惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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永遠の鬼ごっこ

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 今夜も着物姿。それも、黄色の帯を締めた赤い着物姿なんて。血色のような深紅の着物に金色の帯を締めていた酒呑童子を、重ねて見てしまう。


 意識してなのか、無意識なのか。それとも偶然か。おしとやかな歌麿呂にはあまり似合わない。大人っぽい赤なので、いつもよりも艶やかに見える。


 もしかしたら歌麿呂の女性と見間違えるほど美しい容姿でも、貫禄がついて目つきが鋭くなれば。あるいは、この着物も似合って見えるのかもしれない。


「えぇ、本当ですね。とても綺麗な満月。…………あのね。私、昨晩夢を見たんです。彼に会いましたよ。夢の中で会って、話をしました」


「早く体をよこせと、脅されでもしたか?」


「いえ。彼は今までの私を私の中から見てきましたから、1歩を前に踏み出すか後ろに引くかは私に任せると言ってくれました。でも……やっぱり、あなたを想う心はとてもお強いようですね」


 月を見上げていた歌磨呂は視線を俺に向け、笑った。柔らかい表情が、彼がもう決心していることを現していた。


 そうか、酒呑童子が直接な。一体どんな話をしたのだろうな。興味はあるが、それはあえて聞かないでおこう。


 歌磨呂はニコッと微笑むとフラつきながらも立ち上がり、懐からハサミを取り出した。な、何をする気だ?まさか自ら命を絶つことを決めたのではないだろうな?


 と、一瞬は焦った。だがそうではないらしい。慌てて立ち上がった俺をよそ目に、彼は結っていた髪を下ろしそこへハサミを持っていく。


 シャキンッと音を立て艶やかな藍色の髪が、冷たい風に乗って夜空を舞った。


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