3 / 97
大好きなんです
3P
しおりを挟む勇気を出して声をかけてみたんだけど、彼の深い空色の瞳にあたしは全然映っていないわ。あたしの後ろの、色とりどりのお花達に釘付け。
犬みたいにクンクン鼻をひくつかせて、ゆっくり起き上がるとフラつきながらも周りを見渡す。で、やっとあたしに気付いた?
その距離、約30センチ。近いです。とっても近いのにジィーっとあたしの顔を凝視して、瞬きもしないで動かなくなっちゃった。
そんなに穴が開きそうなほど見つめても、あたしはあなたとは初対面ですよ。「この人誰だっけ?」みたいな顔をしてるけど。
やがて初対面だってわかったみたい。小さく溜め息を吐いた彼が口を開くと「ぐぅぅぎゅるるるるぅーー」と大きな音が鳴った。
「腹が減ったんだ。もうかなり長い間食べてなくて」
あたしよりも頭半個分背が高い彼はうつむいて、中に怪獣がいそうなお腹をさすった。あ、また鳴った。どれだけ食べてないのよ?
「パンとヨーグルトだったらあるわよ?もしかして、お腹がすいて倒れてたの?」
「この町に入って夜になって、何となくさまよっていたらいい匂いにつられて。気づいたら…………いや、そういう普通の食事はいらないんだ」
いわゆる、行き倒れってやつね。明日の分のパンとヨーグルトがあるよと持ってこようとして、あたしの横を彼が通り過ぎた。
フラフラしてまっすぐ歩けない彼が店の中に入って、冷蔵ショーケースの取っ手に手をかけると扉を開ける。
ちょっと、勝手に何をしてるの!?さすがに慌てて止めに入ろうとしたけど、遅かったわ。彼は手を伸ばして真っ赤に色づいたバラの切り花を数本取り出す。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる