警察の犬は雨天がお好き

那月

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番犬

3P

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 黒い傘の骨から飛び出た刃が殺し屋の首筋に触れる直前、ピタッと止まった。代わりにミナギは傘の骨の留め具を外すと、動かなくなった殺し屋の首にプスリ。


 無表情。いつもの、仕事の時の顔なのに。漆黒の瞳の奥に燃え盛る炎が見える。怒り、憎しみ、悲しみ。俺が止めなければ確実に、殺していた。


 元特殊部隊だったのかもしれない、プロの殺し屋。倒せたのはミナギがすでに弱らせていたから。


 黒い傘は骨が折れ、剣状態の刃は欠けてしまっている。足を引きずっているし、腕も斬り付けられたのか血が流れている。それでもミナギは、生きている。


 俺が戻るまでに殺しておこうとしたのか。だったら、殺し屋の侵入に気付いても俺に連絡しなかったらよかったんだ。


 わざわざ俺に電話をしたのは、俺がお前の飼い主だからか?本当に、それだけか?


 死ぬのが怖かったんじゃないのか?殺し屋と刺し違えてでもって覚悟はあっても、この世に存在しない存在でも。完全に消え失せてしまうのが怖かった。


 生きたい理由があるから。5年前に出会ったあの時からミナギは変わった。本物の警察犬のような、命令で生きる犬だったのに。俺と暮らした5年間でお前は、ちゃんと人間になったんだ。


 5年前まではなかった感情、想いがあるんだろう?俺にはわかるぜ、何となくだがな。だから俺も嬉しい。


 俺のために殺させはしない。ミナギが死にたいって言っても、俺は全力で止める。俺も、もう5年前の俺とは違うから。


 家に飛び込んだ時、あらゆる感情が爆発した。体が勝手に動いた。何か叫んだかもしれないが、よく覚えてない。


 ミナギが殺される!無我夢中だった。火事場の馬鹿力っていうのか?自分でも信じられない力で、殺し屋を圧倒した。


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