彼女のわがまま

篠宮華

文字の大きさ
4 / 4

おまけ:彼女は思いを馳せる

しおりを挟む
「ねえ、こないだのって平井さんの彼氏?」

 自主ゼミの発表の後。
 ペンケースやレジュメを片付けていたら、今日も変わった柄のシャツを着ている高野先輩に尋ねられる。小さく頷くと、先輩は額に手を当てて苦笑いする。

「やっぱそうだよねー。佐藤先輩、まじで平井さんのこと狙ってるみたいだったから言っとかなきゃなー」

 その言葉を聞いて一番に浮かんだのは、友介の顔。
 別れ話をしたのに、逆に愛され、ぐずぐずにされてしまったあの日、疲れ果ててベッドに横になった私の髪を何度も愛おしそうに撫でながら、『詩乃のやきもちなんか、俺にとっては嬉しいだけだよ。むしろ、俺のやきもちの方がよっぽど重くてウザいかも』と笑いながら言ったときの、あの…。
 しかし、誰にでも同じように優しい彼が、自分に対してだけ見せた激しい執着に、結局私はしっかりと絆されてしまった。

『俺といることで詩乃が自分のこと嫌いになってくなら、その分俺がもっともっと詩乃のこと愛してくから』

 その言葉通り、最近は今までよりもスキンシップが増えたし、いろいろなタイミングで「好き」「可愛い」と甘い言葉をかけてくる。一緒にいる時間も増えたような気がする。これまでが冷たかったわけではないけれど、愛情表現が増えた。
 ちょっと束縛めいたことを言うこともあるけれど、それを嬉しいと思ってしまうあたり、お互いにどこか似ているところがあるのかもしれないと思う。

 …というわけで、なんとなく面倒なことになりそうだから、できれば今後、佐藤先輩とは関わり合いにならない方がいいかもしれない、と。資料を貰ったにも関わらず勝手なことを考えてしまう。
 でも、だからこそ、私に彼氏がいるということを間接的に伝えておいてもらえるのは好都合だ。「そうしてもらえるとありがたいです」と伝えると、高野先輩は「任せて」と言いながら親指を立てた。

 今日は天気がいい。講義棟から出て、並んでキャンパス内を歩く。
 本当に面倒見がよくて優しい先輩だなあと隣を見ると、高野先輩は持っていた炭酸飲料を美味しそうにごくごく飲んでいる。

「そういえばこの間、ごめんなさい。自分で資料受け取りに行けなくて…」

 頭を下げると、高野先輩は何かを察したのかスマホを弄りながら笑う。

「いや全然。元々研究室にも用あったし。俺こそ空気読めない感じで声かけちゃってごめん」
「そんな…とんでもないです」
「ていうかむしろ平井さんたちの方が大丈夫だった?」
「大丈夫…?」

 何を心配されているのかよくわからず首を傾げると、高野先輩は「え、まじ?」と目を丸くする。

「いや、喧嘩してたでしょ?平井さんの彼氏めっちゃキレてたじゃん」
「そ、そうですかね…?」
「おまけにあんなバチバチに『俺の彼女なんですけど?』感出されたの初めてで、いっそのこと清々しかったよ」
「え、えぇ~…?」

 いつもと様子が違ってちょっと怖いなとは思ったけれど、そこまでキレているとは感じていなかった。そしてそれを第三者に言われるとちょっと複雑な気持ちになる。
 でも、そんな私の微妙な表情を見て、高野先輩は「まあ深く考えなくていいんじゃない?」と明るく声を掛けてくれる。

「平井さんが特に何とも感じてないならいいと思うよ。相性ばっちりじゃん。仲直りもできたんでしょ?」
「まあ…はい」

 仲直りはできた。その点については大丈夫だろうと、力強く頷く。
 すると高野先輩は、「よかったね」と笑いながら私の頭をぽんと撫でようと手を伸ばして、しかし直前でその手をひゅっと引っ込めた。

「…どうかしました?」
「…?なんか今殺気が…いや、気のせいかな?」
「殺気?」
「んー…?念のため、平井さんの彼氏に、『高野先輩には付き合って3年になるラブラブの恋人がいるから妙な心配は不要です』って伝えておいてよ」
「わかりました…って、え!そうなんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよ!うわ、そうなんだ。素敵ですね」

 3年後といったら、もう大学を卒業して、就職している頃だ。
 その頃、私と友介の関係はどうなっているのだろうか。とりあえず仲良くやっていたらいいなと思う。
 高野先輩と分かれてから、思わずふふっと笑うと、スマホが震えた。
 メッセージは、頭に浮かんでいた彼からのもので。
 私は画面をタップして、ゆっくりと返信を打ち始めた。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼馴染みのアイツとようやく○○○をした、僕と私の夏の話

こうしき
恋愛
クールなツンツン女子のあかねと真面目な眼鏡男子の亮汰は幼馴染み。 両思いにも関わらず、お互い片想いだと思い込んでいた二人が初めて互いの気持ちを知った、ある夏の日。 戸惑いながらも初めてその身を重ねた二人は夢中で何度も愛し合う。何度も、何度も、何度も── ※ムーンライトにも掲載しています

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隣で眠るなら

篠宮華
恋愛
上原咲(うえはらさき)と及川千晃(おいかわちあき)は、高校の同窓会の後、二人で打ち上げをしていた…はずだったのだが。 『朝起きて、隣にお前がいなかったときの俺の気持ち考えろよ』 幼馴染みの二人がそういうことになるまでの話。 ※本編完結しました。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

ドS王子の意外な真相!?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……その日私は。 見てしまったんです。 あの、ドS王子の課長の、意外な姿を……。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...