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After Story
side.ダグラス
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朝から後ろ髪を引かれる思いでユキの側から離れ、訓練所へ向かえば既に整列した部下たち。ラギアスともう1人、ユキの護衛に付いている奴はいないがそれ以外は全員揃っているようだ。
ああ、訓練の日に来れない任務が入っている奴は他の日に個別に見ている。ラギアスは特にな。俺がここにいるということは確実にラギアスはここにいないというわけだから、放っておいたらラギアスの腕が鈍ったとしても気付くことができないからな。ユキの専属であるあいつの腕を鈍らせるわけにはいかないから、むしろ他の部下よりも厳しく見ているつもりだ。
「「「おはようございます!!」」」
「ああ、おはよう。これから訓練を始めるわけだが、今日はユキ様が差し入れを持って来られる予定だ。おそらく午後だろう。無様な姿を見せたくなければ気を引き締めろよ」
ユキが来ることを伝えれば僅かにザワリとしたが、ひと睨みすればそれも収まった。優秀な部下を持ったものだ。
「「「はっ!!」」」
──さて、始めるか。
「遅い!! もっと反応を早くしろ!! 動きを読め!!」
とりあえずいつものように1度に3人の相手をしているのだが、いつもはある手応えが全くない。いつもなら少しは感じられるのだが……これだと俺にとってはなんの訓練にもならないな。
「5人ずつかかってこい!」
すぐに5人に変えさせたが、あまり変わりはなかった。これ以上増やしても部下にとってはよくないだろうからそのままにしたが、正直全員でかかってこいと言いたかった。俺が強くなったのかはたまた部下が知らぬ間に弱くなったか……いや、見る限り部下は弱くなってないな。ということは俺が強くなったか……ふむ、どこまでいけるのか試したいな。
昼になり、とりあえず休憩にして食堂に向かえば、部下達が何かを賭けていた。成人しているならば賭けは禁止されていないが……一体何を賭けている?
「お前どっちに賭けた?」
「ユキ様が怖がる方」
「俺もだ。今日の隊長の気迫、やべぇもんなぁ」
……ユキが俺を怖がるかどうか? ……そんなに俺は怖いのか? いや、そんなユキが俺を怖がるなど……
「おっ、おもしれぇことやってんじゃねぇか! バカだなおめぇら、あのユキがダグラスを怖がるわきゃねぇだろ! 俺、ユキが怖がらねぇ方10口な」
団長……そうだよな、ユキは俺を怖がらないよな。怖がらない、よな?
「お疲れ様、ダグ。差し入れ持って来たよ」
そう言ってバスケットを俺に差し出したユキの表情には恐怖などは微塵も感じられなかった。いつも通り可愛い。よかった、やはりユキは俺の自慢の妻だ。
休憩の途中で現れた団長に聞かれても、ユキはかっこよかったと言ってくれた。やはりユキは欲しい言葉をくれる。愛しい俺の妻であり主人。本当に愛しくてたまらないな。
そのあとなぜか団長と手合わせをすることになったが、まぁいい。どれくらい俺の腕が上がっているかわかりやすいだろう。ユキに無様な姿は見せられないから気合を入れなくてはな。
いくらか団長と剣を交えると、本気を出せないことに気付いた。いや、力が出ないわけではない。むしろ有り余っているというかなんというか……これ以上力を出せば、剣がもたないだろうところまで来ているんだ。こんな風に感じたことなど今までほとんどなかったんだがな……団長がいつものように剣が脆いと言っていたのはこういうことなんだな。
結局手合わせは2人の剣が同時に折れることで引き分けとなって終わってしまった。完全に不完全燃焼だ。
「今度自前の真剣で手合わせすっか。あれじゃ俺もお前もなんの訓練にもならねぇからな」
「そうですね」
真剣での訓練は基本申請が必要だ。それだけ危険なことであるからな。まぁ、それも団長や部隊長クラスが許可を出すものだから俺と団長が真剣での手合わせをするならばいつだって出来るわけだ。きっと近いうちに声をかけられるだろう。
