331 / 386
イヌとサル
6P
しおりを挟むつまり、雪の最大の長所である怪力にさらに磨きをかける。意外や意外、1番期待していなかった高遠の案が1番雪が雪らしく強くなれる。
だからその日から雪は強さを鍛えた。毎日毎日、時間さえあれば前よりもかなり負荷を加えた鍛錬に勤しみ力をつけた。その結果、新しい武器を手に入れたのだ。
「そうか、風……風圧を武器にしたんだねー。どうりで、完璧に避けたはずなのに吹っ飛ばされるわけだー」
「それだけやないで。けど、これで間合いなんかは関係なくなったで。むしろ沖田の方が近づけへんやろ?形勢逆転ってやつやなぁっ!」
硬く握りしめた拳を素早く、かつ全力で突き出せば圧縮された空気が拳から打ち出される。見えない風圧の拳が襲いかかる。
実際に雪の拳を直接食らうよりも威力は多少なりとも落ちるだろうが、当たる距離はこれで広く長くなった。けれど、所詮は拳の延長。直進しかしないし距離が空けば威力は落ちる。
それでも、雪が手に入れた新しい武器だ。これがあれば沖田に勝てる。この戦いが終わったら高遠に昼飯でも奢ってやろうと、雪は決めた。
そのためには沖田を倒して生き残らなければ。大きく息を吸い込み、振り上げた拳を思い切り振り下ろす。今度は沖田に向けてではない。
勢いよく振り下ろされた拳は地面を叩き、割れた。陥没もしたが今度は地割れ。とんでもない爆音を轟かせながら地面が割れて隆起し、沖田の方へ一直線に向かう。
さすがにこれにはギョッとした。人間技ではない。大きく飛び下がるも地割れの方が早く、足を取られて転倒。
新しく手に入れた武器は、風圧だけではない。気配を感じ、倒れながらも刀を突き出す。すると沖田の白っぽい頬に真っ赤な血が線を引いた。
「か、はっ!ぐ、うぅ……ん、なぁッ!!」
女性のものとは思えない、やけに薄い雪の胸に刀が刺さっていた。心臓がある左ではなく右側、それも少し下の脇のあたりだが。
沖田が刀を引き抜くと傷口から一気に噴き出し、口からもゴポッと大量の血があふれる。
地割れに足を挟まれ倒れた沖田の上に倒れ込む雪は血を吐きながら、根性でそのまま拳を振り下ろす。逃げ場がない。あんな豪力をまともに食らえば死に至る。
覚悟した。このとんでもない力にはかなわない、負けて死ぬと。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる