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③「…抱いてもいい?」
しおりを挟む大きなL字型のソファ、ローテーブル、テレビ。小さな棚が一つ。辺りを見回してもそれ以外は何もなかった。
広い部屋の半分くらいしか使っていないようで、何だかインテリアとしては ちぐはぐだ。
「…本当にここで暮らしてるの?」
「まあ…寝に帰ってくるだけみたいになってる説はあるな」
「もったいない!こんなに広くて素敵なお部屋なのに」
あまりにも物が少な過ぎるけれど、カウンターキッチンはお洒落だし、家庭菜園が出来そうな広めのベランダまである。大きな窓に駆け寄って外を見ると、近くの公園ののどかな芝生が小さく見えた。駅からも近いし、暮らしやすそうだ。
すると、興奮しながら窓の外を眺める私の背後から、するっと腰に腕が回される。背の高い彼の顎が、私の頭の上に乗せられたのがわかった。
「…じゃあさっさと引っ越してこいよ」
「…っ、ちょっと近…」
「つーかもう、この部屋に神山がいるってだけで限界なんだけど」
「限界って…来ていいって言ったのは、きゃっ…!」
そっちでしょ、と言おうとしたのに、体をくるりと向かい合わせにされ、すっぽりと収めるように抱き締められた。
広い胸に顔を埋めると、その匂いに体が反応するような気がする。おずおずと背中に手を回すと、彼が小さく笑ったのがわかった。
「…好きだ」
「……それ、さっき聞いたよ」
照れ隠しのように返すと、額を合わせられる。吐息が溶け合うような距離で聞こえた掠れ声。
——「…抱いてもいい?」
~しろよ、~に決まってんだろと、さっきまでこちらの意見など聞く気がないような様子だったくせに、まるで懇願するように言われた言葉。
——そんな言い方、ずるい。
これで断るなら、ここまで来ていないのに。
でもきっと、私が断ったらしないんだろうなと思う。そういう人なのだ、この人は。
「だめ」
「……」
「…なんて言うわけないじゃん」
「お前さぁ…ほんとやめろよそういうの」
ふふっとお互いに笑い合う。
そして、まるでそれが合図のように、どちらからともなく唇が重なった。浅く、啄むようだったキスはあっという間に深くなる。
頭をがっちりと引き寄せながら追い込んでくるような口づけに、後退りしながら応えていると、リビングに置かれているソファに膝の裏がぶつかって、どさりと座り込む。
こちらを見下ろしながらネクタイを緩め、口の端を上げる菅原を見上げる。凄まじい色気にあてられたような気持ちになりながら腕を伸ばすと、子どもにするように抱き上げられた。首に腕を回してしがみつく。
私を抱き抱えたまま寝室に向かうらしい彼に、はっとして尋ねる。
「シャワーとか…」
「待てない。どうせ汗かくだろうから後で一緒に風呂入る」
「ん…」
私の返事など聞かずに再び重ねられた唇の間から舌が入り込み、唾液が混じり合う。
角度を変え、何度も口づけを交わしながら、ベッドの上に横たえられた。
のしかかってきた菅原が、着ていたブラウスのボタンを一つ一つ外すから、私も彼のYシャツのボタンに手をかける。
そうして服を脱がし合っていると、月明かりのみに照らされた薄暗い部屋にだんだん目が慣れてくる。
いち早く私の服のボタンを全部外し終わった彼に、首筋をなぞるように舌を這わされて、思わず声が漏れそうになり唇を噛むと、頭を撫でられた。
「防音しっかりしてるから、平気だよ」
「で、でも…っ」
「つーか、聞きたいし、声」
いつの間にかホックを外されていたブラジャーがずり上がる。胸の先端をぺろっと舐められて身を捩ると、今度はそこを口に含まれ、むしゃぶりつくように吸われた。おまけに形を確かめるように、胸を手でぐにぐにと揉みしだかれる。
「ん、や…っ」
「お前結構…」
「な、何よ…」
「いや、足とか細いのに意外と胸でかいんだなと思って」
そう言いながら、するするっと指先で腰をなぞるように愛撫される。
「エロくて最高だなってこと」
「…バカじゃないの、んむぅ…っ」
言い返そうとすると噛み付くようなキスに言葉を封じられた。もどかしそうにスカートやストッキングも脱がされる。あっという間に一糸纏わぬ姿にされ、恥ずかしくて隠そうとすると「逆効果だよ」と腕をベッドに縫い止めるように抑え込まれた。
胸がふやけてしまうのではないかと思うくらい執拗にしゃぶられ、時折先端を甘噛みされる。
お腹の奥にもどかしい感覚がじんじんと燻っているのに、そこには触れてくれない。私の両足の上に跨って、体中のあらゆるところを撫でていく彼が、私が快感に耐えきれず足を擦り合わせていることに気付いていないはずがないのに。
「菅原って、ねちっこい…っ」
「…あ?味わってんだよ。ようやく妄想じゃなくて本物目の前にしてんだから」
「妄想…」
私で一体どんな妄想をしていたのだろうか。
私の訝しげな顔を見て、菅原はにやっと笑ってから私の足を大きく開かせた。
「それとも何?早くこっち触ってほしいってこと?」
「そんなんじゃ…っんぁぁあっ!」
突然、体の中心に つぷりと指を突き立てられ、その快感の大きさに背中がのけぞった。簡単に彼の太い指を飲み込んだそこは、抽送を助けるようにどんどん蜜を溢れさせる。浅いところをちょっと弄られただけで、ぐちゅぐちゅと水音を立てる体は、自分のものではないような気がしてくるほど単純だった。
菅原は私の中を指でかき混ぜながら、膨らんだ下の突起を押し潰すように刺激する。それだけであっという間に達してしまいそうになるから、止めようとその腕を掴むけれど、力で敵うわけもなく。
腰がびくびくと跳ねる私を見て、彼はからかうように笑う。
「こんなぐちゃぐちゃになるまでほっといて悪かったよ。早く触ってほしかったんだよなあ?」
「あっ、ん、ちが…っ…や…ぁあん…!」
「違う?じゃあここでやめとく?」
「え…?」
ぴたりと動きを止められて、息も絶え絶えになりながらその顔を見ると、ちゅっと触れるだけのキスが降ってきた。
「…なんて言うわけないじゃん」
「っ!……もう!ばか!」
菅原はさっき私が言ったのを真似して言って、楽しそうに笑いながら、再び奥に指を埋める。
「…でも確かに馬鹿かもな。お前のこと抱けるってなったら、カッコつけようって思ってたのに、なんかそれ以上に浮かれてるわ」
心底嬉しそうにそう言われて、さすがに胸がきゅんと締め付けられるけれど、中に入れた指をバラバラに動かされて、すぐにまた何も考えられなくなった。
私の弱いところを、太く骨張った指が蹂躙するように何度も擦る。ぐぽぐぽと卑猥な音を立てながら そこを攻められ、同時にさっき散々弄っていた胸の先端を、再び舌先で押し潰すように刺激される。
「やっ…そん、な、一緒にぐりぐりしないで…っ!!」
「…気持ちよくなり過ぎる?」
もはや否定する余裕もなく、こくこくと頷くと、舌打ちの後、「煽るなよ」と荒々しく唇を塞がれた。
嬌声を飲み込むように舌を絡められて、頭がぼぅっとしてくる。すると、体を起こした菅原は、私に尋ねる。
「そういや、まだ聞いてないんだけど」
「な、にを…?」
「俺のこと、どう思ってるか」
今更…と言いたいけれど、確かに明言はしていない。でも、ここまで思いを伝えてもらっておいて、しらばっくれているのはよくない。ちゃんと伝えようと、組み敷かれながら、ちょっとぎらついた瞳を見つめる。それなのに。
「私も、菅原のことが…ひぁあっ!!」
突然、足を大きく開かされてそこに顔を埋められた。花芯を舌先でぐりぐりと刺激され、とてつもない快感に全身が震える。
「やっ、まっ…て、だめ、だめっ…!そこ…っ!」
「…で、俺のことが何?」
「や、そんなとこで、しゃべんないで…っ!ああぁん!!」
一気に上り詰め、腰が痙攣するようにびくびくと跳ねた。達してしまった余韻で、体から汗がふき出す。
そんな私を満足そうに見下ろした菅原は、自分のベルトに手を掛け、まだ履いたままだったスラックスの前を寛げた。
どこかから取り出した避妊具をつけながら、「…挿れるぞ」と、私の足の間に体を割り込ませる。
蜜口に、ぴたりと硬く大きくなったものがあてられたかと思ったら、ずぶずぶと入り込んでくる。その大きさに一瞬身構えたけれど、よくほぐされたそこはすぐにそれを受け入れた。ゆるゆると、しかし確実に激しくなる抽送に、体がのけ反る。
大き過ぎる快感に思わず腰を引こうとするも、あっけなく阻止され、今度は左足を逞しい肩に担ぎ上げられた。より深く繋がって、悲鳴のような喘ぎ声をあげてしまう。
「こら、逃げんな」
「やぁっ…だめぇっ…!」
「…早く言えよ、俺のことどう思ってるか」
「んぁっ、い、やぁ…す、す…き、っん、あっ…!」
「…なんつったか聞こえない」
「だ、から、す…っ、んんっ…!」
一生懸命伝えようとしているのにその度に思い切り腰を打ち付けられ、キスで言葉を封じられ、なかなかちゃんと言うことが出来ない。それなのに「早く言え」と急かすから、だんだんくらくらしてくる。
生理的なものなのか、なかなか言わせてもらえないことに対してなのか分からない涙が滲んできたところで、はっとした彼に足を下ろされ、背中から抱き起こされる。
繋がったまま、足を伸ばした彼の上にへたり込むように座ると、そっと抱き締められた。
「…悪い、いじめ過ぎた」
「もうやだぁ……!ちゃんと言おうとしてるのに…」
「ごめんって。だってお前可愛いんだもん」
頬にちゅっとキスをされ、宥めるように背中を優しく撫でられた。今がチャンスだと思い、私はどうにかこうにか身体を起こしてその整った顔を両手で挟む。
「私も菅原のこと、好き。これからもずっと一緒にいたい」
気を抜いていたのか、菅原は一瞬息を呑んだように固まった。それから何秒か後、大きく息を吐き出してから微笑む。
「頼まれなくてもずっと一緒にいるよ、覚悟しとけ」
それから、私を潰れてしまいそうなくらい力一杯抱き締めた。
「…動くぞ」
小さく頷くと、ヘッドボードに背中を預けた彼が、私を下から何度も突き上げ始める。
喘ぎ声を止められない私の顔を、目を細めて見つめながら「好きだ」とうわ言のように何度も呟くその人のことを、改めて大切にしていこうと思う。
しがみつくようにその広い背中に手を回して、私はされるがまま、その大きな愛情を全身で受け止めた。
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