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ヤモリは家守
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しおりを挟む小娘は「ご、ごめんなさい」と謝ってはいるが。その明るい茶色の目はヤモリをわずかにも映していない。
「それにしても、キツネ君の名前がキツネでヤモリのおじいさんの名前がヤモリなんてネーミングセンスの欠片もないわね。2人はそれでいいの?」
ヤモリからはだいぶ離れているものの、小娘は呆れ顔で俺を見た。そしてすぐにキツネとヤモリに目を向ける。
無理してヤモリを見なくてもいいぞ、小娘。そんなあからさまに嫌そうな目で見られるヤモリがかわいそうだ。
急に話を振られて困惑するヤモリは「名前か、そこまで深くは考えておらんかったのぅ……」と呟いて深く考え始めた。
シワシワのデカいヤモリが、俺の手の上で顎に手を当てて考え込んでいる。なんとも不思議な光景だ。
名前か。そんなもの、呼んで相手に伝われば何でもいいだろう。ヤモリはヤモリだ。きっとヤモリも、俺もそう思っていたのに。
だがキツネはそうでもないらしい。目を輝かせて小娘の手を握り、ブンブンと上下に激しく振る。お前、女嫌いだったよな?
「そうなんじゃ、酷い名前を付けるよな!町でキツネなんて呼ばれたら、周りの人から変な目で見られるのじゃ」
「わしは人型にはなれぬから、別に気にせんがの。ここらでヤモリはわしだけじゃしな」
「ヤモリのおじいさん、見た目の割に心が広いわね。でもキツネ君はよく町に来るんだからかわいそうよ、改名してあげたらどうかしら?」
「町の友達には、一応“狐吉”と名乗ってるんじゃが。古臭いジジイって言われたのじゃ」
「古臭かろうが、人間らしくていいじゃないか。その名前を使ってもらえ。まぁ、俺はこれからも“キツネ”と呼ぶけどな」
「うぇぇぇ、旦那ぁぁ……」
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