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着物の色
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しおりを挟む「羨ましいな」
「えっ?」
作るのが比較的簡単な味噌汁でも、夜鷹の手料理に間違いない。夜鷹に振る舞われる手料理は、もう2度と味わうことはできない。
どんな具が入っていたのだろう。温かいみそ汁を思い出していた小紅は聞こえてきた寂しげな声に目を開け手を下ろした。
「僕は夜鷹様の手料理を食べたことがないんだ。今度振る舞ってくれるって約束を交わして、果たす前に死んじゃったから」
「あ……ご、ごめんなさい。私……」
「あぁ、いいんだよ。残念だったけど、夜鷹様の料理の味は和さんがしっかり引き継いでいるから。他の皆も認める腕前だよ」
話しながらゆったりと町を歩く2人。毎日の食事は当番制らしい。今日の当番はちょうど和鷹と雪のようで、和鷹がみっちり雪に料理のイロハを教え込んでいるんだとか。
普段は和鷹のお説教は右から左の雪。けれど料理だけは、花嫁修業だといつも真剣に取り組む。その割には全くと言っていいほど上達しないのが難点。
掃除、洗濯、縫物なんかはとっくの昔に諦めた。鳶が、全部やってしまう上に完璧なのだ。なので余計に、料理だけはと、意気込む。
屋敷の修繕は鳶と雪と帰っていてほしい高遠と、参加するかどうかはわからない黒鷹と和鷹に任せて。桜鬼は夕方まで町を散策するようだ。
ただの気分転換か、小紅の事情を探るためのものか。どちらでもいい。
「夕餉は皆さんバラバラなのですか?それとも、どこかに集まって一緒に食べるとかでしょうか?」
「よっぽどのことがない限り、朝餉と夕餉は皆で広間に集まって食べるよ。でもたまにお客さんが来て一緒に食べることもある。今晩も1人来る予定なんだよ」
桜鬼の言う“お客さん”とは。鷹の翼が作られた時から贔屓にしてもらっている、鷹の翼に何かと協力してくれる裏の店の者達のことだ。
武器の手入れをしてくれる鍛冶屋、猫丸が面倒を見ている猫の病気やケガを手当てしてくれる獣医、彼ら自身のケガや病気を診てくれる医者。
それから、藩主の政やお家事情、他人に知られたくない裏事情や町で流行っていること。町人の色恋話から家族構成や貯金額、夕餉の献立など超個人的な話まで。ありとあらゆることを知っている情報屋。
今晩やってくる予定になっているのはその、どうやって情報を仕入れているのか謎な情報屋。
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