病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで

北上オト

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2.若狼らは苦難の道のりを知らず

1.来訪者

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 なんとも気まずい雰囲気だった。
 横一列に並べられ、黙って立っている様子は、幼い頃に通った学舎を思い出させる。
 そもそも幼少期から優等生として扱われていたリュディガーが、罰として立たされることなどほとんどなかった。隣に立つテオドアの悪事に巻き込まれた時を除いては。

 テオドアは、北部でも騎士団長を多く輩出しているシュタインベルグ家の次男坊である。北部では珍しい赤みがかった黒髪を持ち、それがシュタインベルグ家の特徴でもあった。
 リュディガーとは同い年であるため、北部の学舎でも行動を共にすることが多かった。
 テオドアはその髪色にふさわしい血気盛んな性格で、勝手にリュディガーをライバル視していた。
 今回も、リュディガーがいち早く成人の儀を終えたと聞くや否や、単身フィンスタニスへ乗り込んできたというわけだ。

 目の前には、先生然とした前当主ヴォーダンが腕を組み、冷めた目で全員を眺めている。
 現当主であるウルリケもかなりの体躯の持ち主だが、前当主はそれを上回るほど筋骨隆々としており、正直、狼というより大熊といった風情だ。
 成人の儀でこの地を訪れた者は、まず魔獣と対峙する前に、魔獣並みの威圧感を持つ前当主と向き合うことになる。
 大抵はそこで萎縮してしまうものだが、目の前に立つ幼い騎士予備軍らは平然としていた。

「テオドアは獲物を見つけられたのか?」

 長い沈黙の後、まるで何事もなかったかのように、ここしばらくいつも口にしている言葉を発する。
 まさか自分のことを一番に言及されるとは思っていなかったテオドアは、我に返り背筋を伸ばす。

「いえ……今日は南東へ足を向けてみたのですが、出会ったのはマンイーターとグールくらいで、成果はありませんでした」

 その回答に、ヴォーダンは背後に控えるミハエルへ目を向ける。

「マンイーターが2体、グールが5体です」

 正確な数字を述べると、ヴォーダンは眉を寄せた。

「これで20体は超えている。成人の儀の成果としては充分だ」

 通常、2~3体倒せば終了する儀を、テオドアはまだ続けている。
 ヴォーダンが十分だと判断するのも当然だった。

 しかし、テオドアは首を振る。

「俺は納得してません」

 頑なに譲るつもりはないようで、固い決意を声に乗せた後、すぐ隣に立つリュディガーへと視線を向けた。
 テオドアは明らかな敵対心を隠すことなく、じっとリュディガーから目を離さない。
 はっきりと言葉にすることはないが、その目線は明らかに「お前を超えるまで帰らない」と言っていた。

 しかしそれに対して、リュディガーは淡々と述べる。

「俺はそんなに捕ってない」

 リュディガーにしてみれば、本当に感心しての発言だったのだろうが、逆にテオドアの神経を逆撫でする結果となった。

 ぐるんっと首を横に向けて食ってかかる。

「でもバジリスク2体、討伐してんじゃん。しかも一人で! そんなの負けていられるかよ!」
「ええっ。なんなのテオってば、なんでそんな小物ばかり相手にしてるの!?」

 今度は本気で驚いた声を上げて、キーラがテオドアを凝視する。

「うるさいなぁ。俺はとてつもなく運が悪いんだよ。ぜんっぜん上級魔物に遭遇しないんだよ」

 それがさらに話の火種を呼び、まったく話が収拾できない状態になってきた。
 キーラの指摘がかなり癇に障ったのか、怒りの矛先は一番端にいたヨシュカにまで及ぶ。

「だいたい、そいつなんてもっとひどいからな。ようやくコボルト討伐に成功するような鈍くさいヤツだから」
「ええ。見てました。先ほどなんてコボルトどころか、スライムにまで足を取られて転んでいたくらいだもの」

 テオドアに同意するかのような発言の後、二人は同時にヨシュカへと厳しい視線を向ける。
 明らかに見下した態度に、傍観していたリュディガーが眉を寄せたが、ヨシュカは軽く肩をすくめ、さもないことでも言うように優雅に笑った。

「何分、都会育ちでね。その点はご容赦願いたいな。最近はコボルトくらいの魔物なら何とか対処できるようになったしね。ここで暮らすために訓練しているので、もう少し温かい目で見守ってもらえれば助かる」

 あまりに余裕綽々な態度に、キーラは怒りでいっぱいのようだった。
 さらに言葉を連ねようとしたところで、ヴォーダンが手を挙げて静止した。

「キーラ。ここにはなぜ来た? 成人の儀にはまだ早いだろう」

 話の矛先が自分に向けられて、キーラは背筋を正す。
 キーラは今年で10歳、ノーデンシュバルトの末娘である。
 揃いも揃って強面が多いノーデンシュバルトの中で、運よくというか、うまくというか、クレメンスの血を色濃く受け継いだキーラは、一見すると非常に美しく、そして愛らしい顔立ちをしていた。
 豊かな黒髪に青みがかった瞳。通常ならば男性が着用するトラウザーを颯爽と着こなし、見つめる姿は、まるでビスクドールのようだった。
 だが中身は人形とは似ても似つかない暴れ馬で、それこそノーデンシュバルトの気質を一番に受け継いでいると言っても過言ではなかった。
 もちろん発言も明朗快活、嘘偽りなく堂々と告げる。

「私、お兄様を連れ戻しに参りましたの」

 天使のような愛らしい笑みは、これからの困難などまったく感じさせない爽やかなものだった。
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