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広い屋敷、静かな家
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しおりを挟む黒鷹は容赦しない。忠告した通り、高遠の首めがけ刀を振り下ろしたのだ。高遠は驚きのあまり刀を抜く間もなく避けることもできず、動けない。
ザシュッ!と音は聞こえない。血しぶきが舞う、ことはなかった。代わりにガキンッ!と金属がぶつかる音が響き、高遠はギュッと閉じていた目を開く。
「私も、おそばに居させてはくれないのですか?最期の時までそばにいるという約束を破り、私にも刃を向けますか?」
赤黒い眼光が黒鷹の冷たい夜空色の瞳を射貫いている。間一髪、2人の間に滑り込んだ小紅が黒鷹の刀を短刀で受け止めたのだ。
小紅の介入に驚くこともなく、黒鷹は刀を下ろさない。お互いに刃をぶつけたまま、ただひたすら相手の瞳を見つめるばかり。まばたきさえしない。
夫婦だから、心から愛しているからこそ、誰よりも守りたい。その想いは黒鷹も小紅も同じ。どちらも譲れない。
静かだ。
きっと、他の誰にもわからない音のない言葉のやり取りが2人の世界で交わされているのだろう。
最初はあんなにも不安そうにオドオドしていたのに。それが偽りの姿であっても、今、目の前にいる小紅が一回りも二回りも大きく見える。
これが本来の小紅。以上に、さらに進化した魅堂黒鷹の妻の姿。こんなにも、頼もしい。
高遠は後退し、悔しそうに刀から手を離した。小紅は最後のとりで。それまでずっと黙っていたんだ、これで黒鷹が引かなければ小紅達は鷹の翼を出て行かなければならない。
だが、それで諦める彼らではない。あくまで一旦、黒鷹の命に従うだけ。
だってこの屋敷は皆の居場所、家なのだから。1度は追い出されても、必ずまた戻ってくる。一家の大黒柱、黒鷹を救うために。
だから桜鬼も高遠も、小紅に託した。付き合いは1番短くても、彼女は黒鷹の1番の理解者だから。
「…………そう。ご自身で進む道を、決めたのですね。では私も決めさせていただきます。黒鷹様に従い、ここを離れると」
やがて2人は同時に力を抜き刃をしまう。小紅は、クルッと背を向けた。
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