花喰みアソラ

那月

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大好きなんです

3P

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 勇気を出して声をかけてみたんだけど、彼の深い空色の瞳にあたしは全然映っていないわ。あたしの後ろの、色とりどりのお花達に釘付け。


 犬みたいにクンクン鼻をひくつかせて、ゆっくり起き上がるとフラつきながらも周りを見渡す。で、やっとあたしに気付いた?


 その距離、約30センチ。近いです。とっても近いのにジィーっとあたしの顔を凝視して、瞬きもしないで動かなくなっちゃった。


 そんなに穴が開きそうなほど見つめても、あたしはあなたとは初対面ですよ。「この人誰だっけ?」みたいな顔をしてるけど。


 やがて初対面だってわかったみたい。小さく溜め息を吐いた彼が口を開くと「ぐぅぅぎゅるるるるぅーー」と大きな音が鳴った。


「腹が減ったんだ。もうかなり長い間食べてなくて」


 あたしよりも頭半個分背が高い彼はうつむいて、中に怪獣がいそうなお腹をさすった。あ、また鳴った。どれだけ食べてないのよ?


「パンとヨーグルトだったらあるわよ?もしかして、お腹がすいて倒れてたの?」


「この町に入って夜になって、何となくさまよっていたらいい匂いにつられて。気づいたら…………いや、そういう普通の食事はいらないんだ」


 いわゆる、行き倒れってやつね。明日の分のパンとヨーグルトがあるよと持ってこようとして、あたしの横を彼が通り過ぎた。


 フラフラしてまっすぐ歩けない彼が店の中に入って、冷蔵ショーケースの取っ手に手をかけると扉を開ける。


 ちょっと、勝手に何をしてるの!?さすがに慌てて止めに入ろうとしたけど、遅かったわ。彼は手を伸ばして真っ赤に色づいたバラの切り花を数本取り出す。



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