アイデンティティ

那月

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アイデンティティ

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 ひとしきり笑い合った後、俺の名前が書かれた手紙を手に取った。散々悩んだらしい。書いては消した跡がたくさんある。

 
 ボールペンだから消した部分が黒く塗りつぶされていて、パッと見が汚い。あの頃の俺、なぜ別の紙に下書きしようとしなかった?

 
「うわ、汚いわね。なんて書いてあるの……?」

 
 興味津々のマリアンが椅子から身を乗り出して覗き込んできた。落ちるぞ?顔を寄せてきたので仕方なく腰を抱いて支えてやる。

 
 えーと、最初は“35歳の俺、老け込んでいないか?”って、老け込んでなんかねぇわ!入りがおかしいだろ!

 
 20代よりは若干の衰えは感じるが、今でもバリバリだ。動けなくなるまで部下達を引っ張っていくぜ。

 
 “一緒にいるであろうマリアンは20歳になっただろう、大人の仲間入りおめでとう。35歳の俺に盛大に祝ってもらえ”あぁ、そういえば成人したのか。

 
 チラッと隣を見ればちょうど目が合って、目元にチュッとキスしてやった。今度、成人祝いに美味いものを食わせてやるよ。
 

 “兄貴はDBの頭になって皆を引っ張っているか?兄貴はしっかりしているが、組織のトップに立つような人柄ではないからな。それとなく目をかけてやってくれ”

 
 悪い。俺のせいで兄貴は嫁と片足をなくして俺の側近になっちまった。けど兄貴は兄貴なりに俺を支えてくれている。


 “そろそろ俺は結婚しているか?30を過ぎれば希望の光はどんどん暗くなっていくからな。マリアンも、女の子と間違うほどの可愛さだったし。20歳になれば綺麗な大人になっているんだろう。正直俺は子供の、それも男のマリアンに惹かれている。10年後がどうなっているかはわからないが、この頃の俺はどうかしていたんだと笑ってくれ”
 

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