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約束
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しおりを挟む過去の話は雪にとって辛いものだろう。さわりを聞いただけでも、良い話には聞こえなかった。歪んだ大人達に弄ばれた人生を歩んだような、遠い目をしていた。
けれど彼女はニカッと笑うと、鳶の頭に手を乗せワシャワシャワシャーッと乱暴に撫でる。
「えぇねん。小紅ちゃんが全部しゃべってくれたんやもん、俺っちもしゃべりたいんや。鳶のことも猫丸のことももう知っとるみたいやしなぁ?」
そう言って、ちょうど足元に転がってきた高遠の背中を蹴った。
「いだっ!?なんだ雪かよ。今の見てたか?連続攻撃の直後に、俺様があいつの足を蹴って鉤爪を――どわぁっ!?」
「へぇ、僕から1本取ったからってずいぶん余裕じゃない?折られて片方の鉤爪は使えなくなっちゃったけど、実は僕、素手で殴るのも嫌いじゃないんだよねぇ」
「はぁっ!?おっおい、ちょっと待っごあっ!ケホッ!こんの野郎、素手でも手加減しろやぁ!」
どうやらようやく高遠は勝てたらしい。目を輝かせて勝利した時のことを自慢しようとして、左側から思いっきり殴り飛ばされた。
右手には鉤爪をはめているが、左手は素手の桜鬼が薄笑いを浮かべながらゆっくり、地面に這いつくばる高遠に歩み寄る。
目が笑ってない。遠くに刃が折れた鉤爪が放られているあたり、高遠にやられてキレたな。桜樹、降臨。
「ギャンギャン威勢のいいクソガキをじっくりいたぶるのも楽しいかも。あぁ、試してみよう。ほら、早く逃げなよ高遠。捕まえてあげるからさぁ……!」
だめだ、完全に桜鬼が新しい扉を開いてしまっている。もう、放っておこう。悪いのは高遠だ。自業自得だ。
再び雪に目を向けると、彼女は鳶の頭をなでなでしながら「俺っちな、両親に売られたんや」と続きを話し始めた。
「お金欲しさに娘売って。俺っちを買うてくれた男は医者か科学者か、俺っちも皆も“先生”言うて呼んどった」
「科学者……もしかして、珍しい雪さんを調べようと?」
「せや。徹底的に調べられたわ。毎日毎日、部屋から全然出られへんで体をいじられる。あれはいつくらいやったろ?俺っちの噂はいつの間にか有り得へんことになっとったんや」
雪に優しく頭を撫でられて、鳶が眠ってしまった。彼女の膝枕で眠る鳶は、やっぱり全然寝息が聞こえない。
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