花喰みアソラ

那月

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手を伸ばして

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 酷いでしょ、弱ってるアソラさんに付け込んでグイグイ行くの。嵐のように激しく降っていた雨も若干落ち着いてきたわね。


 気になるのは、彼がずっと握り締めているひと枝の椿。持ってきちゃったの?


 鮮やかな真っ赤に色づいた花弁の中心に黄色のおしべとめしべのコントラストが美しい、これぞ椿というような。濃い緑色の葉も2枚付いている、明らかに手で折られた枝。


 そのお花、食べたら少しは具合がよくなる?でも食べようとはしない。「ぐぅー」って聞こえちゃったけど。


 彼は何を考えているのか、何も言わずにただ足を動かす。家が近づくにつれて足の運びがゆっくりになって、すごく重い。


 帰ったらまずは冷えた体をあっためないと。シャワーを浴びて、服を着替えて。食べられそうなら栄養をつけて。


 あ。アソラさん、自力でシャワーを浴びられそうかしら?着替えも、あたしが手伝うのは抵抗が……嫌ってわけじゃないんだけど。


 そんなことを考えていると家に着いちゃった。わぁ、アソラさんがものすっごく不機嫌な顔してるわ。


 シャッター開けようとしたら勝手に開いて、中から伸びてきた手が彼をつかんで引きずり込んだ!?


「はぁっ!?離せ!いやだ、この……っ!」


「食べなさい、アソラ。藤には霊力が宿るという。今の弱りきったおぬしにはわしを、強い力を持つ花妖を食べることが1番のエネルギーになる」


 片腕と、体から伸びる茶色いツルで暴れるアソラさんを押さえつける。口元に藤の花を押し付けているのは藤の君さん。


 あまりにも素早すぎてびっくりしたわ。どこからか侵入した強盗かと思っちゃった。


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