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あきづき
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しおりを挟む俺の札では、相手の様子を知ることしかできない。会話ができれば便利なのだが、俺は朔や和比呂のような陰陽師ではないからな。
所詮は堕落した鬼だ。
「その術、初代様に教えてもらったんだってな。暇なら、神那達が来るまで初代様の話をしてくれないか?」
意識を元に戻し池のほとりで岩に腰掛けると、細い棒のようなものを持った和比呂が隣の岩に座った。俺に背中を向け、さらに続ける。
「俺は歴代当主の中でも陰陽の力が強い。この役目は初代様を恨みたくもなるが、誇りにも思う。せっかく与えられた普通の人間とは違う力、極めるなら歴代最強と言われた初代様よりも強くなりたい」
「欲深い奴だ。朔とは真逆だな」
秋月朔は誰にでも分け隔たりのなく平等に接する、優しすぎる馬鹿な男だった。そのうえ才能に恵まれ、かの有名な安倍家ほどではないがひっそりと活躍もしていた。
見た目よし、性格よし、才能よしで、同業者からは鬱陶しがられていた。頼まれたことはどんなことでも決して断らぬ、お人好し。
だから最期は敵対する陰陽師に呪い殺されてしまったのだ。あの時代、呪いは確かに存在した。強い憎悪は災いとなり、災いは病となって朔の体を蝕んだ。
朔ならば呪詛返しもできただろうが、首謀者が誰かわかっていてもそれをしなかった。あいつは馬鹿だ。
俺に「これからも、人の世を見守ってほしい。短命な私のことなど忘れてしまってくれ」と言い残して逝ったのだからな。約束は、できなかった。
それから俺が朔と出会った時のことや思い出をいくつか語ってやった。ついこの前まで朔とアイツと共に、くだらぬ話をしていたような感じがする。
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