64 / 97
両手を広げて
8P
しおりを挟む他の花妖達と違ってあたし達人間を傷つけようとしないし、その衝動を我慢しているようにも見えない。誰かの強い感情に左右されているわけでもなさそうだし。
何より、神々しい。生きてきた年数っていうのもあるんだろうけど、存在が安定していて余裕があるって感じ。
本能に完全に呑み込まれてしまったサボ君を元に戻したし。花妖の世界では確実に上の方に君臨する、神様なのかもしれないわね。考えすぎ?
ミラって、アソラさんと藤の君さんとの話に出てきた3人目の人?名前からして女の人みたいだけど、もしかして……
「アソラのことを知る覚悟があるか?あやつが隠し通そうとしてきた、他の誰にも知られたくない過去を。それも本人の口からではなくわしの口から知るという意味が、よもや分からぬわけでもあるまいな?」
藤の君さんがあたしの顎をつかんで上を向かせる。強制的に目を合わせられ、視界いっぱいに藤の君さんの真剣な顔。
そんなのわかってる。もしもあたしだったら。あたしの黒歴史を知らないところで知られるのはすっごく嫌だし、ものすっごく怒る。
でもそれがあたしを想ってのことだったら。グズグズしたのちに鎮火して、最終的には「ありがとう」って許しちゃうの。それがあたしなの。
アソラさんもあたしと同じだとは思わない。それでもあたしは、まっすぐ深い紫色の瞳を見つめてゆっくり首を縦に振る。
「ふむ…………ならば今宵はもう寝なさい。明日、わしの記憶の欠片を見せてやろう」
今日はもう遅いからと、そう言って藤の君さんはあたしから目を反らし背を向ける。絹のように柔らかそうな長髪が宙を泳いだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる