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④一緒に迎える朝
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頭を何度も撫でられる感触にうっすらと目を開けると、穏やかにこちらを見つめる瞳と視線がぶつかる。
ゆるゆると腕を伸ばすと、背中に手が回ってゆっくり抱き起こされた。
白いTシャツにデニムを履いて、カーキ色のエプロンを付けたその姿が新鮮で、ふふっと笑うと、「なんだよ」と瞼に小さくキスを落とされる。
昨日は、激しい行為の後、ふらふらになっていたところを抱きかかえられるようにしてシャワーを浴びた…かと思ったら、案の定シャワーを浴びるだけでは済まず、日付が変わっても体を繋ぎ合い、結局眠りについたのは明け方。
サイズが大きすぎるTシャツとウエストがぶかぶかのハーフパンツを借りて、横になった瞬間に気絶するように眠ってしまった。体がだる過ぎる。
菅原もさすがにやり過ぎたと思ったのか、甲斐甲斐しく世話を焼いてくるので、とりあえず甘えている。
「そろそろ11時過ぎだけど、なんか食いたいもんある?」
「なんでもいい…」
「それが一番困る。米かパンかだけでも言え」
「んー…じゃあ、パン…」
もぞもぞとブランケットにくるまったまま答えると、頬を指の背でそっと撫でられる。甘過ぎる視線を正面から受け止めながら尋ねる。
「どうしてそんなに元気なの?私へろっへろなんだけど」
「元気って……まあ、たまに走ったり筋トレしたりしてるから。ここ、住人は使い放題のジムもついてるし」
「そうなんだ。いいなあ」
「だから早く引っ越して来いって」
なかなか頭が覚醒しないまま、再びベッドに横になりそうになると、腕を引っ張られ、そのままお姫様抱っこのように抱き上げられたので、素直に運んでもらうことにした。逞しい首に腕を回してしがみつく。
リビングのソファにそっと下ろされて、小さくお礼を言うと、「ごろごろしとけ」とクッションを渡される。
昨日は夜遅かったからわからなかったけれど、この部屋は日当たりも良好だ。外から差し込む光に目を細めながら、窓の隙間から入ってくる風を感じていると、しばらくしてからトーストが運ばれてきた。ゆで卵やチキン、トマトが乗ったサラダも添えられている。
「すごい、私の好きなものばっかり」
「スクランブルエッグよりゆで卵派なんだろ」
確かにその通りだけれど、そんな話をいつしたのか、全く覚えていない。雑談はたくさんしてきたし、飲みにも数え切れないくらい行ったけれど、こんな些細な情報を覚えているなんて。
不思議な気持ちでローテーブルに置かれたそれを見つめていると、マグカップを差し出された。
「そんで、コーヒーよりカフェオレ」
自信満々で言ってから、「熱いから気を付けろよ」と持ち手を私が持ちやすいように向けてくれる。
あまりに自然な様子に、マグカップを受け取りながら、顔がにやけそうになるのを堪える。
丁度よく焼かれたトーストを齧ると、自分用のマグカップを取りに行って、戻ってきた菅原が隣に座った。
「つーか、この部屋まだ完成してないからな」
「完成?」
「神山の荷物が入ってないし、足りない家具とか一緒に選んでないし」
そうやって、当然のように言う顔は、やっぱり優しい。そのことに、改めて気付かされた朝。
首を傾げて問いかける。
「菅原さぁ…」
「ん?」
「もしかして私のこと、すごい好き?」
私の言葉に一瞬目を見開いてから、眉根を寄せ、私の額を小突く。
「当たり前だろ、いちいち言わせんな」
「言ってくれないとわかんない」
「…これから、言わなくてもわからせる」
ちょっと照れているのを誤魔化すようにコーヒーに口をつける彼の横顔を見て、心に温かいものが湧き出すような気がする。
「ねえ、とりあえずこの後インテリアショップとか行ってみたいな。えっと…和馬?」
「……お前って、急にそういうことすんだよな」
「和馬も名前呼んでよ」
「…紗月」
いよいよ顔が緩むのを止められなくなりながら「はい」と返事をすると、目の前の彼も表情を和らげたから。
