アイデンティティ

那月

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アイデンティティ

12P

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 小学校1年生の作文でもここまで短くねぇぞ。手紙の内容がたった1文、何で“しょう来の夢、世界せいふく”なんだよ?

 
「オレやシャオリンみたいな人は世界中にいるわ。世界に認められなくて悩んで悩んで、自分で自分を殺してしまう人もいる。そんな人が少しでも減るようにオレがこの世界を支配して、1人1人が自分らしく生きられる世界にしたいって思っていたのよ。本気でね、考えていたの」

 
 そう言ってマリアンは、手紙の文字を指でなぞる。短いその1文に込められた想いが重い。

 
 さすがに今はそんなことは考えていないと苦笑するが。10歳でそんな深く悩んでいたのかよ。ガキのくせにその小さな胸の中に隠していやがったな。

 
「いつかは必ず、お前が思い描くような世界になるさ。きっと、な……」
 

「いいのよ。オレにはこうして、オレを理解し愛してくれるノルがいるんだから。シャオリンにも、セイフォンとギオがいるんだし、ね?」


「お前って本当にポジティブだな。ん、どうした?」
 

「それにこういうのは性別だけの話じゃないのよ。自分とは違うことを異質ととらえ、非難する人達がいる限り…………どんな人でも受け入れなきゃ」
 

 過去の自分を思い出したのか。言いたいことはわかるけどな、暗い顔なんてお前には似合わないんだよ。

 
 マリアンは子供の頃、誰にも受け入れられずに苦しんでいた。俺に出会わなければ今頃はどうなっていたんだろうか。

 
 受け入れてほしい、理解してほしいなんて誰もが思うことだ。俺だってそうだ。例えばそう、俺はキセル愛用者だがタバコは嫌いだ。煙草とキセルを一緒にするな、とか。

 
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