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零落
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しおりを挟む「…………あーあぁ、子供ってほんま怖いわぁ……あは、あははっ……あはははははははははっ!」
やっとの思いで絞り出した声は言葉を紡いだ。情けない声だ。笑っているのに震えている。また黙って、そして肩を震わせて笑う。
もう大爆笑。だから、今の時間を考えろって。
ついには腹を抱えて笑いだすものだから、猫丸は驚いて白猫を胸に1歩下がった。手合わせに集中していた高遠と鳶も何事かと一時休戦。
「あははっ、はははっ……あ、すまんすまん。大丈夫やからどーぞ続けてや。鳶、それ終わったら子作りするで!猫丸のため、それに俺っちもなんや急に欲しゅうなったんやっ」
「こづっ!!?おいおいおいおいおいおい、いいいいいいきなりそんなでけぇ声で言うことじゃねぇだろうが!あーもう、止めだ止めっ!冷めてやる気が失せやがった」
雪が壊れた。いきなり大爆笑したかと思えばこっぱずかしいことを大声で。見ろ、鳶まで「雪、頭でも打ったか?」と心配しているぞ。
駆け寄ってきた鳶を見れば体のあちこちに小さな切り傷がある。あの高遠が、素早さで1番を誇る鳶に攻撃を当てた。
このまま続けていれば確実、高遠は鳶から1本取っていたな。まぁ、その高遠は湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして逃げだしてしまっているが。
壊れたというより吹っ切れたか。上機嫌の雪は猫丸から白い猫を受け取ると抱き上げ、頬をスリスリ。
「猫丸の言うとおりや。今までも好きなようにして、思うたことは素直に言うてきた。そう思うとったけど、まだまだ悪党の割に傲慢が足りひんかったんや。せやからもっと、自分に我が侭になったる!」
心配していた鳶の目元から力が抜けた。フッとわずかに微笑み、さりげなく雪の肩を抱く。妻を愛する夫の微笑み。
腕に抱いているのは白い猫だが、その様子はまるで我が子に微笑みかけ幸せを噛みしめている夫婦そのもの。
猫丸は本当はこれを見たかったのかもしれない。生まれてすぐに親に捨てられ山猫に育てられてきた彼は、両親というものがあまりわからない。
町で自分と同い年くらいの男の子を連れた夫婦を見かけることもあったけれど、実感がわかなかった。
これが普通の家族、普通の親子なんだなぁと記憶するだけ。自分は、普通ではない。
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