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邂逅
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しおりを挟む正直、小紅は浮いていた。
町にやってきたものの、小さな子供のように丈の短い着物に大人の男性用の大きな羽織を着ているので目立っている。
それが恥ずかしくて、背が高い桜鬼の背中に隠れるようについて歩いているのでさらに悪目立ち。
早く正しい着物に着替えたい。そう思っても、口に出したりその思いを悟られるわけにはいかない。なにせ桜鬼と雪の好意での施し。2人を否定するなんてことは、小紅にできるはずもない。
心の中で呪文のように呟きながらひたすら足を動かす小紅は、気を紛らわすために桜鬼が話しかけているのに全く気付かなかった。
「小紅ちゃん?止まるよ」
「わあっ!あ、ごめんなさいっ!つ、着きましたか?」
「いや、まだだけど。大丈夫だから、僕の隣を歩いたらどうだい?周りの人は皆ほら、石ころだと思えばいいよ」
「ず、ずいぶんと大きな石ころですね。すみません。日中、たくさん人がいる町にはあまり来たことがなくて」
「君が今までどんな暮らしをしてきたのかなんて僕にはわからないけど。人の目が怖いなら目を閉じていていいよ。ほら、僕が手を引いてあげるから」
そう言って、桜鬼は小紅の手を握った。ニコッと笑って、また歩き出す。いや、これはこれで。
驚きつつも振りほどくこともできず手を引かれやむを得なく彼の隣を歩く小紅は、別の意味でさらに恥ずかしくなって耳まで真っ赤っか。
彼の歩調に合わせようとワタワタする不格好な自分の足と、踏みしめる地面を見つめて歩く。
対する桜鬼は特に気にする様子もなく前を向いたまま「僕のことはお兄さんだと思ってくれていいよ」と言ってチラッと、うつむく小紅に目を向ける。
兄というより恋人に見えるだろう、どう考えても。わざとなのか?こればっかりは桜鬼本人にしかわからない。
世話好きなのか同情をしているのか何なのか。彼の世話の焼き方は手慣れた感じがする。四男で家を追い出されたのなら、妹ならいたのかもしれない。
年の離れた妹とか。家族から疎まれながらも可愛がっていたのかもしれない。無論、これもただの想像でしかないが。
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