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浅葱色の想い
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しおりを挟む――それから数日後。やっぱりまだ直っていなかった牢で鎖に繋がれている小紅は自害することなく大人しく過ごしていた。
ただ、生きていた。気が向けば外の音に耳を傾け、また高遠が暴れているとか雪の怪力で何かが壊れただとか。
それ以外は息をして、たまに姿勢を変えながら瞑想。定期的にやってくる彼らに与えられる食事を摂取して、厠に行き、風呂にも入れてもらえる。不自由はない。
「やぁ、何か企んどんの?」
「何も。今日の見張り当番は鳶さんと雪さんですか。私なんかを生かしておいても良いことなんて何もないのに」
ある日、雪がおにぎりとお茶を持って牢にやってきた。さも当たり前のようにに鳶もついてきていて、声を発することなく雪のそばにピッタリくっついている。
その様子に慣れているのか、雪は全く気にすることもなくおにぎりとお茶を小紅に渡すと鉄格子を挟んで向かいに腰を下ろした。
「高遠よかマシやろ。小紅ちゃんをどないするかは頭領が判断する。午後から来るみたいやったで?なぁ鳶?……鳶?んな、立ったまま寝たらあかんで!」
「ん…………あぁ……すまない。目が覚めた」
笑いながら話を振るも反応がない鳶を振り返れば、彼は目を閉じていた。この短時間で立ったまま眠っていたのだ。
パンッ!と顔の前で手を叩いて素晴らしい音を響かせ、雪は鳶の両頬も軽くパンパンッと叩く。手慣れているな。
そこでようやく、特に驚いた様子もなく目を開き顔を上げた鳶の頭の上に、背伸びをして伸ばした手を乗せナデナデ。
「おはようさん。次寝たら鳶もこの牢の中に閉じ込める――」
「それはだめだ」
とても返事が早かった。いつもは口数も極端に少なく声も小さい鳶が、素早くはっきりしゃべった。理由は簡単、雪を愛しているから。
とても忍者らしい鳶でも、仕事の時以外は愛する雪のそばにずっといたいのだ。だからほら、頭を撫でていた雪の手をつかんでギュッと両手で握っている。
そして雪もそんな鳶のことをよくわかっているから、意地悪いことを言う。楽しそうに無邪気に笑い、頬を赤く染める。
小紅は何を見せられているのだろうか。和ましいと思いながらも、ちょっと冷めた目でおにぎりを口に運ぶ。
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