ふわりとカーテンが舞い上がり、部屋に新しい風が吹き込む中、ちゃんと私も気持ちを返していこうと心に誓った。
ゆるゆると腕を伸ばすと、背中に手が回ってゆっくり抱き起こされた。
白いTシャツにデニムを履いて、カーキ色のエプロンを付けたその姿が新鮮で、ふふっと笑うと、「なんだよ」と瞼に小さくキスを落とされる。
昨日は、激しい行為の後、ふらふらになっていたところを抱きかかえられるようにしてシャワーを浴びた…かと思ったら、案の定シャワーを浴びるだけでは済まず、日付が変わっても体を繋ぎ合い、結局眠りについたのは明け方。
サイズが大きすぎるTシャツとウエストがぶかぶかのハーフパンツを借りて、横になった瞬間に気絶するように眠ってしまった。体がだる過ぎる。
菅原もさすがにやり過ぎたと思ったのか、甲斐甲斐しく世話を焼いてくるので、とりあえず甘えている。
「そろそろ11時過ぎだけど、なんか食いたいもんある?」
「なんでもいい…」
「それが一番困る。米かパンかだけでも言え」
「んー…じゃあ、パン…」
もぞもぞとブランケットにくるまったまま答えると、頬を指の背でそっと撫でられる。甘過ぎる視線を正面から受け止めながら尋ねる。
「どうしてそんなに元気なの?私へろっへろなんだけど」
「元気って……まあ、たまに走ったり筋トレしたりしてるから。ここ、住人は使い放題のジムもついてるし」
「そうなんだ。いいなあ」
「だから早く引っ越して来いって」
なかなか頭が覚醒しないまま、再びベッドに横になりそうになると、腕を引っ張られ、そのままお姫様抱っこのように抱き上げられたので、素直に運んでもらうことにした。逞しい首に腕を回してしがみつく。
リビングのソファにそっと下ろされて、小さくお礼を言うと、「ごろごろしとけ」とクッションを渡される。
昨日は夜遅かったからわからなかったけれど、この部屋は日当たりも良好だ。外から差し込む光に目を細めながら、窓の隙間から入ってくる風を感じていると、しばらくしてからトーストが運ばれてきた。ゆで卵やチキン、トマトが乗ったサラダも添えられている。
「すごい、私の好きなものばっかり」
「スクランブルエッグよりゆで卵派なんだろ」
確かにその通りだけれど、そんな話をいつしたのか、全く覚えていない。雑談はたくさんしてきたし、飲みにも数え切れないくらい行ったけれど、こんな些細な情報を覚えているなんて。
不思議な気持ちでローテーブルに置かれたそれを見つめていると、マグカップを差し出された。
「そんで、コーヒーよりカフェオレ」
自信満々で言ってから、「熱いから気を付けろよ」と持ち手を私が持ちやすいように向けてくれる。
あまりに自然な様子に、マグカップを受け取りながら、顔がにやけそうになるのを堪える。
丁度よく焼かれたトーストを齧ると、自分用のマグカップを取りに行って、戻ってきた菅原が隣に座った。
「つーか、この部屋まだ完成してないからな」
「完成?」
「神山の荷物が入ってないし、足りない家具とか一緒に選んでないし」
そうやって、当然のように言う顔は、やっぱり優しい。そのことに、改めて気付かされた朝。
首を傾げて問いかける。
「菅原さぁ…」
「ん?」
「もしかして私のこと、すごい好き?」
私の言葉に一瞬目を見開いてから、眉根を寄せ、私の額を小突く。
「当たり前だろ、いちいち言わせんな」
「言ってくれないとわかんない」
「…これから、言わなくてもわからせる」
ちょっと照れているのを誤魔化すようにコーヒーに口をつける彼の横顔を見て、心に温かいものが湧き出すような気がする。
「ねえ、とりあえずこの後インテリアショップとか行ってみたいな。えっと…和馬?」
「……お前って、急にそういうことすんだよな」
「和馬も名前呼んでよ」
「…紗月」
いよいよ顔が緩むのを止められなくなりながら「はい」と返事をすると、目の前の彼も表情を和らげたから。
ふわりとカーテンが舞い上がり、部屋に新しい風が吹き込む中、ちゃんと私も気持ちを返していこうと心に誓った。
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