて言われるの絶対いやだよ。

「なるほど」

「でも後日に舞踏会は開くことになってます。アーノルドさん達はどうされます?」

 前の舞踏会は不参加だったし今回もかな。

「参加させてもらうよ。可愛い息子のダンスを見たいしね」

 可愛い息子。

「……言っておくが俺じゃないぞ」

「私も流石にダグラスは可愛いとは思わないな」

 ちらりと横のダグを見たら否定された。アーノルドさんまで否定して……実の息子なのに。

「ダグラスを可愛いと思う者などいるのか?」

 心底不思議そうにマリオンさんは言うけれど。

「ダグは可愛いです!」

 ダグはかっこいいけど可愛い! 昨日なんておっきい子犬みたいだったもん。ものすごく可愛かった!

「……そんなこと言うのはユキちゃんだけだろうね」

「恋人の欲目かな」

 ……解せぬ。いいもんダグの魅力は僕だけが知ってたらいいもん。

「まぁダグラスが可愛いかどうかは置いておいて……ユキちゃんのダンスを見たいしピアノも聴きたいんだよ」

 ピアノはいいけれど。

「……ダンス」

「どうしたんだい?」

「い、いえ! なんでもないです!!」

 うぅ、前のことがあるからダンスちょっといやなんだよなぁ……いや、ダグとのえっちが嫌とかじゃなくて、ダンスがきっかけなんて意味わからない状況が嫌なの! アブノーマル過ぎる……

「そうかい? 周りの貴族から自慢ばかりされてね。前回参加しなかったことを後悔しているんだよ」

「自慢?」

「ユキちゃんのピアノの音色はまるで天上の旋律。ダンスはまるで妖精の舞のようだったといろんな貴族から聞いたよ」

 それ本当に僕ですか。ピアノはともかくダンスは僕の力じゃないんだけど。ダグのリードを記憶しただけだし……

「人違いだと思います」

「いやちゃんと神子様の、って聞いたよ?」

「……人違いです」

 人違いではないのだろうけど、なんだか自分のことと認めるのが恥ずかしくてそう言えば、はてなを浮かべた顔のアーノルドさん達の視線がダグに集まる

「んん? どういうことだい、ダグラス」

「ユキは恥ずかしがり屋なので戸惑っているだけです。ユキのピアノもダンスも素晴らしいですよ」

「ダンスはダグのおかげだよ」

 ダグの神懸かったリードがあってこそだもん!

「だがそれを記憶したのはユキの力だろう。それもかなりの短期間でな」

「会話を聞いていたらどんな事情があったのかすごく気になるのだけど……」

「ユキ、説明してもいいか?」

「いいけど話盛らないでね」

 そう言えばダグは盛る必要などないぐらい十分すごいと言いまして。恥ずかしさに燃える僕の横で僕のダンスに関する事情をアーノルドさん達へまるっと説明しましたとさ。

 確かに盛ってはいなかったけど自分のことを真横で説明されるってすごい恥ずかしいね……
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