警察の犬は雨天がお好き

那月

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現役の警察は元警察の犬を愛している

11P

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 ミナギの苦しそうな悲鳴と、口の中に広がる鉄の味にハッと我に返ってもさらに強く噛んでしまう。


 まるで獰猛な獣だ。前にテレビで見た、肉食動物が狩りをして獲物に食らいつき、肉を引きちぎるのを思い出した。今の俺はその肉食動物と同じだ。


「うぅっ……痛い、よ。でも、怖くないよ。柚樹さん。僕は怖くない。柚樹さんも、何も怖くない。大丈夫」


 ミヂミヂッ。肩の肉が裂ける音が聞こえそうなほどだったのに、俺は口を離した。真っ赤だ。ミナギの首は血で汚れて、咳き込めば血が流れる。


 血の気が引いた。慌てて、近くにあったタオルを押し付ける。どうして、俺は、どうすれば!


 まさか、初めてのセックスの最中にこんなことになるなんて。自分が恐ろしくてたまらない。それ以上に、こんな俺の本性を目の当たりにして、ミナギに嫌われてしまうのが。


 そう、思ったのに。ミナギは、俺の手に手を重ねて微笑んだんだ。かすれた声で「大丈夫だから」って、手を伸ばし俺の腕を引っ張ると抱きしめた。


「しつけがなってない駄犬め。クスクスッ。噛みついて自分のものだって示したかったんでしょ?でもさ、僕の心も体も、もう全部が柚樹さんのものだから大丈夫。ちょっと痛いけど、この痛みを感じないくらいに気持ち良くして?大好きだよ」


「み、ミナギ……」


「もー、大丈夫だって。僕、そんなにか弱くないし壊れないから。柚樹さんが尻尾巻いてしてくれないんなら、僕が襲っちゃうからねっ」


「うあっ!ちょ……っ、ミナギ!ほんとキツいから、そんな締め付けんな。ったく…………噛んじまってごめん。けど、無理はするなよ」


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