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酒吞童子と茨木童子
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しおりを挟む震えた。酒呑童子の左手はさらに力を籠め始め、鋭い爪が柄を握るマクベスの手の甲に深く突き刺さる。
ブシュッと真っ赤な血が噴き出し、何とか力づくで振りほどこうとするけれど爪が深くまで刺さっていて抜けない。逃げられない。
酒呑童子の右手が伸びてきてマクベスの首をつかんだ瞬間、あたしは元の姿に戻ってマクベスの背後に回り込んだ。
どうしてそっちなんだって?今戦っている敵は酒吞童子だけじゃないからよ。酒呑童子がマクベスの動きを封じている、このチャンスを彼が見逃すはずがない。
1度は倒れた茨木童子は立ち上がりながら長い爪を突き出し、マクベスの心臓を背後から貫こうとした。
やらせない!あたしにだって意地がある。茨木童子の前に飛び込んだあたしはポケットから護身用に持っていた銃を取り出し引き金を引いた。
バンッ!と飛び出した弾丸が茨木童子の闇が埋まる右目を貫通したのと、彼の爪があたしの右胸を貫いたのは同時。
「ぐ、うっ……ナツ、メ……っ」
「ゴフッ!ゲホッゲホッ!はぁっはぁっ……大丈夫よ。これくらいじゃ、あたし、死なないから。死ねないから……」
あたしには、マクベスには見えているから。その銀色に光り輝く瞳の奥にいる茨木童子の、酒吞童子の姿が。
ずっとずっと奥の暗い檻の中で、頑丈な鎖で縛られ繋がれている2人の姿がはっきり見える。
鬼の頂点に君臨する酒呑童子でさえ抗うことの出来なかった、圧倒的な力。それが羅刹。神様だからってだけで何でもできるとか、面白くないのよ。
だからこの情けない2人に言ってやるの。見せつけてやるの。作り物だった心が本物の心に生まれ変わった姿を。
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