……場合によっては俺の剣は鍛え直さないと駄目かもしれないな。
手合わせ後、ユキの元に戻ればプルプルと震えながら剣を持っていた。
……何を危ないことをしているんだ。
そっと取り上げると笑っていた団長に向かって拳を突き出したユキ。……絶対にユキの手の方が痛いと思うのだが。
案の定赤くなってしまった手はリディアが治癒魔法をかけることでいつもの白い手に戻った。お願いだから怪我をするような真似はしないでくれ。
そのあとなぜかユキまで団長と手合わせをすることになり……まぁ、負けてしまっていたが護衛対象としては十分なほど戦えていた。隊員も驚いていたからな。ユキは案外えげつない魔法を使うんだよな……水神の檻に雷神の怒り……魔法名に“神”と入る魔法などそうそうしれっと使えるものではないとユキは分かっていないのだろう。そうそう魔力が減ったとは感じないようだしな。
ユキは可愛い見た目でも、守られるだけは嫌だという性格だ。真剣に努力する姿は誰が見ても好ましいものだろう。俺としてはあまり無理はしてほしくないが、ユキが努力している理由が俺を守るため、というものだからやめろなどと言えない。俺の為に頑張る妻……愛しいに決まっている。
……ユキの想像以上の力にテンションの上がった団長がユキに高い高いをしだしたのは本気で何をやっているんだと思った。4mを超す高さに投げられてユキが怖くないわけないだろう……案の定大泣きしたユキは団長から距離を置くようになった。5m以内には入らないらしい。団長はかなりショックを受けた様子だったが、まぁいいだろう。
ああ、ユキの拘束によって無様に転げる団長は正直言って気持ち悪かったな。ユキの機嫌をとるための演技かと思ったが、どうやら本気だったらしい。
「ユキの拘束、マジでやべぇな。まぐれじゃねぇんだろ?」
「そうですね。ユキは上級魔法を訓練している今でも基礎を疎かにしませんから。まぁ、そんなユキも不得意な魔法もあるみたいですが」
今は終業後だからユキ、で問題ない。早くユキの元へ帰って一緒に食事にしたいのに団長に捕まってしまった。いや、無視して帰ろうなどと一瞬たりとも考えていないぞ。
「何が苦手なんだ?」
「魔法収納ですよ」
「……魔力も技術も問題ないと思うんだが」
「なぜか出来ないんですよ。確かに異空間に収納されているみたいなのですが、そこに浮かんでいるように見えるんです。触れないんですけどね」
「……そっちのが難しくねぇか?」
俺もそう思う。なんでああなるのだろうな。俺もそれが出来たら改善策が浮かぶかと思ったが、真似できなかった。
「まぁ、ユキの持ち物など俺が持っておくのでいいんですけどね」
「……お前相変わらずだな。引き止めて悪かったな、ユキが待ってる部屋に早く帰れ」
「帰ろうとしたところを引き止めたのは団長ですけどね。まぁいいです。お先に失礼します」
「おう」
さて、早く帰ろう。手合わせで疲れたようだったし、ユキは今頃寝ているのだろうか。帰ったら起こして一緒に夕食だな。
部屋に着くと、ユキのお気に入りのカウチに小さく膨らんだ毛布が見えた。やはりユキは寝ているようだ。
「お帰りなさい。着替えたらユキ様を起こしてください。ふふ、起こす前に毛布をそっとめくればきっと良いものが見れますよ」
いいものとはなんだ? 気になるな……早く着替えてこよう。
自分の部屋に入って訓練によって埃っぽくなった制服を脱ぎ、楽な服に着替えるとすぐにユキの部屋戻った。ユキは相変わらず眠っているようだ。
毛布を捲れば、と言っていたな……
そっと捲ってみると……思わず逆の手で額を抑えて天を仰いでしまった。背後でリディアが笑う気配がした。こうなるように仕組んだなこいつ……
可愛すぎるだろう、ユキ。ユキには大きすぎる俺のシャツに包まり、顔を襟元に埋めながら気持ち良さそうに眠っているユキはあまりにも可愛かった。これを起こすのか。起こさないと駄目なのか。もうこのままでもいいのではないか? いや、ユキに食事を抜かせるわけにはいかない。仕方ない、ずっと見ていたいが起こそう。
