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影
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しおりを挟むしかも、釘を選ぶのも間違っている。明らかに長すぎる。半分しか打っていないのに貫通した下部分が飛び出ていた。
これはもう、下手だとかいう次元ではない。明らかに、わざとだ。文句を言いながらも下から打って釘を抜こうと奮闘する雪の肩を、高遠が「どけよ」と叩いた。
釘抜きを手に「俺様がやってやるよ」と雪と代わる。慣れた手つきでコンッ!と下から打つと釘抜きを持ち替え、ほとんど角材を傷つけることなく1発でかわいそうな釘を抜いてみせた。
さらに、抜いた釘を石の上で打って上手いこと、ほぼまっすぐに直して適正な場所に打ち込んだのだからお見事だ。高遠の腕は、大工の棟梁も目を剥くほどのもの。
「高遠さんは意外と器用なのですね」
「あぁん?なぁーんか、聞き捨てならねぇ余計な言葉が混じってたような気がするぜぇ?」
「いえ、気のせいです。こんにちは千歳さん。黒鷹様に御用でしょうか?あいにく、今は和鷹さんとお話し中なのですが」
つい本音がポロリ。高遠の扱いにも慣れてきた小紅は怯えることも緊張もせずシレッと流すと、千歳の方を向きお辞儀。
チラッと狐モドキの姿を探すが、今日はいない。ちなみに、豊かすぎる胸の谷間に白い紙も見えない。
「今日はクロポンじゃなくて、小紅ちゃんに“御用”よ。2人きりで話がしたいの。いいかしら、雪?」
笑みを浮かべながらそう言う千歳は、しかし黄色い瞳は真剣そのもの。小紅の肩に手を置き「おねがぁーい」と、大人の色香が漂う妖艶な笑みに変えて雪を見つめる。
「小紅ちゃんには線引きをしてもらおうと思っとったんやけどな。千歳さんの頼みやったらしゃーないわ。……てことや、高遠、線引きもよろしゅうな」
「はぁっ、何で俺様!?んなめんどーな線引きなんか猫丸にでも――あぁ、使えねーの忘れてたわ」
「すみません。千歳さんとのお話が終わったらすぐにお手伝いしますので、それまではよろしくお願いします」
「人手が足りねぇんだ、さっさと戻ってこいよ。その…………線引きくらいは頼んでやるから、来るときに美味い茶を持ってこねぇとシバくからな!」
どうやら高遠は小紅が淹れたお茶が気に入ったようだ。言い方はどうであれ、小紅との距離が少しは縮まったのだと思いたい。
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