惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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死神の神那

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「あんな怖い事件に巻き込まれて、よく無事に生きて帰れたんじゃな?僕なら恐怖でチビっちゃう――」


「4回も死にかけたのに小娘だけが生きているのも不思議だが、2年間で4回も死にかける方が怪しい。これはもう、誰かに相当恨まれているとしか考えようがないな」


「それはないよ旦那っ!」


 人間の恨みほど愚かで恐ろしいものはないぞ?と、俺が大欠伸をした時だった。気の弱いキツネが、珍しくはっきりと大きな声を上げた。


 こいつがこの俺の前で自分の主張を大声で叫ぶなんて、1年に1度もあるかないかというくらい珍しい。あぁ、俺は丸1年ぶっ通しで寝ることもあるから、もっと頻度は低いか。


 とにかく、キツネは俺の世話係で、パシリで、決して俺に逆らうことのできない下僕なのだから、俺に対して態度を大きくするなんて滅多に見られるものではない。


 否。俺が許さない。あとでたっぷり灸をすえてやるゆえ、覚悟しておけよ?


「神那ちゃんは優しい子じゃ!この時代にしてはしっかりした子じゃし、強靭的な強い心を持ってる。誰かに恨まれるようなことなんて何もしてないよ!」


「キツネ君……」


「ほーぉ、ずいぶんと自信ありげだな?家族でもないのに、まるでずっと小娘を見てきたみたいだ」


「うっ……」


「そういえばお前、普段は人間の家に仮住まいしているんだったよなぁ?今住んでいる所が気に入ったって言っていたよなぁ?」


「うぅっ!?」


「キ、キツネ君……?」


 キツネは人間が大好きだ。少しでも人間のそばにいたいからと、人間の町で暮らしている。独り身で自分の家を持っているわけでも、アパートを借りているわけでもない。


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