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おまけ:彼女は思いを馳せる
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「ねえ、こないだのって平井さんの彼氏?」
自主ゼミの発表の後。
ペンケースやレジュメを片付けていたら、今日も変わった柄のシャツを着ている高野先輩に尋ねられる。小さく頷くと、先輩は額に手を当てて苦笑いする。
「やっぱそうだよねー。佐藤先輩、まじで平井さんのこと狙ってるみたいだったから言っとかなきゃなー」
その言葉を聞いて一番に浮かんだのは、友介の顔。
別れ話をしたのに、逆に愛され、ぐずぐずにされてしまったあの日、疲れ果ててベッドに横になった私の髪を何度も愛おしそうに撫でながら、『詩乃のやきもちなんか、俺にとっては嬉しいだけだよ。むしろ、俺のやきもちの方がよっぽど重くてウザいかも』と笑いながら言ったときの、あの…。
しかし、誰にでも同じように優しい彼が、自分に対してだけ見せた激しい執着に、結局私はしっかりと絆されてしまった。
『俺といることで詩乃が自分のこと嫌いになってくなら、その分俺がもっともっと詩乃のこと愛してくから』
その言葉通り、最近は今までよりもスキンシップが増えたし、いろいろなタイミングで「好き」「可愛い」と甘い言葉をかけてくる。一緒にいる時間も増えたような気がする。これまでが冷たかったわけではないけれど、愛情表現が増えた。
ちょっと束縛めいたことを言うこともあるけれど、それを嬉しいと思ってしまうあたり、お互いにどこか似ているところがあるのかもしれないと思う。
…というわけで、なんとなく面倒なことになりそうだから、できれば今後、佐藤先輩とは関わり合いにならない方がいいかもしれない、と。資料を貰ったにも関わらず勝手なことを考えてしまう。
でも、だからこそ、私に彼氏がいるということを間接的に伝えておいてもらえるのは好都合だ。「そうしてもらえるとありがたいです」と伝えると、高野先輩は「任せて」と言いながら親指を立てた。
今日は天気がいい。講義棟から出て、並んでキャンパス内を歩く。
本当に面倒見がよくて優しい先輩だなあと隣を見ると、高野先輩は持っていた炭酸飲料を美味しそうにごくごく飲んでいる。
「そういえばこの間、ごめんなさい。自分で資料受け取りに行けなくて…」
頭を下げると、高野先輩は何かを察したのかスマホを弄りながら笑う。
「いや全然。元々研究室にも用あったし。俺こそ空気読めない感じで声かけちゃってごめん」
「そんな…とんでもないです」
「ていうかむしろ平井さんたちの方が大丈夫だった?」
「大丈夫…?」
何を心配されているのかよくわからず首を傾げると、高野先輩は「え、まじ?」と目を丸くする。
「いや、喧嘩してたでしょ?平井さんの彼氏めっちゃキレてたじゃん」
「そ、そうですかね…?」
「おまけにあんなバチバチに『俺の彼女なんですけど?』感出されたの初めてで、いっそのこと清々しかったよ」
「え、えぇ~…?」
いつもと様子が違ってちょっと怖いなとは思ったけれど、そこまでキレているとは感じていなかった。そしてそれを第三者に言われるとちょっと複雑な気持ちになる。
でも、そんな私の微妙な表情を見て、高野先輩は「まあ深く考えなくていいんじゃない?」と明るく声を掛けてくれる。
「平井さんが特に何とも感じてないならいいと思うよ。相性ばっちりじゃん。仲直りもできたんでしょ?」
「まあ…はい」
仲直りはできた。その点については大丈夫だろうと、力強く頷く。
すると高野先輩は、「よかったね」と笑いながら私の頭をぽんと撫でようと手を伸ばして、しかし直前でその手をひゅっと引っ込めた。
「…どうかしました?」
「…?なんか今殺気が…いや、気のせいかな?」
「殺気?」
「んー…?念のため、平井さんの彼氏に、『高野先輩には付き合って3年になるラブラブの恋人がいるから妙な心配は不要です』って伝えておいてよ」
「わかりました…って、え!そうなんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよ!うわ、そうなんだ。素敵ですね」
3年後といったら、もう大学を卒業して、就職している頃だ。
その頃、私と友介の関係はどうなっているのだろうか。とりあえず仲良くやっていたらいいなと思う。
高野先輩と分かれてから、思わずふふっと笑うと、スマホが震えた。
