175 / 386
浅葱色の想い
5P
しおりを挟む何度も大きく息を吸って吐いて、呼吸を落ち着かせながら顔を上げると鳶が、後ろから雪の目を手で覆い隠しているのが見えた。。
「殺しては、いけない」
「あ……鳶、すまん。なんや、カッとなってしもうて……俺っち……すまん」
「いい。小紅さん、話がある。雪……頭領、呼んで……」
「え、鳶1人にして大丈夫なん?さっきもなっとったし、またなったら小紅ちゃんに逃げられ――あー、そんな顔せんでや。わかったわかった。急いで頭領呼んでくるさかい、しっかり目ぇ開いといてぇな?」
雪の目を塞いでいた手を下ろし腰を抱くと小紅から隠すようにクルリと背を向け、たぶん口づけをした。
不自然に前かがみになっていた鳶の背中がまっすぐになり、小紅の方を向き直ると彼は目を反らす。おーい、自分からしておいて頬が赤くなっているぞ。
我に返った雪は雪で一瞬の放心状態ののち、可愛らしく朱に染まった顔を隠すように牢から飛び出していった。逃げたな。
雪を我に返らせるためとはいえ、小紅の目の前で口づけなんて。もういつもの忍顔に戻っているし、うつむいて少し何かを考えていたが、顔を上げて手を差し出す。
黒鷹もそうだが、鳶も何を考えているのかがわからない。もしかしたら何も考えていないのかもしれない。
差し出された手を見つめて、小紅は目の前の手をつかんでみる。するとすぐにグッと握り、力強く引き立たせられる。
元からとんでもなく寡黙な鳶と2人っきり。雪が心配した通り、手ごわい睡魔と戦っているのか瞬きの回数が多くなった鳶がジッと小紅を見つめる。
話があると言っていたのに、なかなかその話が始まらない。言おうとしているのか、口を開いては閉じてうつむき、顔を上げて口を開いては言葉が出ないで閉じてうつむくを繰り返している。
結果、しびれを切らした小紅が先に口を開いた。
「早く言わないと、私が寝ちゃいますよ?」
睡魔ってうつるのだろうか?小紅まで眠くなってきたらしく、わざとらしくあくびをしてみせた。
そこでようやく、鳶は鉄格子の外に出て鍵をしっかり閉めると鉄格子越しに小紅に向き直る。猛禽類を連想させる切れ長で鋭い目は、睨んでいなくても鋭利。
ただ、目元の力が抜けていて鳶が比較的落ち着いていることがわかる。何か決断したか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる