ほのぼの子育て日記〜俺と魔王の息子の日常〜

ゆに

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第4話 この子は俺の子だ!

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ようやく子供は泣き止んだ。
お腹が満たされたのかまたすぐに寝てしまった。

ん? ラピュアが笑っている、急にどうしたんだ?

「ごめんなさい、あなたがその子をあやしてた時の事を思い出しちゃって……」

「えっ、聞こえてたの?」

「はい、素敵でしたよ、でもすごく一生懸命いないいないばあしてたのが面白くて」

必死でやってて周りのことなんて考えてなかった……
顔が赤くなってきた……

「は、恥ずかしいなぁ……」

こんなボロ小屋じゃ音が遮られる訳がないか、鳴き声も外に丸聞こえだったろうな……
ってこれは……

「うわっ!」

さっきまで子供に夢中で気付かなかったけど、小屋の前に見物客が集まっていた。

20人くらいいるのか? 魔獣ばかりだ……いや人間も何人かいるか。

考えたこともなかったけど、ここは人間と魔獣が共存してる場所のようだ。

みんな俺のことを好奇の目で見ている……

「すいません、お騒がせしちゃって……」

普段ならこの数の魔獣を見たら下手したら恐怖で気を失ってるかもしれない。
ラピュアに会っていたせいか感覚がおかしくなって自分から普通に話しかけていた。

「そなたはハンターじゃな?」

見物してる者の奥から、シワだらけの年を取った魔獣が俺に近づいてきた。

「えっ俺? 俺はハンターでは……」
無い……か、もうハンターとは言えないよな……


「そこにある剣、中々の物じゃな?」
シルフィードの事か、この剣のせいで疑われたのか、こんな事になるならズィーガーから盗らなければよかった……

「俺は森に迷い込んだだけで……」

「この危険な森に子供を連れて入ってくるかのぉ……」
やばい、何か疑われてるぞ……

「おばば様! この方をいじめないでください!」

「ラピュア、見知らぬ者にいきなり接したら危険じゃと言ったろうに……」

「大丈夫です、まずこの方レベル1ですし」

街の中ではステータスが見られてしまう。
『愛情』資質だってことまではバレてないが、俺がレベル1だって事はバレてしまっていたのか……

「この者が弱くとも強い仲間が待機してるかもしれん、現にこの者には勿体ないほどの剣を持っておる」

ラピュアが助け舟を出してくれたが、なんだかまずい空気だ……なんとかしないと……

「実は俺は街を追われて子供と一緒に逃げ出してきたんだ! り、理由は言えないけど、ようやくここに着いたんだ、匿ってくれとまでは言わないが、しばらくここにいさせて貰えませんか?」

なんか勢いで言ってしまった……

「……」
おばばは黙り込んだ。


「子供ねぇ……」

抱えてる子供に顔を寄せマジマジと観察してきた。

「たった今の話なんじゃがな……どこぞで大魔王が倒されて、城にいた者達は全員倒されたが、産まれたてのひとり息子だけは見つからなかったと騒ぎになっているらしいんじゃよ……」

「えっ?」
さっきの灰になった魔獣の言ってた事、やっぱり本当だったのか……

とんでもない子供を受け取ってしまった……


って待てよ。

城にいた者達は全員倒したって言ってたよな? この子はこんなに小さいのにもう両親も何もかも失ってしまったのか……?

俺は10年間、バカにされながらだけど、一緒にやってきたパーティをクビにされただけで、俺はすごい落ち込んでたけど、この子は……

この子は俺なんかよりずっと辛いものを背負ってしまってるのか……

「……何て思われようと構わない。俺しかいないんだ……」


「この子は俺の子だ!」

周りが静かになった。


おばばは心の奥を見るように俺の目をじっと見つめてきた。

「……」

沈黙したまま、おばばは俺の目を見続けていた……

「その小屋は誰も使ってない、好きに使い……」

おばばが重い口を開いた。

俺が抱いている子に顔を寄せ、今までの表情が嘘のように笑顔になった。

「かわいい子じゃ……」
子供の頭を軽く撫でて、おばばは子供を抱き上げた。

「まだ産まれて2ヶ月くらいってとこじゃろ? 首もすわっとらんのじゃから、もっとしっかり抱いてやり」

おばばは俺に子供を預け、しっかり抱けるように俺の腕を動かした。

「あっ」
包み込むように抱きかかえるのか。
おばばに成すがままにされたが、言われた通り抱っこするとさっきよも子供が楽そうに寝るようになった。

「あ、ありがとうございます」

おばばは返事もなく、背中を向けた。

「リック、生活用具くらいは渡してやり、赤児のはいいやつにするんじゃぞ」

「おう! わかった!」
リザードマンだ……リックという奴、一度討伐したことのある種族だ。

俺達が討伐してた種族の魔獣もここには住んでるのか……

「落ち着いたら顔を見せにおいで」

その言葉を最後におばばは小屋から離れていった。

緊張の糸が切れたように住人が俺のそばに寄ってきた。

「なんかカッコよかったぞ! これからよろしくな!」
「ねえねえ名前なんていうの?」
「ちっちゃい子だなぁ、この子何歳だ?」

質問攻めだ……

魔獣達の勢いに飲まれて、あたふたしてしまっていた。

「皆さん! 話は今度にしましょ! この方も赤ちゃんも疲れてるでしょうから」

ラピュアが、周りを止めてくれた。

「そうだよな」
「何かあったら私に言ってね!」
「俺でもいいぞ!」

みんな、珍しそうに俺と子供にペタペタと触れた後素直に帰っていった。

やっと落ち着けた……

疲れか? 腰が抜けて、その場に座り込んだ……

「子育てか……」

一気に人生が変わってしまった……俺はこれからどうなるんだ……
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