花喰みアソラ

那月

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大好きなんだ

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 ――翌朝。アソラさんは荷物をまとめて旅立つ準備を整えた。で、あたしをギューーーーーッと抱きしめたまま離れない。


「いつまでそれでは日が沈んでしまうぞ、暑苦しい。さっさと行って、さっさと戻ってくればよかろうて」


「簡単に言ってくれますけど、辛いんですよ。充電させてください」


「昨晩、十分充電しておったじゃろう?気の弱い男じゃと思うておったが、夜はずいぶんと情熱的になるよのう?本能のままに『愛し――」


「わぁぁぁぁぁっ!!?朝っぱらから店先でやめてくださいよッ!」


 茹でダコのアソラさん、茹でダコのあたし。両手を広げて絶賛光合成中の藤の君さんは「クックックックッ」と楽しそうに笑っている。


 やっと離れてくれたわ。もうちょっとだけって思ってたあたしもいたわけで、残念だけど1歩下がった。


 手でパタパタ顔を扇いで、まるで別人のように吠えるアソラさんの前に立つ藤の君さんに目を向ける。なんか、着物の内側でゴゾゴゾしてる。


「これを持っていきなさい。アソラが花妖との共存を決意し戦う覚悟が出来たら渡してほしいと、ずっと預かっておった」


 そう言って藤の君さんはアソラさんの手に何かを持たせた。手を開くとそれは2センチくらいの黒い、玉を少し欠けさせたような種。


 これ、椿の種だわ。バラの次に椿が美味しくて大好きだって言っていたわね。


「気づかなんだったじゃろう?その子はミラが、花妖にしてしまったが自力で鎮めたのち、この種に宿らせおぬしにバレぬようずっと連れておった子じゃ」


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