……起こした時のユキの反応はさらに可愛く、今夜は寝かせないことが決定した。むしろその場で襲わなかったことを褒めてくれ。
ああ、訓練の日に来れない任務が入っている奴は他の日に個別に見ている。ラギアスは特にな。俺がここにいるということは確実にラギアスはここにいないというわけだから、放っておいたらラギアスの腕が鈍ったとしても気付くことができないからな。ユキの専属であるあいつの腕を鈍らせるわけにはいかないから、むしろ他の部下よりも厳しく見ているつもりだ。
「「「おはようございます!!」」」
「ああ、おはよう。これから訓練を始めるわけだが、今日はユキ様が差し入れを持って来られる予定だ。おそらく午後だろう。無様な姿を見せたくなければ気を引き締めろよ」
ユキが来ることを伝えれば僅かにザワリとしたが、ひと睨みすればそれも収まった。優秀な部下を持ったものだ。
「「「はっ!!」」」
──さて、始めるか。
「遅い!! もっと反応を早くしろ!! 動きを読め!!」
とりあえずいつものように1度に3人の相手をしているのだが、いつもはある手応えが全くない。いつもなら少しは感じられるのだが……これだと俺にとってはなんの訓練にもならないな。
「5人ずつかかってこい!」
すぐに5人に変えさせたが、あまり変わりはなかった。これ以上増やしても部下にとってはよくないだろうからそのままにしたが、正直全員でかかってこいと言いたかった。俺が強くなったのかはたまた部下が知らぬ間に弱くなったか……いや、見る限り部下は弱くなってないな。ということは俺が強くなったか……ふむ、どこまでいけるのか試したいな。
昼になり、とりあえず休憩にして食堂に向かえば、部下達が何かを賭けていた。成人しているならば賭けは禁止されていないが……一体何を賭けている?
「お前どっちに賭けた?」
「ユキ様が怖がる方」
「俺もだ。今日の隊長の気迫、やべぇもんなぁ」
……ユキが俺を怖がるかどうか? ……そんなに俺は怖いのか? いや、そんなユキが俺を怖がるなど……
「おっ、おもしれぇことやってんじゃねぇか! バカだなおめぇら、あのユキがダグラスを怖がるわきゃねぇだろ! 俺、ユキが怖がらねぇ方10口な」
団長……そうだよな、ユキは俺を怖がらないよな。怖がらない、よな?
「お疲れ様、ダグ。差し入れ持って来たよ」
そう言ってバスケットを俺に差し出したユキの表情には恐怖などは微塵も感じられなかった。いつも通り可愛い。よかった、やはりユキは俺の自慢の妻だ。
休憩の途中で現れた団長に聞かれても、ユキはかっこよかったと言ってくれた。やはりユキは欲しい言葉をくれる。愛しい俺の妻であり主人。本当に愛しくてたまらないな。
そのあとなぜか団長と手合わせをすることになったが、まぁいい。どれくらい俺の腕が上がっているかわかりやすいだろう。ユキに無様な姿は見せられないから気合を入れなくてはな。
いくらか団長と剣を交えると、本気を出せないことに気付いた。いや、力が出ないわけではない。むしろ有り余っているというかなんというか……これ以上力を出せば、剣がもたないだろうところまで来ているんだ。こんな風に感じたことなど今までほとんどなかったんだがな……団長がいつものように剣が脆いと言っていたのはこういうことなんだな。
結局手合わせは2人の剣が同時に折れることで引き分けとなって終わってしまった。完全に不完全燃焼だ。
「今度自前の真剣で手合わせすっか。あれじゃ俺もお前もなんの訓練にもならねぇからな」
「そうですね」
真剣での訓練は基本申請が必要だ。それだけ危険なことであるからな。まぁ、それも団長や部隊長クラスが許可を出すものだから俺と団長が真剣での手合わせをするならばいつだって出来るわけだ。きっと近いうちに声をかけられるだろう。
……場合によっては俺の剣は鍛え直さないと駄目かもしれないな。
手合わせ後、ユキの元に戻ればプルプルと震えながら剣を持っていた。
……何を危ないことをしているんだ。
そっと取り上げると笑っていた団長に向かって拳を突き出したユキ。……絶対にユキの手の方が痛いと思うのだが。
案の定赤くなってしまった手はリディアが治癒魔法をかけることでいつもの白い手に戻った。お願いだから怪我をするような真似はしないでくれ。
そのあとなぜかユキまで団長と手合わせをすることになり……まぁ、負けてしまっていたが護衛対象としては十分なほど戦えていた。隊員も驚いていたからな。ユキは案外えげつない魔法を使うんだよな……水神の檻に雷神の怒り……魔法名に“神”と入る魔法などそうそうしれっと使えるものではないとユキは分かっていないのだろう。そうそう魔力が減ったとは感じないようだしな。
ユキは可愛い見た目でも、守られるだけは嫌だという性格だ。真剣に努力する姿は誰が見ても好ましいものだろう。俺としてはあまり無理はしてほしくないが、ユキが努力している理由が俺を守るため、というものだからやめろなどと言えない。俺の為に頑張る妻……愛しいに決まっている。
……ユキの想像以上の力にテンションの上がった団長がユキに高い高いをしだしたのは本気で何をやっているんだと思った。4mを超す高さに投げられてユキが怖くないわけないだろう……案の定大泣きしたユキは団長から距離を置くようになった。5m以内には入らないらしい。団長はかなりショックを受けた様子だったが、まぁいいだろう。
ああ、ユキの拘束によって無様に転げる団長は正直言って気持ち悪かったな。ユキの機嫌をとるための演技かと思ったが、どうやら本気だったらしい。
「ユキの拘束、マジでやべぇな。まぐれじゃねぇんだろ?」
「そうですね。ユキは上級魔法を訓練している今でも基礎を疎かにしませんから。まぁ、そんなユキも不得意な魔法もあるみたいですが」
今は終業後だからユキ、で問題ない。早くユキの元へ帰って一緒に食事にしたいのに団長に捕まってしまった。いや、無視して帰ろうなどと一瞬たりとも考えていないぞ。
「何が苦手なんだ?」
「魔法収納ですよ」
「……魔力も技術も問題ないと思うんだが」
「なぜか出来ないんですよ。確かに異空間に収納されているみたいなのですが、そこに浮かんでいるように見えるんです。触れないんですけどね」
「……そっちのが難しくねぇか?」
俺もそう思う。なんでああなるのだろうな。俺もそれが出来たら改善策が浮かぶかと思ったが、真似できなかった。
「まぁ、ユキの持ち物など俺が持っておくのでいいんですけどね」
「……お前相変わらずだな。引き止めて悪かったな、ユキが待ってる部屋に早く帰れ」
「帰ろうとしたところを引き止めたのは団長ですけどね。まぁいいです。お先に失礼します」
「おう」
さて、早く帰ろう。手合わせで疲れたようだったし、ユキは今頃寝ているのだろうか。帰ったら起こして一緒に夕食だな。
部屋に着くと、ユキのお気に入りのカウチに小さく膨らんだ毛布が見えた。やはりユキは寝ているようだ。
「お帰りなさい。着替えたらユキ様を起こしてください。ふふ、起こす前に毛布をそっとめくればきっと良いものが見れますよ」
いいものとはなんだ? 気になるな……早く着替えてこよう。
自分の部屋に入って訓練によって埃っぽくなった制服を脱ぎ、楽な服に着替えるとすぐにユキの部屋戻った。ユキは相変わらず眠っているようだ。
毛布を捲れば、と言っていたな……
そっと捲ってみると……思わず逆の手で額を抑えて天を仰いでしまった。背後でリディアが笑う気配がした。こうなるように仕組んだなこいつ……
可愛すぎるだろう、ユキ。ユキには大きすぎる俺のシャツに包まり、顔を襟元に埋めながら気持ち良さそうに眠っているユキはあまりにも可愛かった。これを起こすのか。起こさないと駄目なのか。もうこのままでもいいのではないか? いや、ユキに食事を抜かせるわけにはいかない。仕方ない、ずっと見ていたいが起こそう。
……起こした時のユキの反応はさらに可愛く、今夜は寝かせないことが決定した。むしろその場で襲わなかったことを褒めてくれ。
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