アイデンティティ

那月

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チャイニーズアフェクション

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「い、い、い、い、意味が分からないっ!!」
 

 戦闘開始早々、シャオリンが叫んだ。あの場にいてはスカーレット・ローズの仲間達を巻き込んでしまう、というよりも戦闘の邪魔になるからと遠くまで走って山の中。

 
 よく響いたな。普段のシャオリンでは考えられねーほど動揺した、心からの叫び。そりゃあそうだろう、私も意味が分からない。

 
 意味が分からないというか、コイツをぶっ飛ばしてー。

 
 山の中まで移動して向き合った瞬間、ギオはシャオリンの目の前にいた。わずか数センチの距離。跳び下がる間も、声を上げる間もないままコイツの汚らしい手が顎をつかんだ。

 
 クイッと持ち上げるとそのまま顔を寄せて唇が重なる。何してんだよっ!?
 

 だが次の瞬間、ギオは顔をゆがめて大きく跳び下がった。脇腹からボタボタと血を流しながらも銃を構え、笑う。

 
「だーかーら、さっきも言ったでしょ?僕は組織を抜けて、君のために僕も君も死んだことにしてあげたんだよ。わざわざバラバラの焼死体とDNAサンプルまで用意してね」

 
「そこまでする理由がわからないんだよっ!お前は、僕を消すために探していたんじゃないのか!?」

 
 コイツが愛用しているサプレッサー付きのスタームルガーMkⅠの銃口は私を向いている。シャオリンは反撃してこないと、甘く見ているのか?

 
 実際、シャオリンは絶賛大混乱中で血で濡れた青龍刀を構えてはいるが腰が引けている。

 
 ギオの動きに注意しながら攻撃は仕掛けないで必死に考えているんだろう。顔が赤いまま、服の袖で全力で口を拭っているのがなんとも滑稽だな。


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