メッセージは、頭に浮かんでいた彼からのもので。
私は画面をタップして、ゆっくりと返信を打ち始めた。
自主ゼミの発表の後。
ペンケースやレジュメを片付けていたら、今日も変わった柄のシャツを着ている高野先輩に尋ねられる。小さく頷くと、先輩は額に手を当てて苦笑いする。
「やっぱそうだよねー。佐藤先輩、まじで平井さんのこと狙ってるみたいだったから言っとかなきゃなー」
その言葉を聞いて一番に浮かんだのは、友介の顔。
別れ話をしたのに、逆に愛され、ぐずぐずにされてしまったあの日、疲れ果ててベッドに横になった私の髪を何度も愛おしそうに撫でながら、『詩乃のやきもちなんか、俺にとっては嬉しいだけだよ。むしろ、俺のやきもちの方がよっぽど重くてウザいかも』と笑いながら言ったときの、あの…。
しかし、誰にでも同じように優しい彼が、自分に対してだけ見せた激しい執着に、結局私はしっかりと絆されてしまった。
『俺といることで詩乃が自分のこと嫌いになってくなら、その分俺がもっともっと詩乃のこと愛してくから』
その言葉通り、最近は今までよりもスキンシップが増えたし、いろいろなタイミングで「好き」「可愛い」と甘い言葉をかけてくる。一緒にいる時間も増えたような気がする。これまでが冷たかったわけではないけれど、愛情表現が増えた。
ちょっと束縛めいたことを言うこともあるけれど、それを嬉しいと思ってしまうあたり、お互いにどこか似ているところがあるのかもしれないと思う。
…というわけで、なんとなく面倒なことになりそうだから、できれば今後、佐藤先輩とは関わり合いにならない方がいいかもしれない、と。資料を貰ったにも関わらず勝手なことを考えてしまう。
でも、だからこそ、私に彼氏がいるということを間接的に伝えておいてもらえるのは好都合だ。「そうしてもらえるとありがたいです」と伝えると、高野先輩は「任せて」と言いながら親指を立てた。
今日は天気がいい。講義棟から出て、並んでキャンパス内を歩く。
本当に面倒見がよくて優しい先輩だなあと隣を見ると、高野先輩は持っていた炭酸飲料を美味しそうにごくごく飲んでいる。
「そういえばこの間、ごめんなさい。自分で資料受け取りに行けなくて…」
頭を下げると、高野先輩は何かを察したのかスマホを弄りながら笑う。
「いや全然。元々研究室にも用あったし。俺こそ空気読めない感じで声かけちゃってごめん」
「そんな…とんでもないです」
「ていうかむしろ平井さんたちの方が大丈夫だった?」
「大丈夫…?」
何を心配されているのかよくわからず首を傾げると、高野先輩は「え、まじ?」と目を丸くする。
「いや、喧嘩してたでしょ?平井さんの彼氏めっちゃキレてたじゃん」
「そ、そうですかね…?」
「おまけにあんなバチバチに『俺の彼女なんですけど?』感出されたの初めてで、いっそのこと清々しかったよ」
「え、えぇ~…?」
いつもと様子が違ってちょっと怖いなとは思ったけれど、そこまでキレているとは感じていなかった。そしてそれを第三者に言われるとちょっと複雑な気持ちになる。
でも、そんな私の微妙な表情を見て、高野先輩は「まあ深く考えなくていいんじゃない?」と明るく声を掛けてくれる。
「平井さんが特に何とも感じてないならいいと思うよ。相性ばっちりじゃん。仲直りもできたんでしょ?」
「まあ…はい」
仲直りはできた。その点については大丈夫だろうと、力強く頷く。
すると高野先輩は、「よかったね」と笑いながら私の頭をぽんと撫でようと手を伸ばして、しかし直前でその手をひゅっと引っ込めた。
「…どうかしました?」
「…?なんか今殺気が…いや、気のせいかな?」
「殺気?」
「んー…?念のため、平井さんの彼氏に、『高野先輩には付き合って3年になるラブラブの恋人がいるから妙な心配は不要です』って伝えておいてよ」
「わかりました…って、え!そうなんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよ!うわ、そうなんだ。素敵ですね」
3年後といったら、もう大学を卒業して、就職している頃だ。
その頃、私と友介の関係はどうなっているのだろうか。とりあえず仲良くやっていたらいいなと思う。
高野先輩と分かれてから、思わずふふっと笑うと、スマホが震えた。
メッセージは、頭に浮かんでいた彼からのもので。
私は画面をタップして、ゆっくりと返信を打ち始めた。
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