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ナツメと安倍晴明
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しおりを挟むそのままスッと手の平が退けられると、目の前にマクベスが立っている。心配そうな顔のマクベス。
「彼のことが嫌いか?いや、違うな。どうでもよくなってしまった、か?」
そこに立ってあたしの方を向いているのが申し訳なさそうにうつむくマクベスの姿が、あたしの瞳に映っている。彼は、何も言わない。
本物のマクベスじゃない。晴明様が見せる幻術。だってここはあたしの夢の中だもの、マクベスはいないわ。いるわけがない。
この夢の世界は、壊したあたしの心の残骸でできた世界。心を壊した日に見る夢はいつも、こんな風にあたしの本心が夢になる。
いつも、晴明様に会いたいって思ってるんだもの。いつも、夢に晴明様が出てくるの。でも、これもあたしの心が見せるニセモノの晴明様。
だから本心を打ち明けることはしない。夢だから、夢だからこそニセモノに縋ったりなんかしない。
目を閉じて「消えて。早く夢から覚めてよ」と声に出す。するとたちまちマクベスは悲しげに薄れて消え、晴明様はやれやれと溜め息を吐いて霧散した。
そうして夢から覚める。悪夢のせいで気だるくて重い体をしかりつけ、いつものようにマクベスと一緒に鬼を探しに行く。
はずだった。いつもならそうやって夢を終わらせているのに、今日は夢を拒絶しても2人の姿が消えてくれない。
「残念だったなぁ、この私は本物だぞ?あのマクベスは私の幻術だがな。お前の心から悲痛な叫び声が聞こえてなぁ。つい、干渉しに来てしまった」
そう言って、自称本物の晴明様はあたしの胸を指さして微笑んだ。ううん、何を考えてんのかわからない、ニヤァリ。
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